雨の降る、深夜のニャン寺。
本堂には、ぽん太とジャンジャン和尚だけがいた。
外は真っ暗。
聞こえるのは、雨の音だけ――。
ぽん太
「今日は雨がすごいな。」
ジャンジャン和尚
「雷さえ鳴らなければ問題ないであります。
拙僧、雨には意外と強いのであります。」
その時。
ぺちゃ。
ぺちゃ。
ぺちゃ。
廊下の奥から、濡れた足音が聞こえた。
ぽん太
「……今、誰か歩いたか?」
ジャンジャン和尚
「聞かなかったことにするであります。」
ぺちゃ。
ぺちゃ。
ぺちゃ。
足音は、本堂へ近づいてくる。
ジャンジャン和尚
「ぽん太殿。
この時間に、誰か来る予定はあるでありますか?」
ぽん太
「ない。」
ジャンジャン和尚
「では、帰っていただくであります。」
ぽん太
「誰にだよ。」
ジャンジャン和尚
「見えない誰かにであります!!」
ぺちゃ。
……ぺちゃ。
足音は、本堂の障子の前で止まった。
ジャンジャン和尚
「止まったでありますぅぅぅ!!」
ぽん太
「静かにしろ。」
すると障子の向こうから、低い声が響いた。
『……いるか……』
ジャンジャン和尚
「いないであります!!
拙僧は本日、休寺であります!!」
ぽん太
「お前はここにいるだろ。」
声は、さらに低く続いた。
『……腹が……減った……』
ジャンジャン和尚
「腹を空かせた霊であります!!
一番、交渉が難しい種類であります!!」
ぽん太
「霊に種類があるのか?」
障子の向こうで、何かがガサガサと動く。
ガサ。
ガサガサ。
ジャンジャン和尚
「お供え物を探しているであります!
本日は本当に何もないであります!」
ぽん太
「さっき、お前は団子を食べてただろ。」
ジャンジャン和尚
「それは拙僧の非常食であります!
霊に渡す予定はないであります!」
そして、声が言った。
『……焼きまんじゅう……いるか……』
ジャンジャン和尚
「焼きまんじゅう!?」
ぽん太が、そっと障子を開ける。
そこには――
雨でびしょ濡れのテツオが立っていた。
手には、大きな紙袋。
テツオ
「門の外まで買いに行ってきた。
焼きまんじゅう、いるか。」
ジャンジャン和尚
「テツオ殿だったでありますかぁぁぁ!!」
テツオ
「何だよ。叫ぶな。」
ジャンジャン和尚
「叫ぶであります!!
なぜ真夜中に濡れた足音で近づいて、
地の底から響く声で“腹が減った”と言うのでありますか!」
テツオ
「雨の日は、声が低くなる。」
ぽん太
「ならないだろ。」
ジャンジャン和尚
「しかも、なぜ最初に焼きまんじゅうの話をしないでありますか!」
テツオ
「聞いたぞ。
“いるか”って。」
ジャンジャン和尚
「恐怖で返事ができるわけないであります!!」
テツオは紙袋をのぞき込んだ。
テツオ
「……あれ。」
ぽん太
「どうした?」
テツオ
「焼きまんじゅうが、一個足りない。」
ジャンジャン和尚
「……何個、買ったでありますか?」
テツオ
「十個。」
ぽん太
「袋には?」
テツオ
「九個。」
ジャンジャン和尚
「拙僧は食べていないであります!!
怖すぎて、口も開けられなかったであります!」
ぽん太とテツオが、ゆっくり顔を見合わせる。
その時。
本堂の奥。
誰もいない、暗い廊下の向こうから――
モグ。
モグモグ。
ジャンジャン和尚
「今度こそ本物でありますぅぅぅぅぅ!!」
テツオ
「……焼きまんじゅう、返せ。」
ぽん太
「相手が霊でも言うのかよ。」
テツオが、廊下の奥へゆっくり歩いていく。
ぽん太とジャンジャン和尚も、恐る恐る後を追った。
柱の陰にいたのは――
焼きまんじゅうを両前足で大事そうに持つ、ジジツー和尚だった。
ジジツー和尚
「……見つかったにゃ。」
ジャンジャン和尚
「ジジツー和尚ぉぉぉ!?
なぜ、そんな暗がりで無言でもぐもぐしているでありますか!」
ジジツー和尚
「テツオしゃんの袋から、一個だけ転がってきたにゃ。
落としたら、もったいないと思ったにゃ。」
テツオ
「拾ってくれたのは助かる。」
ジジツー和尚
「だから、食べたにゃ。」
テツオ
「そこは返せ。」
ジジツー和尚
「でも、もう半分しかないにゃ。」
ジャンジャン和尚
「拙僧は霊よりも、ジジツー和尚の判断力が怖いであります……。」
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