ウンスの誕生日から
二ヶ月あまり・・・
屋敷の庭には
スグク(紫陽花)が咲いて
すっかり初夏を思わせる
汗ばむ日が続いていた
カン・ユハのソダンは
遠足でのク王子の一件で
その後 話を聞いた王様から
咎めを受けることは
もちろんなかった
公主様も今まで通り
楽しそうにソダンに通われ
さらにはウ王子も
発想が柔軟なカン・ユハに
師事したいと言い出し
王子教育担当責任者である
パク・インギュを慌てさせる
事態になるほどで
ますます
人気のソダンとなったが
天界式に対抗する勢力に
「王位を継承する者は
しきたりや慣例を重んじ
王宮のソダンで学友達と
切磋琢磨するべきで
私学のソダンでは
帝王学の教育は行えない」と
釘を刺され
ウ王子の帝王学教育は慣例通り
王宮のソダンで行われること
に落ち着いた
けれども
それはそれでよかった
と ウンスは思っていた
せっかく のびのびした
自主性を重んじるユハのソダンが
王子様を取り巻く
政治の場になることを
懸念したのだ
その代わり
ウ王子の気持ちも汲んで
たまには今回のように
公主の兄弟として
行事に参加するもよし
遊びに来るもよし
と言うことになり
聞き分けのいいウ王子が
それ以上
わがままを言うことはなく
チェ家の子供達も
いっそう楽しそうに
毎日ソダンに通っている
ウンスは相変わらず
忙しい日々を送っていて
すでに五年目となった
肝いりの養成所の運営は
順調に軌道に乗り
学生達はウンスや典医寺の
医官達に導かれ勉強熱心に
医官目指して頑張っている
菊花診療所も分院も
ウンスやウンスのやり方を
慕っている患者が
途切れることはなかった
奥向きのことで言えば
母親として
まだ幼いゴンの育児に
手がかかるが
それも兄や姉達の
目配り気配りのおかげで
三つ子の頃のような
大変さは感じていない
遠足の手伝いにも
参加していたウネは
毒舌を封印気味に
菊花診療所の補助作業を
引き受けてくれていて
帰り時刻には
王宮武官を引退した
夫のアン・ジェが
迎えに来る日もあった
ウネさん夫婦も
なんだかんだ
ラブラブじゃない〜
と ウンスがからかうと
腐れ縁なだけだと
苦笑いをしているが
まんざらでもない様子だ
同じく
遠足の場にいたポムは
日々ウダルチ隊長夫人の
務めを果たしながら
チェ家での息抜きも欠かさず
奥に顔を出しては
ウンスやヘジャや
時には患者達とも
話の花を咲かせている
二人の息子はチェ家と同じ
ソダンに通い
長男のミョンはタンの腹心の友
愛娘はゴンと仲が良く
二人がままごとをしている姿は
チェ家の嫁の座を狙っている
ポムにとって何よりの癒しだった
日差しが暑いくらいねぇ
ウンスは仕事が終わり
奥に戻ってきたところで
庭を眺めながら
女中頭のヘジャに言った
ヘジャは仕事上がりで
ややお疲れ気味の女主人を
気遣うように
冷えた柚子茶を差し出しながら
三男坊のゴンは
部屋でお昼寝をしていると伝え
その日一日の奥での出来事など
報告をしている
そお
ポムとミユが来ていたでしょう?
はい ミユ様とご一緒に
ゴン様はお人形遊びをしながら
お健やかにご機嫌よく
お過ごしくださいました
それにしても今日は
暑うございますね
季節は夏でございます
ヘジャはいつもと変わらぬ
優しい瞳で
女主人に返事をする
そお・・・うふふ
ところで奥様
今宵は予定通り
別邸でございますか?
ええ そのつもりよ
明日の朝 子供達が
ソダンに行く前には戻るわ
留守を頼むわね
はい ヘジャにお任せを
ヘジャはうやうやしく
頭を下げた
チェヨンとウンスは
「すいとんてん」の夜以来
ここ数年ほったらかし気味
だった別邸で
一緒に過ごすことが増えた
もちろん忙しい二人のこと
週に一度行ければいい方で
仕事のために明け方には戻る
と言うような感じではあるが
ウンスは案外
別邸暮らしを気に入っている
五人の子供達は
手がかからないくらいに
大きくなって
留守番をさせても大丈夫と
思えるようになったし
何より夫婦水入らずは
二人にとって
かけがえのない時間であり
潤いの時間だ
夜空に浮かぶ星を眺め
温泉に浸かりながら
少しばかりのつまみで
酒を飲み
その日の出来事を話し合う
そんな二人だけの空間は
この上なく居心地が良かった
また ほろ酔い加減で
肌を重ねると
熱い想いが互いにたぎり
求めあって
燃え盛る夜となり
そんな時間も幸せに思える
ここに来てもう随分と経つし
この屋敷が自分の居場所だ
って思えるんだけど・・・
別邸にいるとなんだか
別の意味で新鮮なのよね
まるで二人きりで暮らしていた
新婚の頃みたいで・・・
うふふ
四十路を超えてもなお
魅力的で綺麗で
体つきもほっそりとして
女ならば誰でもが
羨むようなウンスの姿を
ヘジャは自慢に思い
見つめていた
でもねぇ
時折 歳をとったなぁと
思うこともあるのよ
へ?奥様はちっとも
お変わりありませんよ
むしろ
どんどんお綺麗になって
まあ ヘジャもお世辞を
言うのね?
いいえ お世辞などでは
ありませぬ
奥様にお仕えできて
ヘジャは果報者でございます
ありがとう ヘジャ
でも私こそヘジャのおかげで
助かっているのよ
これからもずっとそばにいてね
ウンスはシワシワで
働き者のヘジャの手に
自分の手のひらを重ねて
うふふと笑った
はい
ヘジャにお任せを!
奥様にどこまでも
ついてまいります
ヘジャは女主人の
「うふふ」と笑う声が
好きだった
慈しむような優しい声で
軽やかに笑う姿は
まさに天女に思える
このような素晴らしい女人に
お仕えできることは
女中の誉れと
本気で思っている
ただ このところは
昔のように体も動かなくなり
疲れも残るようになって
寄る年波の
不甲斐なさを感じている
が
大恩ある主人夫婦のために
誠心誠意 真心を尽くそうと
夫のソクテとも話しているのだ
そろそろソダンから帰る時間ね
あの子達
汗をかいているだろうから
湯浴みの準備をしてもらえる?
今日は旦那様のお帰りも
早いだろうから
久しぶりにみんな揃って
卓を囲めそうだわ
今夜のおかずは何かしら?
参鶏湯でございます
滋養がつきますもんで
まあ 素敵!
子供達も旦那様も大好きな
我が家の味だわ
みんな
早く帰ってこないかしら?
イサは往診に出かけているけど
寄り道して
ソダンのお迎えも頼んだの
戻って来たら自宅に帰る前に
参鶏湯をおすそ分けして
あげてちょうだいね
はい もちろんお任せを
あ!チュホンの蹄の音が
聞こえた気がする
旦那様のお帰りよ!
ウンスは立ち上がると
廊下を小走り
新婚の頃は廊下の角で
ついつい滑って
転びがちになっては
チェヨンに抱きかかえられて
いたものだが
今頃は慣れたもので
そんな失敗もなくなった
お帰りなさい!
やっぱり予想通り
帰り 早かったわ!
抱きつくように
チェヨンの胸に滑り込むと
ウンスはうふふと微笑んだ
ああ 今宵は別邸ゆえ
部下に仕事は丸投げして来た
そんなことだろうと
思っていた
チェヨンは
微笑んだウンスを
ぎゅうと抱きしめ
その唇をついばんだ
そろそろ
子供達が帰ってくるわ
ダメだってばぁ
今更 照れて如何する?
それに
あいつらにとっても
見慣れた光景だろ?
大胆不敵な笑みを浮かべ
チェヨンはさらに
ウンスの唇に唇を重ねる
とっ とにかく
夜まで我慢して
じゃないと・・・
私の方が・・・
おかしくなりそう・・・
思わぬ告白に
下腹部の疼きが
止まらなくなりそうで
チェヨンは慌てて口走る
わかった
理解した
夜までの我慢だな
うふふ
しょうがない人ね
私の旦那様は
なじる声にも
甘いときめきを感じ
チェヨンはこらえきれずに
もう一度 口づけた
柱の陰から
こっそりと
主人夫婦のやり取りを
見ていたヘジャは
いつものようにぼそりと
つぶやく
チェ家は今日も
安泰でございます
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『今日よりも明日もっと』
笑う門には福来たる
うふふ あはは えへへ
笑い声は希望の光
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四月のウンスの誕生日から
始まったお話も
二ヶ月かけてようやく十五話
筆の遅さを
申し訳なく思いつつ
今回のタイトルも
なんとか完走できたことに
安堵しております
ウンスが着の身着のままで
高麗にたどり着いて
そこから始まった新しい暮らしも
気づけば十年を超え
子供達もすっかり大きくなりました
この先 どこまで
お話を描いていけるだろう??
最近はひしひしと
そんなことばかり考えますが
ゆっくりと
子供達の成長を見守り
ヨンとウンスのこれからを
見つめていけたらいいなぁと
思っております
どうぞまた
おつきあいくださいませ