みなさまは、下記の本をご存知でしょうか。

 

キャサリーン・ネヴィル「8(エイト)」

シャーリー・コンラン「悪夢のヴァカンス」

スティーブン・グリーンリーフ「匿名原稿」

アンドリュー・ヴァクス「赤毛のストレーガ」

ミッチェル・スミス「ストーンシティ」

ドナルド・A・スタンウッド「エヴァ・ライカ―の記憶」

稲見一良さん「セントメリーのリボン」

真保裕一さん「連鎖」

花村萬月さん「笑う山崎」

高村薫さん「黄金を抱いて翔べ」

藤田宜永さん「還らざるサハラ」

清水辰夫さん「行きずりの街」

井上尚人さん「TRY」

大沢在昌さん「闇先案内人」

藤本泉さん「時を刻む潮」

梶龍雄さん「透明な季節」

高柳芳夫さん「プラハからの道化師たち」

中津文彦さん「黄金流砂」

麗羅さん「桜子は帰ってきたか」

鳥居加奈子?さん「天女の末裔」

鷹羽十九哉さん「虹へアヴァンチュール」

三好徹さん「モナリザの身代金」

etc

 

日本作家さんの作品は、けっこうご存知かも、ですが。

「8」や「悪夢のヴァカンス」あたりはどうでしょう。

「8」は「フランス革命期を主軸に時空をまたいだミステリー。探偵役は、あの煮ても焼いても食えぬ政治家タレーランの若かりしころ」という壮大な作品でございます。

 

これらの作品は、主として前世紀末に刊行され、一世を風靡したミステリーの人気作品。「時を刻む潮」と「天女の末裔」以外は、年末恒例の文春のミステリー・ランキングに名を連ねております。

「8」は好みの設定なので「図書館の予約150人待ち」で借りて読みました、というか、読もうとしたのですが・・・・・序盤で飽きちゃいました。

 

これらの作品に共通するのは、当時、「これを超えるミステリーの傑作は今後、出ないだろう」レベルに褒められ、もてはやされ、にも関わらず、「あっという間に忘れられたミステリー」になってしまったということ。

いやはや、世の中、諸行無常とはこのことですね。

ただ、「悪夢のヴァカンス」は今よんでも十分おもしろく、復権と復刊が望まれます。

そんな中で、今なお読み継がれている、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」は、やっぱり凄いのか。私には難しすぎて読了できなかったんですけど。

 

そして今、ミステリー界は百花繚乱and百家争鳴。

しかるに、どれだけの作品が、世紀を超えて生き残るでしょうか。

1980年代以降の国内ミステリーに関して、唯我独尊で、私的考察をめぐらせてみました。

その結果、結論は

「ほとんど消えちゃう」でございます。

 

たとえば大御所の宮部みゆきさん。

初期の代表作にして、出版当時「不朽の名作」と大絶賛された「火車」。

すでにして、忘れられた1冊となっていないでしょうか。大騒ぎされた、あのプロットの「仕掛け」も、今にしてみれば、さして驚きもない。その上、どちらかといえば社会派ミステリー、というか、がっつり、社会派ミステリーであり、テーマが「カード破産」という(ネタバレではないので、ご安心ください)過去の遺物的なものなので、忘れられるのも早い、早い。

その上、「物語」としておもしろいか。微妙なところです。

一番生き残り確立が高いのは「誰か」に始まる「杉村三郎」シリーズかな。「社会のトレンド」ではなく「人間の悪意」という普遍性の高いテーマを扱っているので。ただ宮部みゆきさんが、このシリーズで「人間の毒」について書きたいと思っていらっしゃるのは明白ですが、「毒」に関しては、若竹七海さん、貫井徳郎さん、北村薫さん(日常の謎なんて割り切れない「毒毒しさ」を秘めた作家さん、だと思う)の足元にも及んでいないと感じてしまう。「毒」に関して読みたかったら、はっきり言って、杉村三郎シリーズを読破するより、若竹七海さんの「短編」である「たぶん、暑かったから」か、さらに強烈な「わたしの捜査に手加減はない」、貫井徳郎さんの短編「崩れる」、北村薫さんの短編「砂糖合戦」を読むことをおススメします。私は実は北村薫さんの「教職っぽさ」が好きになれないのですが、「砂糖合戦」は「円紫さん」シリーズの中でも強烈だと思う。「あれだけの理由」で「あんなこと」をやっちゃうのか。人間て、怖い。

 

もうひとりの大御所、東野圭吾さんに関しては、宮部さんの作品よりは、鮮度が長いと思います。「容疑者Xの献身」は、運が良ければ、生き残るかも。フェアとアンフェアのギリをいく作品ですが、今後「純愛ブーム」が訪れるたびに掘り起こされると思うので。「悪意」は私的には好きなので、残ってほしいけど、無理でしょう。ただ東野圭吾圭吾さん自身が忘れられても、ふたりの探偵役、加賀恭一郎と湯川学(ガリレオさんです)の名まえは「名探偵」として残る可能性がある。

以外にも東野圭吾さんの諸作のなかで、残る可能性が高いのは、刊行時、華麗にスルーされ、その後再評価された本格ミステリー「仮面山荘殺人事件」では?という意見をよくききますが、わたしもこの意見には同意します。これは、今読んでもかなりすごい「クローズドサークルもの」。よくこのプロットを思い付いたな、と思います。

 

二大大御所作家さんの生き残りすら怪しい状態で、今後、何年も読み継がれ、人々の記憶に刻まれる作品なんて存在するのか。

あります。

ただ1冊のみ。

 

ずばり、綾辻行人さんの「十角館の殺人」。

 

鮎川哲也さんの「リラ荘」や、高木彬光さんの「成吉思汗」が残るなら「十角館」も残るでしょう。

作品の出来栄えが素晴らしいことはもちろんですが、ミステリー界に与えた影響の大きさは、ものすごい。

 

もし島田荘司大先生が、この作品をゴミ箱に投げ捨てていたら、と考えると・・・・・

 

まず「十角館の殺人」が存在しなかったら。

存在しなかったであろうミステリー作家さんとしては

・市川憂人さん

・辻村深月さん

このふたりだけでもスゴいですが、他にも

・奈須きのこさん

・伊坂幸太郎さん

多くの作家さんたちが影響を受けていることは否定できない事実です。特に「クリスティ・オマージュ」と誤認されている市川憂人さんのデビュー作「ジェリーフィッシュは凍らない」。読めば解りますが、これは「そして誰もいなくなった」へのオマージュではなう、「十角館の殺人」へ捧げられたオマージュです。なぜそう言い切れるのかはネタバレになるので書けませんが。

 

もし、綾辻さんが勇敢にも(無謀にも、ともいう)コネなし、アポなしで島田先生邸を訪問していなかったら、

「ミステリーというジャンルは、淘汰されずに存続できたか」。

そこまで、深い懸念があります。

しかも、それからが、新本格派の「イバラの道」

綾辻さんへのヘイトとバッシングは、ひどかった。

・一番ひどかったのが「人間が書けていない」。

ふーん、アガサとオルツィの描きわけが理解できない評論家さんて、こんなに多いんだ。かなりの人気キャラのポウ。エラリイと同じキャラ設定に見えちゃったりするんだ。

 

・もし良識ある新人賞(ER賞)に応募してたら、一次選考にも残らなかっただろう

「もし」どころか、この賞に応募して、一次選考落ちした作品です。人を誹謗中傷するまえに事実確認。これって、ティーンの子たちだって知っているでしょ?

 

しかし、綾辻さんよりも、ひどくバッシングされたのは、島田荘司大先生。

「水晶のピラミッド」発表時あ、ヘイトの嵐。「厚みがあるから、枕の代わりになるな」。

 

で・・・・・・今があるわけですが。

 

実は、私には「十角館の殺人」には「唯一、嫌いなところ」があります。あまりに強いインパクトゆえに、犯人を忘れられない。「まっさらな気持ちで、再読して、『あの素晴らしい驚きをもう一度』」。あと100年はかかりそう。

 

ちなみに、「館シリーズ」で二番めに好きなのは「駄作との評判が高い」あれ、「水車館の殺人」。市川憂人さんの2作目「ブルーローズは眠らない」は「水車館」へのオマージュでは、という世評は、かなり多いです。

 

次回は、この続き、「生き残っても不思議ではない」作品に関して、考えてみたいとおもいます。