庭の山桜が

今年も見事な花をつけた

春うららかな佳き日

チェ家の嫡男チェ・ダンの

婚礼の日を迎えた

 

まるで山桜の祝福のような

見事な桜色は客人たちの

目と心を癒している

 

 

婚礼が

ガーデンパーティだなんて

にぃにの発想は

さすがオンマ譲りよねぇ

 

 

目のくりっとした

まだ幼い女の子の背中を

トントンとあやしながら

ユニョンは夫であるイサに

コソコソと耳打ちした

 

 

そうだね

 

 

イサは愛する妻と娘の姿に

目を細めながら頷いた

今日の婚礼のために用意した

晴れ着のチマチョゴリは

母娘揃いの薄紅色

二人ともよく似合っている

 

イサとユニョンは数年前に結婚し

ユニョンは

すでに母親になっていて

ウンスによく似た娘を産んだ

そしてお腹の中には

もう一人

秋に出産を控えている

 

夫のイサとは仲が良過ぎて

喧嘩ばかりしているが

なんでも本音で言い合える

稀有な間柄だ

 

夫婦喧嘩は犬も食わない

の典型のような二人は

イサの実家で養父の

チェ・スジョンと同居して

仲良く喧嘩しながら

幸せに暮らしている

 

しかし今のような幸せを

手に入れるまでには

多くの困難があったのも事実

二人はそれを

一緒に乗り越えてきた

 

 

にぃに 

好きな人と結ばれてよかった

幸せになって欲しいなぁ

 

 

ユニョンは晴れやかな

兄の笑顔を遠巻きに見つめ

心の底からその幸せを願い

イサは微笑むユニョンの肩を

そっと抱きしめた

 

タンの結婚が

ようやく決まったのが

昨年の春のことだった

それからはチェ家は

一丸となって今日の日のために

準備を進めて来た

 

新郎新婦は皆に祝福され

二人はチェ家の広大な敷地内に

新しい家を構え

新婚生活を始めることに

なっている

 

 

ユニョン

今日くらいは

夫婦喧嘩しないでよ

おめでたい日なんだから

 

 

きりりとした顔つきで

ムガクシの衣に身を包んで

ユニョンに手を振ったのは

姉のスニョンだ

 

スニョンはかつて大叔母が

率いていたムガクシの

長を継いだ

二十歳を少しばかり過ぎた

若輩者の大抜擢だが

大叔母譲りの大胆さと

母譲りのきめの細やかな

気配りで

上官や仲間からの信頼も厚く

剣術の腕前も

兄に引けを取らないくらいに

精進している

 

 

スニョン 今 来たの?

ええ もちろん今日は

喧嘩封印よ

ねえ?ダーリン?

それにしても今日くらい

その制服脱げばいいのに・・・

 

 

いいのよ

私はこれが正装なんだもの

 

 

スニョンは

王家の女人たちの安全と安心を

守ることに生き甲斐を感じ

ムガクシの職責に

誇りを持っていた

 

 

それにしても賑やかだこと・・・

 

 

スニョンは呟いた

新郎のタンの近くにサンと

ゴンの姿が見える

 

サンは医者になった

今の菊花診療所は

イサが医院長でサンが若先生

と 呼ばれる立場だ

サンは優しく腕が良く

一生懸命な姿は

患者からの評判も良い

 

こうして弟子二人が

診療所をしっかりと

支えていくれているので

ウンスはもうほとんど診察に

出てくることはなくなっていた

けれども

美容相談や健康講座は担当し

相変わらずの人気ぶり

 

そして将軍職を辞して

少しばかり暇になった夫と

のんびり別邸で過ごす時間も

増えた

 

三男坊のゴンは

文官にも武官にもならず

学問を極める博士(パクサ)

になった

特に天文学や数学に秀で

彼の知識と思考力が

この国の文明を

さらなる発展へと導いている

 

 

ガーデンパーティ会場の庭には

懐かしい顔が勢ぞろいしていた

チュンソク夫妻やトクマン夫妻

テマン夫妻にインギュ夫妻

チェヨンやウンスの

昔馴染みの顔に加えて

王宮の関係者や

新郎新婦の招待客など

多くの来客で賑わい

チェヨンとウンスは

挨拶回りに忙しく過ごしていた

 

屋敷の女中たちは

この状況にも慣れたもんで

甲斐甲斐しく働いていて

女中頭のオクリョンが

采配を振るっている

 

料理の評判も上々で

人々の笑い声や

楽しそうな会話が溢れていた

 

そんな中

チェ家がこれほど賑わうのは

若様のトルチャンチ以来かも

しれないと

厨房の片隅に座り

真っ白になった

自分の髪の毛を指でなでながら

ヘジャは昔に想いを馳せて

ほうっと息を吐いていた

 

長年使い込んでいる大鍋

握りグセの付いた包丁

目を閉じていても

どこに何があるかわかる

この場所が

ヘジャは一番落ち着いた

 

ここ数年で

すっかり足腰が弱って

以前のように

キビキビとは働けず

少し動いてはすぐ腰を下ろす

そんな毎日だ

 

歩く足元も

フラフラでおぼつかないし

記憶力も曖昧な部分が

多くなって来て

ついうっかりと

やらかすこともある

 

十九になった孫のタルの方が

よほど女中として

いい働きをしている

ただ・・・タルは

分不相応な夢を見ていて

ヘジャは心配だった

 

母親のオクリョンも

かつてはテマンやイサに

懸想したことがあるから

親子の血はあらそえないと

言うものだろう

 

そのうち現実を見て

落ち着くところに

落ち着くといいのだが・・・

ヘジャの目下の気がかりは

それくらいのものだ

 

 

みなさま

ご立派になられなしたねぇ

成長を見届けられて

ヘジャは幸せ者でございます

 

 

遠くに歓声が聞こえる

ヘジャは深く刻んだしわを

慈しむように

そっと微笑みながら思った

 

年には抗えないものだ

女中として満足に働けない

不甲斐ない自分が情けない

引き際を考えているうちに

もどかしい日々だけが

過ぎている

 

こんな自分と比べて

潮時を見極め

すっぱりと女中をやめた

母ソンオクは

やはり強い人だったと

改めて思う

 

それにしても

こんなに気鬱になったのは

最愛の夫ソクテが

事故で急にこの世を去った時

からだった

 

二人して

遅い結婚ではあったが

仲睦まじく

穏やかな暮らしがあった

 

お屋敷に忠義を尽くし

下支えしているのだと言う

自負もあった

こんな暮らしがずっと

続くのだと

信じて疑わなかった・・・

 

なのに

 

ある日

夫は急に目の前から

姿を消した

 

あの時の深い悲しみ

 

ヘジャの時は止まり

心は凍ってしまった

 

娘夫婦と一緒に暮らし

敬愛する奥様に見守られ

何不自由のない余生を

送っているというのに

心の中にぽっかりと

空いた穴はなかなか

ふさがってはくれない

 

タンの婚礼は至上の喜びで

心待ちにしていたことだ

だがどうしても

心の奥底に溜まった寂しさを

ぬぐいきれずにいる

 

 

ヨボ(あなた)

そろそろ迎えに来ておくれ

 

 

心が苦しいのか

心の臓が悪いのか

胸が痛い・・・

 

ヘジャが片隅で

うずくまっていると

厨房の扉が

ガラガラと開いた

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

顔のシワを

愛しいと思えるほど

上手に年を重ねられたら

いいのにな・・・

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

桜の季節になりました

三月も残すところあと1日とは

本当に早いですね〜

 

さて

今回お届けするのは

チェ家の少し先の未来を覗く

「ご飯が炊けるまで」シリーズです

短編の話となりますが

春(haru)の夢を詰め込んで

お届けできるといいな

と思っております

 

おつきあいくださいませ〜

 

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