- キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌/シンハ・ヤコボビッチ/チャールズ・ペルグリーノ
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2006年1月30日の午後、最初の試料瓶を開けるころには、もうボブもプロジェクトの全容を聞かされていた。
なにしろ30年にわたって中立的な立場から無数のサンプルを電子顕微鏡で調べてきたベテランだ。
予見に左右される男ではない。
それでもイエス・キリストや彼の妻だったかもしれない女性の骨相から採取したサンプルを分析し、精査するのは初めての体験だ。
いやでも胸が高鳴る。
それでも作業中はプロ意識が勝っていた。
鑑識官たる者、死してもの言えぬ者の利益を守るのが仕事だ。
そのプライバシーに立ち入ることは許されない。
EPMAでの「ヤコブ」のスペクトル分析
EPMAで最初に 「ピンを打った」 のは、墓の北東の壁面、遺体を安置した岩棚の1つから採取した石灰質の基質とパティナだ。
ちなみに、この 「ピン」という表現はぼくが海軍用語から拝借した (うちは船乗りの家系なのだ)。
EPMA=電子線マイクロアナライザーは、物質の表面に電子線を照射して、それぞれの元素に固有の波長をもつエックス線を検出することで、その物質がどんな元素から構成されているかを分析する。
ちょうど、音波を発射して (つまり「ピンを打ち」)、はね返ってきた音波で潜水艦などを探すソナー(音波計測装置)のようなものだ。
墓の壁面と骨相の材料となった石灰質の基質は、主として古生代の生物の殻に含まれていた炭酸カルシウムに由来する。
基質の分析結果は、炭酸カルシウム基質から予想されるとおりのものだった。
カルシウム、炭素、酸素が主で、アルミニウム、珪素、リン、鉄を示す信号もぎりぎり識別できる程度見られる。
予想どおり壁面のパティナにも同じくカルシウム、炭素、酸素が多く含まれていたが、その下の基質とは違っていた。
モニターの画面で見ると、元素スペクトルはプリズムによる光のスペクトル分解に似ている。
電子レンズを通して細く絞った電子線を化合物に当てると、ちょうど光が虹の七色に分かれるように、各元素ごと
に長さの異なる縦の筋が伸びるのだ。
墓壁のパティナの元素スペクトルは珪素を示す信号が顕著で、パティナの下の基質に見られる一般的な石灰岩の組成とは異なっていた。
しかし、興味深い事実 (これがのちに「指紋」となる) も判明した。
マグネシウム、アルミニウム、リン、カリウム、そして何より特徴的なことに、かなりの量のチタンと鉄が含まれているのだ。
さらに壁と天井から採取したサンプル12個を分析し、単なる偶然の一致ではないことの証明を得た。