「うきゆい」――揺れた心を、もう一度結び直す

大国主命と須勢理毘売命。


八十神たちとの困難を乗り越えたあとにも、二人の心が荒れたことで、国造りに新たな行き詰まりが生まれたと『古事記』には記されています。


どれほど深く結ばれた二人であっても、その心がいつも穏やかであるとは限りません。


人と人とは、どのように心を結ぶのか。


そして、嫉妬や不信によって心が揺れ、二人の関係が壊れそうになったとき、どうすればその結びつきを取り戻すことができるのでしょうか。


人は、理屈だけで感情を止めることはできません。


愛するからこそ嫉妬し、信じているからこそ、裏切られたように感じて苦しむことがあります。


けれども、その感情に任せて相手を責め、争い続ければ、人と人との関係だけでなく、共に成し遂げようとしていた国造りまで行き詰まってしまいます。


だから大切なのは、嫉妬する心を無理に否定することではありません。


その奥にある悲しみや寂しさ、不安に気づき、互いの心をもう一度、素直に確かめ合うことです。


古事記に記された「うきゆい」は、単に盃を交わす儀式ではありません。


揺れ動いた心を隠さずに差し出し、互いの悲しみを受け止め、離れかけた心をもう一度結び直すこと。


素直な心に立ち返れば、人は何度でも結び直すことができるのです。


『古事記』は、人間関係のもつれや心の荒びさえも、ただの失敗として終わらせてはいません。


人と人との間に生まれた苦しみも、自分の心を見つめ、相手の心を受け止め、もう一度結び直すことで、新しい「むすひ」を生み出す力になる。


結びつきとは、一度結んだら決してほどけないものではありません。


揺れたとき、傷ついたときに、そのたびに互いの心を確かめ、結び直していくものなのです。


「うきゆい」は、心が離れそうになったときこそ、もう一度素直になり、新しい二人として歩み始めることができると教えてくれているのだと思います。


全国古事記塾主宰 今野華都子記す


伊勢道場での結婚式の「結盃うきゆい」