ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦|音楽は分断を越えられるのか【映画レビュー】 | ほくとの気ままなブログ

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彼のタクトは、希望の軌跡を描く


映画「ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦」

 

 

音楽は分断を越えられるのか

一人の指揮者が問い続けた物語


2022年/103分/アメリカ
<監督>

テッド・ブラウン
<キャスト>

グスターボ・ドゥダメル

 

■内容
ベネズエラ出身の世界的指揮者グスターボ・ドゥダメルの栄光と苦悩、そして挑戦に密着したドキュメンタリー。

 

1981年にベネズエラで生まれ、10代の頃から天才指揮者として巨匠たちの薫陶を受けてきたドゥダメル。

2009年には弱冠28歳にして名門ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督に就任し、「TIME」誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選出された。

 

母国の若手音楽家からなるシモン・ボリバル・ユースオーケストラを率いた演奏動画のブレイクや、2016年スーパーボウルのハーフタイムショウへの出演など、ジャンルの枠を超えて活躍を続けてきた。

 

 

しかし本作撮影中の2017年、ベネズエラの反政府デモに参加した若き音楽家が殺害された事態を受け、ドゥダメルは現マドゥロ政権への訴えをニューヨーク・タイムズ紙に展開。

大統領府と対立したことでシモン・ボリバル・ユースオーケストラとのツアーは中止に追い込まれ、祖国へ足を踏み入れることすら禁じられてしまう。

 

祖国の若者たちと交わした

「いつか必ずまた指揮をしに行く」

という約束を胸に、世界各地で挑戦を続けるドゥダメルの姿を、コンサート演奏やリハーサル風景などを多数盛り込みながら映し出す。

 

(映画.com参考)

 

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ドゥダメルの「マンボ」を初めて見たとき、クラシックのイメージが一瞬で塗り替えられた。あの衝撃の理由を知りたくて、この映画をずっと観たいと思っていました。

実際に映画を観てみると、その理由が少しずつ見えてきました。

 

 

リハーサルや本番の様子が豊富に映し出され、ドゥダメル自身の言葉や姿を通して、その音楽への情熱が伝わってきます。オーケストラのサウンドも大迫力で、映像としての臨場感も印象に残る作品です。

 

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■港南台シネサロンという場所で
私の好きな指揮者、グスターボ・ドゥダメルを扱ったドキュメンタリー作品。

興味はあったものの公開当時に見逃してしまっていました。

そこへ思いがけず、横浜の小さな映画館「港南台シネサロン」で上映されているのを見つけ、4/18ようやく鑑賞することができました。

 

初めて利用したこの映画館がなかなか面白いのです。

自動券売機でチケットを購入すると、スタッフの方がその場で番号を書き込んでくれます。

開場時には

「〇番のチケットをお持ちの方」

と呼ばれるという、どこかアナログな仕組み。

103ある座席は自由席。

段差はあまりないがスクリーンはやや高め。

とはいえ、この日の観客は自分を含めてわずか5人。

正直、番号で呼ぶ必要はあったのだろうかと思わなくもないけど、こういう“ちょっとした無駄”も含めて映画館の味わいなのでしょうね。違った意味で新鮮でした(笑)

 

■あの「マンボ」との出会い
クラシック音楽好きの方なら、この世界的に有名な指揮者を知っている方は多いと思います。またクラシック音楽にあまり興味のない方でも、私のブログを読んでくださっている方なら、もしかすると覚えているかもしれません。

 

シモン・ボリバル交響楽団/デュダメルのレビュー — 観客はまるで ...

 

何度か彼の動画を紹介したことがあります。

それは私がグスターボ・ドゥダメルを知ったきっかけでもある、あの「マンボ」です。

レナード・バーンスタインの《ウェスト・サイド・ストーリー》の一曲「Mambo」。

 

シモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率い、全身でリズムを叩きつけるように指揮する姿に、強烈な衝撃を受けました。

クラシック音楽のイメージが一瞬で塗り替えられた瞬間でした。

ご興味のある方は動画ぜひご覧ください。

 

演奏者も観客もノリノリです。

 

 

■エル・システマという奇跡

まずベネズエラという国の背景です。政治的には不安定な状況が続き、経済面でも厳しい現実を抱えています。

 

最近では大統領が拘束された国際的なニュースとして取り上げられることもあり、スポーツではWBCで日本を破って優勝したことも記憶に新しいかもしれません。

 

彼を語るうえで欠かせないのが、そうした国の中で生まれた、貧困層の子どもたちに無償で音楽教育を提供する国家プロジェクト

「エル・システマ」

です。

このエル・システマは、ホセ・アントニオ・アブレウ・アンセルミによって創設された音楽教育プロジェクトです。

 

それは、楽器を持てなかった子どもたちに演奏の機会と居場所を与え、社会とのつながりや文化的に生きる道を開く役割を担っています。

 

 

ドゥダメル自身もその出身者であり、象徴的存在です。さらにエル・システマ出身の若手音楽家たちで構成された「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ」の音楽監督として、世界中の音楽ファンを熱狂させてきました。

 

映画の中には、その熱狂と同時に、過酷な現実も描かれています。

 

ある時、リハーサルにメンバーが揃わない場面。

遅れてきた若者に理由を尋ねると、

「バスが動かなかった」

「道路が封鎖されていた」

と答えます。

それでも参加したくて、大雨の中、数時間もかけて歩いて会場までたどり着いたというのです。

楽器を奏でる以前に、練習場にたどり着くことさえ命がけの現実。それでも彼らは音楽を選び、集まってくるのです。

 

エル・システマが与えたのは単なる教育ではありません。

それは、過酷な環境の中で文化的に生き延びるための「第三の選択肢」であり、精神的な支えだったのです。

 

■栄光の裏にある葛藤
2017年、ベネズエラの政治的混乱の中で、ドゥダメルは難しい立場に置かれます。若い音楽家の死をきっかけに政権へ言及し、その結果、母国への帰国すら許されなくなってしまいます。

音楽で世界とつながりながらも、祖国とは引き離されてしまう。その現実はあまりにも重いものです。

 

 

 

■音楽がつなぐもの
映画の終盤、チリ・サンティアゴでの公演が終わった夜。

ドゥダメルは、かつてベネズエラで共に音楽を学んだエル・システマ出身の教え子たちと食事の席を囲んでいました。

賑やかな笑い声と再会の喜び。

 

その一方で、祖国を離れて暮らす者、そして今もベネズエラに残りながら音楽を続けている者、それぞれの現実が静かに交錯しています。

そんな中で彼はふと真剣な表情になり、こう切り出しました。

「今夜の演奏は素晴らしかった。
でも、少しだけ真面目な話をさせてほしい。」

 

その一言で、場の空気がすっと引き締まっていきます。

彼は続けます。

 

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国が分断され、世界へ散らばっていった仲間たち、そして今も祖国に残り、不安や困難の中で音楽を続けている若者たちの存在。

それでもなお、音楽だけはすべてを越えてつながっているという確信。

 

「僕たちが音を奏でる時、そこには国境も政治も存在しない。音楽は、故郷を想う祈りなんだ。
そして、どこにいても、存続している限り必ず次へ花を咲かせることができるはずだ。」

 

多くを語らずとも、その言葉は静かに場を包み込んでいきました。

「音楽は人をつなぐ」

というテーマが、理想ではなく現実として立ち上がる瞬間でした。

 

※このシーンのセリフはうろ覚えです。だいぶ雰囲気再現なので違っていたらごめんなさい(笑)

 

 

■ほくと的まとめ
グスターボ・ドゥダメルという人物に特別な興味がないと、少しハードルの高い作品かもしれません。それでも、音楽や人間の営みに少しでも惹かれるものがあるなら、静かに心に残る一本だと思います。

 

港南台の小さな映画館で、ほぼ貸し切り状態の中で観たこの作品は、思った以上に深く印象に残るものでした。

 

 

単なるドキュメンタリーではなく、
・音楽が人を救う瞬間
・師弟の絆
・故郷への祈り
・それでも前に進もうとする姿

そうしたものが、静かに、しかし確かに胸に迫ってきます。

 

ドゥダメルの歩みは、単なる成功物語ではありません。音楽と社会、そして政治の狭間で揺れながらも、それでも音楽の力を信じ続ける人間の物語です。

単に「マンボ」の指揮者としてしかほとんど知らなかったドゥダメルの真の姿をより知ることができた作品でした。

 

 

そしてこのような作品を観ると、日本という国についても改めて考えさせられます。いろいろな課題はありながらも、戦争が長く続いていないことや、選挙を通じて自分の意見を表明できる仕組みがあり、それが日常の中で当たり前のように存在していることは、実はとても大きなことなのだと感じました。

 

この映画を観たあとだと、そうした環境が決して当然ではないのかもしれない、という思いが少し強くなります。

 

安心して生活できる日常にあらためて目を向けるきっかけになり、そんな環境をこれからも大事にしていけたらいいなと、ふと考えました。

観てよかった。心からそう思える作品でした。

 

評価:5点満点中3.9

 

(画像すべてお借りしました:一部映画とは関係ない画像も含まれています)