- キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌/シンハ・ヤコボビッチ/チャールズ・ペルグリーノ
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分譲アパートの床下にキリストの墓がある?!
エルサレムのマバネ・イェフグ市場には2 1世紀のイスラエルが凝縮されている。
ユダヤ人とアラブ人へユダヤ教徒キリスト教の聖職者、敬慶な信者と神をも恐れぬ人が入り混じっている。
焼いた子羊の肉があり、揚げた豆があ-、生きたヒヨコも売っている。
私のお気に入りはイエメン人の治療師の店だ。
マクラメ編みのテントの下に患者を立たせ、鼻にタバコの煙を吹きかけて診断し、それに応じて不思議なジュースを処方して-れる。
グァバやザタロやシトロンなど微妙に調合したジュースが消化不良を治し,コレステロールを下げ、運がよければセックスも強くしてくれる。
この素敵に人間-さい場所で'私はヨシに会った。
タルビオツトの墓の上に建つアパートの区分所有者ダビドの長男である。
ダビドは外国のテレビの取材と聞いて、ぴりぴりしていた。
私たちが墓に興味を持つ理由がわからなかったのだ。
それでも、あの墓はいつも幸運をもたらして-れると信じていたから、私たちの取材を受け入れた。
1980年にダビドは、破格の安値でこの分譲アパートを手に入れた。
ふつう、墓の上に住みたいと思う者はいないからだ。
「でも私は気にしないよ」と彼は言った。
「お墓からいつも元気をもらってるの」と'30年連れ添った妻が割って入る。
それでも彼は、テレビの取材やイエスにからむ話題に居心地の悪さを感じていた。
ダビドはトルコ系の正統派ユダヤ教徒である。
ある日窓を開けたら家の前でキリスト教徒たちがいっせいに祈りを捧げているなんて光景は'死んでも見た-ない。
「ヨシと話して-れ。あいつ次第だ」 ヨシはマバネ・イエフダの市場に野菜やフルーツの店を出していた。
正統派ユダヤ教徒の家庭に育ち、兵役を終えてからは以前にもましてユダヤ教の律法を守るようになった。
大学には行っていないが、幅広い教養があ-、と-に宗教と歴史には報々ならぬ興味を持っていた。
イスラエル国防軍の特殊部隊にいたこともある。
「中庭の下に何があるんだ?」。
顔を合わせたとたんにヨシが言った。
「確かとは言えないが、イエスに関わるものだ」「イエスのどこに、なぜ興味がある?」「きみは興味がないのか?」 このひと言でヨシは笑い出した。
「両親が持っているアパートの地下にイエスの墓があるってのかい?」。
信じられないなt と言いたげだ。
「たぶん以前はあった。
けれど-oIX0年に骨相はすべて運び出された」「じゃ、もぬけのからだな」「いや、あの墓にはまだ知られていないことがある。
きちんと発掘されたわけじゃない。
本当にイエスが埋葬された墓だとしたら、歴史的な価値はすごい」「イエスの墓があったらへ キリスト教徒はどうする?」「知るもんか」と、キリスト教徒ではない私は答えた。
「イエスは実在しないと考えてきた人たちは困るだろうが、この諸君はキリスト教徒ではない。
ではキリスト教徒はどうか。
聖書によれば'死したイエスはと-あえず他人の墓に安置されもそのまま姿を消した。
これがキリスト教の公式見解だ。
しかしマタイの福音書には'別な噂もあったという記述がある。
弟子たちがイエスの遺体を運び出し'しかるべき墓に移したという噂だ。
いずれにせよ'キリスト教徒にとって大事なのは 『復活』 の事実であって'どこの墓から復活したかではない。
聖書にあるのとは別な墓だとしても'復活への信仰は揺るがない」「どうしてそう断言できる?」と'ヨシが顔をこわばらせて言う。
「いろんな聖職者に聞いてまわった。
『イエスの遺体が見つかったらどうする?』 って。
困ると言ったのは1人だけで、みんな 『かまわない』 って感じだった。
いったん遺体が運び出され、しかるべき墓に移されてから復活したという仮説をぶつけると'みんな信じられないという顔を見せたが'拒否反応は示さなかった。
はっきり言って'イエスの家族の墓があろうとなかろうと'キリスト教の信仰には関係ないんだ」 私はヨシを安心させるつも-で言ったのだが、相変わらずヨシの顔はこわばっている。
簡単にごまかされる男ではなさそうだ。
私はあわててつけ加えた。
「復活したイエスはその後に昇天するんだが、そのとき肉体ごと昇天したと信じているキリスト教徒もいる。
そういう人は困るだろう。
しかし、この点についてキリスト教の教義はあいまいだ。
復活は肉体的なものだが'昇天は霊的なものだと考える信者も少なくない。
だから、イエスの墓があってもキリスト教徒全体を敵に回すおそれはない」「で、ぼくらユダヤ教徒にとっては?」「関係ない。
ぼくらユダヤ人はイエスを神の子とも救世主とも信じていないけれどへ まあ実在
した歴史上の人物だと教えられている。
そして実在した人物であれば'どこかの墓に葬られているのが当然だ。
かつてのユダヤ王ダビデの末南を自称したイエスなら、その墓がエルサレムにあってもおかしノ-ない。
エルサレムはダビデが君臨した街なのだから」「しかしイエスの墓が出て-るなんて'今のユダヤ人にとっては迷惑な話じゃないか?」「いや」、と私は言った。
「その昔、異教徒がイエスを神と信じるようになると'ぼくたちはイエスの存在を無視した。
当時は、そうするしかなかった。
今は違う。
歴史的な事実として2000年近-前にイエスという男がいたとしても'何も困ることはない。
2世紀の反乱の指導者『星の子』 ことシメオン・バル・コシバと同じだ。
今では誰も彼を救世王とは信じていないが、彼が実在したことは認めている」「確かにそうだ」「ならばイエスが実在したとしても、ユダヤ人は困らない」「しかしイエスを信じるユダヤ人が出てきたら困る--」「だろうな。
だがぼくらは事実を突きつけるだけだ。
解釈は押しつけない。
イエスの墓があるという考古学的な事実を突き止めたい。
それだけだ」 しばら-押し黙っていたヨシが切-出した。
「それで'どうやって墓の中に入る?」「地下の墓地につながるパイプにロボットカメラを入れていて、ここに間違いないと確かめたら、ご両親の寝室の壁に穴をあけて'そこから入る」。
私の返事を聞いてヨシは大笑いし、 私もつられて笑った。
笑ってる場合じゃない、こっちは本気だぜ、とは言わなかった。
おおむね合意ができると、私はこちらの要望を説明した。
まずヨシの家族と独占契約を結ぶこと。
この墓には私たちのカメラだけしか入れない。
次に調査中は家族にホテル住まいをしてもらいへ その滞在費はこちらが持つ。
こんどはヨシのほうが条件を出した。
「まずぼくの家族を映像に出さないこと。
次にぼくたちの家の床下に何があったかを逐一報告すること。
最後に'すべてについて事前にユダヤ教会の了承を得ること」 最後の条件にはび-ついた。
イスラエルでは'宗教と政治は切っても切れない。
しかも教会と考古学者の関係は微妙だ。
考古学者が発掘現場で石を投げられることも珍しくない。
l 方で考古学者は、宗教家を頭が古くて進歩のじゃまをする人間とみなしていた。
ヨシは有名な (あるいは悪名高い) ラビ・シユミ1ドルに会ってくれと言う。
「まずパイプの中をのぞかせてもらって'それで実際に墓があれば'中に入る前にラビ・シユミ1ドルに会おう」 と私は答え、話は決まった。
レスーランにあった紙のランチョンマットの裏に「合意事項」を箇条書きして'双方サインした。
あとは墓を発見してラビ・シユミ1ドルを説得し、イスラエルの考古学者の誰にも許されなかったことをやるまでだ。
2000年前の納骨洞に分け入るのである。
ヨシとの交渉をまとめて2、3週間しても 私はスタッフを連れてイスラエルに舞い戻った。
共同制作者のフエリケス・ゴルベフは'ロシアのサンクトペテルブルクの出身だった。
40代の中肉中背の男で、ロシア語詑-の英語を話す。
フエリクスは細部にこだわる世界有数のドキュメンタリー制作者であ-'私たちは長年一緒に仕事をしてきた。
1996年には、イエスの十二使徒の子孫を迫ったドキュメンタリー『失われた部族を求めて』 の撮影で、タリバンの出没するカイバル峠のパキスタン側で共に仕事をしたこともある。