雪富千晶紀さんの「レスト・イン・ピース」(角川ホラー文庫)

 

  越智友哉は神戸の大学の1年生。東京育ちですが、実父とソリが合わず、大学進学を機に下宿暮らしを始めました。友哉が中学の時、優しい母は父と離婚、可愛い妹とともに暮らしています。しかし、前向きでポジティブな友哉は、その時の心の傷を忘れようと、ボクシングやボランティアに打ち込む日々。そんな彼のもとに、中学二年生のメンバーで同窓会をするという連絡が。

  なぜ今頃、同窓会を?と訝しがりながらも上京し、大学進学以降、寄り付かなかった実家に泊まり込む友哉。高級官僚である父は、毎晩、泥酔しては銀座のホステスに送られて帰宅。しかし、そんな父への嫌悪を吹き飛ばすような近況を元クラスメイトから聞いたのでした。

  友哉は私立の男女共学、中高一貫の進学校に在籍していました。高偏差値の学校の中でも、成績優秀な生徒のみを集めた特進クラス。クラスメイトは、わずか17人。うち2人が他校へ転学、そして別のひとり、美少女とみまがう男子生徒、奥井冬は中学3年に進級する直前に、行方不明に。当時、世を騒がせたシリアル・キラーの手にかかって惨殺されたとのことでした。しかし、残り14人のうち、同窓会に出席したのは、たった6人。なんと、残りのクラスメイトは皆、不審死していたのでした。同窓会に出席した友哉以外の5人も何かに怯えているようす。かれらの話によると、不審死したクラスメイトたちは、呪いによって死んだ可能性が高いということ。中学2年終了時、生徒たちで地元のテーマパークへ自主遠足に行ったときに入ったパーク内の「殺人館」で呪いを受けたのではと危惧するメンバーたち。

 「殺人館」は破産に追い込まれて自殺したホラーマニアの鉱山主、エドワード・ネヴィルが残された財産をつぎ込んで改築させたルネサンス様式の荘園邸宅を移築したもの。実在したシリアル・キラーたちの鬼畜な殺人のようすが再現され、殺人現場の本物の遺留品が展示されていました。実に、入館者のうち、判明しているだけでも20人以上が、呪われて死んでいるということ。関連サイトの運営者によると、「殺人館内で”何か”をすると呪われる」らしいのですが、判明している手掛かりは「音がきれい」という言葉のみ。

  呪いを解く方法を探索したところ、展示されている殺人者のひとり、アメリカ南部の神父の息子アイアン・ヒルの犠牲者の遺族であるレイモンド・ショーというライター兼語学教師が、「殺人館」と展示されているシリアル・キラーたちに関して、長年、調査研究を続けているという情報にたどりつきます。妹を殺されたのち、まとわりつくマスコミと揉み合い、脊髄を損傷、車椅子生活になってしまったレイモンドですが、SNSで連絡すると、アイアン・ヒルの生地と、エドワード・ネヴィルを知っている証人たちへの訪問に協力してくれるという話。ネイティブなみの英語力をもつ友哉は、男子生徒の生き残りの細川とともにアメリカ南部ミシシッピ州へ向かったのですが、渡米中にも残りのメンバーの不審死の凶報が・・・・・・

 

 

  雪富千晶紀さんは、「死咒の島」でホラー大賞を受賞、デビューした作家さん。本作が受賞後第1作になりますが、そうとう怖かったデビュー作よりも、さらに怖いです。読書メーターのレビューに「真夜中に読まない方がいい」「途中で読むのを中断せず、ラストまで一気読みしたほうが、まだしも怖くない」などとありますが、まったくもって同感です。

  特にミステリー系の作品に関しては、アマゾンと読書メーターでは「評価が真逆」ということがしばしばですが、本作もそのパターン。アマゾンの5件のレビューのうち、実に4件がネタバレしているという、ひどい状態。 要要要注意です。そのうち3件は「犯人」の正体まで、はっきりネタバレをしています。

 

 「犯人」と書いたのは、この作品が純然たる正統派ホラーでありながら、「フーダニット」いえ「フーズダニット」のミステリーとして成立しているため。なぜ「Who」でなく「Whos」なのか。それは、アメリカパートによって、「ふたつの事件」を追っている、ということが明白になるため。アメリカパートは不要だというレビューもありますが、「殺人館」に秘められた「真実」に言及しなかったら、ホラーとしての厚みがなくなってしまうでしょう。アメリカ南部に舞台を移してから、にわかに濃密になる「ゴシック風味」。うっそうとした樫の木の不吉な雰囲気。南部のプアーホワイト、つまり「白人貧困層」の様相。読みごたえがあります。ただ、多少、アメリカTVドラマ「スーパーナチュラル」の1~2シーズンや、ハル・ベリーがヒロインを演じたホラー映画「ゴシカ」に似ているところがあります。

 

  ホラーとして読むと「牡丹灯籠」的恐怖で終わるというこわ~い結末。「これで”浄めた”もう安心。ところが」ですね。

 やはりアメリカのホラー映画、「スマートなイケメン時代」のミッキー・ロークが呪いに巻き込まれる「エンジェルハート」が実証したように、修道院や教会など本来は「聖なるもの」が穢れていることほど怖いものはないのですが・・・・・「シリアル・キラー」アイアン・ヒルが、なぜアメリカ南部の聖職者の息子という設定なのか、深い理由があります。そして、ヨーロッパでは「聖なる樹」として描かれる樫の木の、おぞけを振りまく禍々しさ。むしろ、この舞台背景で凶事がおこらないわけがない。

 

 ミステリーとしてみると「一件目の犯人」は見抜けたという声がけっこうありますが、まあ、そのとおりかもしれません。わたしは、100%騙されまして・・・・・犯人は「あのひとだ」と決めてかかっていたので、「あのひと」が心臓を切り裂かれて血だるまになったときには、しばし呆然でした。

 「もう一件の真犯人」に関しては・・・・・・初読で見抜いたひと、存在するだろうか。たしかに、真実はそうだったということが解ると、いろいろなところ、そして「呪い」の真相も腑に落ちるのですが。

 

 気になるのは、視点がしばしば変わる点ですが・・・・・「実はそういうことだった」ので、やむを得ないといったところでしょうか。

 

 これだけ重層的なプロットを組める作家さんは、岡嶋二人さん解散後、初ではないかと思います。

 もっと「謎解き」「トリック」に重点をおいた本格ミステリーも書いていただきたいところですが・・・・・・いかんせん、あまりにも寡作だ・・・・・!!