小林正樹監督
さっそくお話。
舞台は 川崎にある森田屋酒店。
ひろ子 (久我美子)は
この家の長男・良一 (佐田啓二)のもとに嫁いで来た。
まだ新婚だ。
森田家には 良一の母 (浦辺粂子)、未婚の妹・泰子 (高峰秀子)
そして弟・登 (石浜朗)がいるが
ひろ子の大きな悩みは この泰子だった。
泰子は戦災で足が不自由になり、恋人は去っていき
そのため すっかり意固地になってしまい
ひろ子を妬み 何かにつけ辛くあたる。
そんな暗くなりがちな家の中を 明るくしているのが
弟・登だった。
「姉さんは足のことで、ひがんでるんだよ」
家族の誰も言えないことを さらりと言う。
この石浜朗さんが とても純な青年でいいんですよ。
貧しく、胸を患っている親友 (田浦正巳)に
店の缶詰まで 持って行ってやり 励まし力づける。
「この空のどこかに
いつか僕を愛して 僕と一緒に苦労して
それでも楽しいと言ってくれる人が 一人だけいるんだ
そう思うと 頑張ろうという勇気が出るんだよ」
そして何より 夫・良一の深い愛。
妻のストレスに気づくと さりげなく表に誘い出し
スクーターの後ろに乗せて 町を突っ走る。
そんなあるとき
昔、戦争前に この森田屋で働いていた
俊どん (大木実)が、突然、訪ねて来た。
俊どんはその頃から 泰子を好きだったのだが
泰子は
足の悪くなった自分を知らない 彼に会う勇気がなく
顔を合わさず 逃げ出してしまう。
泰子が戻ったときは 俊どんはもう帰った後だった。
「おまえに会いたがっていたよ。
それでね、おまえの足の話が出たんだよ」
「なんて言ったの」
泰子が 自虐的な顔で尋ねる。
「それがさ、俊どんケロッとして
お可哀想でも、お気の毒でもない、
おかみさん、足の一本や二本無くたって、
泰子さんは泰子さんですよ」
泰子は顔を隠すようにして 自分の部屋に入ってしまうが
お寿司をぱくぱく食べている登に 母が言う。
「残して置いておやりよ、泣いた後はお腹がすくもんだよ」
そして極めつけ可愛いシーンが、これ!
もの干し場に上がった ひろ子と良一夫婦。
「ね、ここから魔法のボールを投げると
当たった人は幸せになれるのよ」
「よーし、お金の無い人に当たれ!
病気の人に当たれ! 仕事のない人に当たれ! それー!」
「泰子さんにも当たりますように!」
目には見えない 魔法のボールを投げるふたり。
数日後、泰子は 俊どんの故郷に行く決心をする。
「泰子さんにボールが当たったのね!」
![]()
はじめのうちは
この家に 夫と自分二人だけなら
とんなに幸せだろうと 思い続けていたひろ子が
後半、家族5人の
どの顔が見えなくても淋しいと 思うようになる。
早稲田時代は 会津八一さんに師事され
松竹では
木下恵介門下の優等生と 言われた小林正樹監督。
『人間の条件』『切腹』『怪談』『東京裁判』など
重厚な名作を多く遺した 小林監督が
こんなにも ほのぼのとした
秀作も撮られたことに 何だか胸が温かくなります。
1955年度 キネマ旬報主演女優賞 (高峰秀子)
















