インドとイスラエルの関係の珍しい記事です。まさか
インド首相がイスラエル訪問、議会演説でガザ侵攻を擁護 このタイミングで軍事協力を進める背景
六辻彰二
国際政治学者
イスラエルのネタニヤフ首相とインドのモディ首相
- インドのモディ首相はイスラエルを国賓として訪問し、同国の議会でガザ侵攻を支持して喝采を浴びた。
- この前のめりの姿勢の背景には、パレスチナ人の居住地を占領し、排除するイスラエルの手法をインドがコピーしていることがある。
- モディ政権はインド全土でムスリムの家屋を破壊するなど迫害を強めていて、イスラエルのネタニヤフ政権とは「優越主義者」の点で一致する。
「市民の殺害は正当化できない」
インドのモディ首相は2月25日から2日間、イスラエルを国賓として訪問した。モディにとって2回目のイスラエル訪問だ。
イスラエル議会で演説したモディは「市民の殺害は正当化できない」と述べ、満場の喝采を浴びた。モディが強調したのはイスラエルによるガザ侵攻ではなく、ハマスによるイスラエル攻撃だからだ。
人道危機の指摘されるガザ侵攻を露骨に擁護しただけでなく、モディはイスラエルとの軍事協力に前のめりだ。
ガザ侵攻後、対イスラエル武器禁輸が各国で問題になっても、インドは従来通り継続しているといわれる。一方、インドはいまやイスラエル製兵器の最大顧客でもある。
さらに昨年9月、両国はサイバーセキュリティや先端技術開発などをカバーする新たな投資協定を結んだ。
イスラエルの手法のコピー
国際的に孤立しがちなイスラエルが経済成長著しいインドとの関係強化を歓迎するのは不思議ではない。
一方のインドには、「イスラエル方式」への強い関心がある。イスラエル方式とはモディ政権関係者がしばしば用いる言葉で、パレスチナにおける実効支配のあり方を指す。
イスラエル建国と第一次中東戦争が発生した1948年、約70万人のパレスチナ人が難民になったが、入れ違いに現在では73万人以上のユダヤ人がヨルダン川西岸に入植している。
あえて単純化すれば、以下のようなパターンといえる。
軍事的制圧 → 住民の強制退去 → 自国の法律の適用 → 自国民の移住奨励 → 自国経済への組み込み
一方、インド政府は2019年8月、ジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪して連邦直轄地に格下げした。同州はパキスタンとの係争地帯で、人口の大半がムスリムであるため、高い自治権が認められていたのだが、その廃止によってインドの法律がそのまま適用されることになり、州外居住者による土地購入や定住も可能となった。
これに反発する住民のデモが拡大すると、通信は遮断され、数万人のインド兵が「テロ対策」として追加配備された。報道によると、これにともない地元の政治家や実業家が次々と拘束され、州外に連れ出された。
その直後、インドのチャクラボルティ駐米総領事(当時)はある会合で「イスラエル人ができるなら我々だってできる」と発言している。
カシミールだけでないイスラエル方式
ただし、イスラエル方式のコピーはこれだけではない。
その一つに、イスラエルが行ってきたパレスチナ人住居の破壊がある。イスラエルはヨルダン川西岸でブルドーザーなどを用いてパレスチナ人の生活基盤を破壊し、ユダヤ人入植者にとって「住みやすい街」を作ってきた。
一方、近年インド各地ではムスリムの家屋や施設が当局に頻繁に破壊されている。インド政府は違法建築物や犯罪者の建物を破壊していると正当化し、「ブルドーザー・ジャスティス」と呼ぶ。
しかし、対象の選定基準が曖昧で、おまけに令状もない一方的破壊がほとんどだ。そのためインド最高裁は2024年11月にこれを違法と認定した。
ところが、その後も破壊は止まっていない。
対象のほとんどはムスリムの所有物といわれるが、それ以外にモディ政権に批判的な人々のものも含まれる。
2月22日にはパンジャブ州議会の野党議員の自宅がいきなり破壊された。この議員はブルドーザー・ジャスティスを推進する州議会与党を批判する急先鋒の一人だ。
居住地を追われた人々は投票権の行使も難しくなる。それはモディ政権が選挙で有利になることを意味する。
南アジアはさらに不安定化するか
モディ政権の基本理念はヒンドゥー至上主義(ヒンドゥーナショナリズム)と呼ばれる。つまりインドをヒンドゥー教徒の国と捉える考え方で、それは自動的に「異教徒は排除すべき」となる。
インドは独立以来、特定の宗教に特別な地位を認めない世俗国家だったが、モディ政権のもとで急速にヒンドゥー至上主義が台頭した。
それと並行してムスリムをはじめ少数派への迫害も増えていて、米バラード・センターによると、2014年にモディ政権が誕生してからの5年間に発生したヘイトクライムは、その前の5年間の5倍ほどに増えた。被害者の多くは、全人口の14%を占めるムスリムで、モディ政権関係者がSNSなどでヘイトスピーチを拡散することも珍しくない。
研究機関インド・パーセキューション・トラッカーによると、昨年1年間に治安機関に殺害されたムスリムは27人、ヒンドゥー過激派に殺害されたムスリムは23人だった。
ヒンドゥー至上主義者を支持基盤とするモディ政権は、1940年代からパレスチナを支持してきたインドの方針を転換し、「二国家建設」を支持しながらもイスラエルとの関係強化に舵を切ってきた。
これを踏まえて米国人ジャーナリスト、アザド・エッサ氏は、イスラエルとインドの協力の根底には「似たような優越主義者(supremacist)であること」があると指摘する。異教徒とりわけムスリムの権利を否定し、その排除を目指す思想性で両者は一致する、というわけだ。
ただし、イスラエルと同じく、インドのヒンドゥー至上主義も国内のムスリムだけでなく周辺イスラーム諸国との対立をエスカレートさせる。
インドは昨年5月、「宿敵」パキスタンとミサイルの応酬を演じたが、そのきっかけはやはりインド政府直轄地になったジャンムー・カシミールでのテロだった。
さらに近年では、歴史的にインドと良好な関係にあったバングラデシュでも、モディ政権のヒンドゥー至上主義への反動からインドとの対立がエスカレートしている。
地域情勢の緊迫は当事国それぞれに原因があるとしても、インドのヒンドゥー至上主義は南アジアの火種の一つであり続けることは確かといえる。
インド首相がイスラエル訪問、議会演説でガザ侵攻を擁護 このタイミングで軍事協力を進める背景(六辻彰二) - エキスパート - Yahoo!ニュース
