アメリカ=イラン戦争の見通し

 

目次

1.持続的な出血戦の様相

2.イランの戦術

3.戦略 ~ウクライナの逆パターンの完成

4.サウジアラビアはいつ米国を見限るか

5.イランのミサイル生産設備

6.日本のリスク

 

 

1. 持続的な出血戦の様相

ジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学教授)は、常にバイアス(偏向)なしで冷徹な事実を述べる。それでバイアスだらけの西側の研究機関やメディアによって貶められ干されているが、彼を超える現実主義(リアリズム)の研究者はいない。

彼は、今回のアメリカ=イスラエルによるイランへの攻撃は、イランの政権転覆(レジーム・チェンジ)を狙った大ばくちだと断じている。しかしイランは容易に崩壊する国ではなく、米国の軍事力増強は、イランの抵抗を強めるだけであり、軍事的に政権転覆を達成するのは不可能と予測している(2026年2月)。3月3日、トランプ大統領は「大きな波はもうすぐくる」と言っているが、現状は持続的な出血戦の様相を呈している。

 

西側の主流シンクタンクとされるCSIS(戦略国際問題研究所)、チャタムハウス(王立国際問題研究所)、ISW(戦争研究所)はいずれもグローバリストの研究所なので、いつもバイアスがかかって西側を優位に導く数字しか発表しない。とくにISW(戦争研究所)は小学生以下の知能しかないとしか思えない。しかし今回は口を揃えてウクライナへの継続的な支援(過去4年間)によってパトリオットなどの在庫が少なかったところに、今回のイラン戦でアメリカ側の在庫が急速に底を突くと言っている。

 

 

2. イランの戦術

1)イランの「ミサイル戦略(コストの非対称性)」: 1発の弾道ミサイルを撃ち落とすには2~3発の迎撃ミサイルを撃たなければならない。イランが数百発を一度に撃てば、アメリカ側は1000発単位の在庫を数時間で失う。しかもアメリカの PatriotやSM-3の生産ラインは非常に限定的で大量生産できない。そこでイランは安価なドローン(1機当たり数百万円)で攻撃してアメリカ側の高価なミサイル(1発当たり数億円)を大量消費させている。現状、アメリカは1年分のミサイルの生産量を1日で使い果たしている。それに対してイランの備蓄と生産体制は万全である(→下記5)。

2)「誘導システムの切り替え」: イランは昨年から、誘導システムを米国のGPSから中国の「北斗(Beidou)」に切り替えた。これにより米軍がGPSを遮断・偽装しても、ミサイルの命中精度が落ちない仕組みが完成している。

3)「偵察衛星」: ロシアが打ち上げたイランの衛星「カノープスⅤ」が、アメリカ軍やイスラエル軍の動きを数メートル単位の精度でイラン軍に伝えている。

4)「ホルムズ海峡の空母キラー」: 空母キラーと呼ばれる中国の超音速対艦ミサイル(CM-302)がホルムズ海峡に配備されており、米空母打撃群がペルシャ湾内へ進入できない最大の障壁になっている。中国軍はさらに最先端の信号情報収集艦を近海に展開させてイランの背後を固めている。

 

 

3.戦略 ~ウクライナの逆パターンの完成

1)「ウクライナ戦争の逆パターン」:西側諸国(日本を含む)がイランという底なし沼に引きずり込まれ、中国とロシアが背後からイランを支援し、米国と西側の国力を削っていくすなわち米国と西側を貧困化させていくというシナリオが進行している。

2)中国の「漁夫の利」: アメリカが中東でミサイルを使い果たすことは、中国がアジア太平洋での軍事的優位を無血で手に入れることを意味する。

3)ロシアの「第2戦線」: ロシアにとって中東は、西側の兵器をウクライナから引き剥がすための「第2戦線」である。プーチン政権はイランに「S-400(ミサイルシステム)」や「Su-35(多用途戦闘機)」を提供し、イランを「不沈空母」にしようとしている。

4)現在、米軍内では「これ以上の迎撃弾の浪費は、台湾有事などのアジアでの抑止力を完全に失わせる」という強い危機感が出ている。これがアメリカが早期の「決定的打撃」か、あるいは「強制的な停戦」を模索する最大の理由だ。

5)「第三次世界大戦誘発の懸念」: 現在の戦況は、「米・イスラエル」対「CRINK(中国・ロシア・イラン・北朝鮮)」という構図が鮮明。この戦争が1ヶ月以上長引けば、米国の対中抑止力はゼロになり、世界は文字通り『多正面作戦』、すなわち第三次世界大戦の入り口に立つことになる。

6)「今後の予測」: 中国の外交系シンクタンク(CIISなど)は、この衝突を「多極化する世界への過渡期」と見ている。すなわちアメリカの一極支配の崩壊ということだ。

 

 

4.サウジアラビアはいつ米国を見限るか

1)サウジアラビアが米国を完全に見限る時期は、「今回のイラン空爆の結果、米国がイランの報復を完全に防ぎきれないことが露呈した直後」、つまり、この1ヶ月以内が最大のヤマ場だ。もし米国がイスラエルの暴走を止められず、中東全体が火の海になれば、サウジは自国のインフラ(Vision 2030)を守るために、米軍を追い出してでも和平することになる。そうなる前に、中国の仲裁によるイランとの再和解に照準を合わせていると考えられる。

2)現在の軍事衝突の裏側にあるのは「ドルの覇権(ペトロダラー)」を巡る金融戦争の延長だ。バイデン政権のマヌケぶりから2024年に期限を迎えた「ペトロダラー協定」であるが、その後もアメリカによる巻き返しの暗闘が続いている。しかし現在、サウジアラビアは中国向けの石油販売の一部で「デジタル人民元」や、BIS(国際決済銀行)の非ドル決済を既に開始している。2026年1月時点で、サウジアラビアと中国の間の非ドル決済額は550億ドルを超えており、これはもはや「試験運用」ではなく、ドル決済の「代替インフラ」として機能している。

3)アラブ諸国が「米国を見限る」タイミングも上記1)と同じである。アメリカの安全保障能力がイラン(および背後のロシア・中国)を抑えられないことが証明された瞬間だ。

 

 

5. イランのミサイル生産設備

イランは2025年の紛争後にミサイル生産拠点を地下へ分散・強化した。今回のイスラエルの攻撃でイランは地表の「ミサイル発射台」の半分が破壊されたという報告もあるが、ミサイルなどの在庫と生産設備は地下基地にあってフル稼働している(2026年3月)。

主な地下施設

セムナーン・コンプレックス イラン最大のミサイル拠点。開発・試験・生産を一貫して行う。地下深く(500m級)にあり、通常の空爆では破壊不可能とされる。

ラー・ミサイルセンター: 「地下ミサイル都市」の異名を持つ。迷路のようなトンネルに数百の発射台。イスラエルの攻撃を受けたが、分散配置により生産ラインは維持。

ホラムアーバード拠点: 主に中距離弾道ミサイル(シャハブ-3)の貯蔵庫。2025年に攻撃を受けたが、コンクリート多層防御で核爆発にも耐えうると分析。

イスファハン生産工場: 中国・北朝鮮の技術協力で建設。固体燃料ミサイルの心臓部。ここで年間1,200〜1,500発の増産が可能。西側の空爆後も被害を修繕しながら稼働中。

 

 

 

6. 日本のリスク

日本にとって最大の脅威は、エネルギーと物流の遮断である。

1)ホルムズ海峡の「物理的・心理的封鎖」: 現在、日本の原油供給の約9割がここを通る。イランが「機雷」や「高速艇による飽和攻撃」を仕掛けた場合、物理的に封鎖されなくても「船舶保険の停止」により民間タンカーは航行不能になる。日本の備蓄(石油公団・民間合わせ約254日分)は十分だが、問題は「価格」と「LNG(液化天然ガス)」だ。LNGは石油ほど備蓄が効かず、数週間で電力逼迫が始まるリスクもある。

2)中国による「対日輸出規制」の連動: 2026年1月より、中国は日本向けに「デュアルユース(軍民両用)品」の輸出禁止を決定した。これには電子部品、センサー、特殊合金が含まれる。イラン戦に乗じて中国がこの規制を強化すれば、日本は「エネルギー不足」と「ハイテク製品の生産停止」というダブルパンチに見舞われる。

3)イラン側の主目的は、米国に中東でミサイルを使い果たさせ、同時に日本や欧州の経済をエネルギー価格高騰で疲弊させることだ。アメリカの東アジアでのミサイル在庫が枯渇した瞬間、中国は台湾や尖閣諸島に対して『決定的な行動』に出る好機を得ることになる。トランプ大統領の強気の発言もあるが、念のため各家庭でも灯油やトイレットペーパーの備蓄を整えておいたほうがよい。

 

 

 

 

 

(次回は歳時記余話3月7日です。)