連休中それなりに、一般エンタメも、ラノベも、マンガも、そして純文学すら(東直子さんの「とりつくしま」。地味だけど佳品です。純文学で泣けたのは、はじめて)読んだのですが、なんということでしょう。一般エンタメはことごとく「ハズレ」、ライトノベルは傑作の宝庫、という結果に終わりました。

 「とりつくしま」をレビューしてもよいのではと思いはするものの、美しく静謐な作品でありながら、「呪われちゃいそうな」部分もあるので、「とても良い小説、しかも短めな連作短編なので、機会があったらご一読を」とだけ触れておきます。ジャンルはサイコメトラーもの、版元は筑摩書房さんです。筑摩さんも、河出書房新社さんと同じく、選りすぐりの良品のみを地道に刊行し続けているのが、ここ10年間の実績。流行を追いかけることなく、編集者さんたちが自分の目で良いと思ったものを、熟読に熟読をかさねて選んでいるのだろうと思います。海外で人気が出たからといって、すぐに跳びつき、日本で売れなければ絶版にしてしまう扶桑社ミステリー、文春ミステリーには見習ってほしい企業スタンスです。特に扶桑社さんがV・C・アンドリュースの「屋根裏部屋の花たち」を途中で絶版にしてしまった前科は忘れがたいし、マーサ・グライムズのイギリスの田園各地を舞台にした本格ミステリー「亭」シリーズ(「宿屋」シリーズ、とも)を打ち切った上、絶版にしてしまったこととか、マリアン・バブソンの一連のコージー・ミステリーを絶版にしちゃったこととか・・・・・まあ、思い出すと怒りが湧いてくるんですが。マーサ・グライムズは確かに「劣化版ドロシー・セイヤーズ」と言われても仕方ないし、マリアン・バブソンはシャーロット・マクロウドのように退屈ではなく、パトリシア・モイーズのようにワンパターンではないとは言え、その分「通俗的」で単に「おもしろさ」のみを追求しただけの「しょせんコージー・ミステリー」に過ぎないんですけどね。

 文春はジェフリー・ディーヴァーという大金脈を掘り当てましたが、残念ながら私には「ディーヴァーのおもしろさ」がわからない、という虚しさ。「意外な結末」「ひねりのきいたどんでん返し」が売り文句ですが、「シリアルキラーもの」かつ「警察小説」である以上、たとえば「アクロイド殺し」やクイーンの「災厄の町」のような話の展開にはなりようがない、というのが、3作ほど読んだ上での感想のすべてです。そもそも、「犯人が誰か」ということも記憶にないです。クリスティは全作読んだ上で、犯人を克明に記憶してしまい「再読の楽しみ」を妨げているのですが。

 

 ものすごぉく脱線しましたが、今のところご紹介したい一般エンタメを思いつかない、かといって、ラノベラノベラノベなレビューもねぇ、という感じなので。

  アマゾンの情報をリンクしているうちに、また図書館やブックオフをふらついていて、たまたま探し当てた「おもしろそうな」本格ミステリーをあげていきたいと思います。

 

 まずは、深緑野分さんや市川憂人さんの健闘によって、やっと正当に評価されるようになった感のある欧米舞台のミステリーから、日本人が探偵役として1~2人登場する(市川憂人さんタイプ)、あるいは影も形もない(深緑野分さん、梓崎優さんタイプ)の作品を、ざっと。

 

・浅岡沙織さんの「悪魔の家系図」(パブリックブレイン・文庫)

舞台は現代のイギリス。アメリカのキュレーターの青年ジョシュとその友人ザックが招かれたのは、近年ギルフォード一族が買い取った、田園地帯の古い館。館はチューダー朝に建てられ、ヘンリー8世に反抗して館内で絞首刑にされたカトリックの神父の故事をはじめ、幾多の忌まわしい因縁がまとわりついています。現当主ジャック・ギルフォードがジョシュを呼んだのは、館内の膨大な古い什器や家具、有名画家の絵画、400年もの歴史を持つ(呪われているかも?)武具などを鑑定してもらうため。滞在中に明らかになる「現代の」陰惨な事情。そして起こる毒殺事件。犯行可能なのは、ただひとりの人物。しかし、ジョシュはその人物だけは犯人ではあり得ないと結論し、警察に反証しながら、真犯人を追及していきます。

浅岡沙織さんはディクスン・カー・フリーク、しかし本作は「エラリー・クイーンへの挑戦」として書いたとのことですが、ざっと序盤に目をとおした印象は「クリスティ風味の易しめヴァン・ダイン」な雰囲気です。アマゾンでは星1つ~星5つまでのバラバラ評価。

 

・真瀬もとさんの「アルレッキーノの柩」(ハヤカワミステリーワールド)

ヴィクトリア朝ロンドン。金欠でアパートを追いだされた藤十郎は、トラファルガー広場で、家系ごと魔女に呪われているらしい青年公爵に出会い、食事と宿を保証する見返りとして、「12人の道化クラブ」という変人だらけの社交クラブで起こっている怪奇事件を解決するように、と要求されます。公爵はただでさえ呪われているのに、「柩作り」が趣味という懲りない人。クラブの活動も、生首ケーキ作り、緊急避難用に柩の中に設置される鐘の(早すぎた埋葬対策)実演実験など、悪趣味というしかない。日頃の行いが悪いせいか、クラブに連続殺人が襲いかかります。しかし! みんな怪しいやつばかり。公爵の妹はあろうことか家族を呪ってきたらしい魔女のコスプレにハマるわ、まともっぽい女権運動家の正体は女呪術師、科学的であるべき医師の趣味は降霊会。魔女の力VSクラブの奇人力みたいな様相を呈してはいるのですが・・・・・密室、見立て、変装、ダイイング・メッセージ、鉄の処女フル活動の拷問部屋などの要素がてんこ盛り。

アマゾンでは高評価なのですが、「超駄作」と一蹴するブロガーさん、書評家さんも散見されます。

なお、真瀬もとさんは、じつはBL作家として有名な方。他にミステリーの著作もあるのですが、読む前にBLミステリーではないか確認する必要あり。なお本作は「安心して読める」作品なので、BL拒否の人でも大丈夫。

 

・やはり真瀬もとさんの「お楽しみはこれからだ!」(ハヤカワミステリーワールド)

1920年代のアメリカ。おりしも、ジャズの黎明期。そして無声映画からトーキーへ移りつつある時代。そんな映画界で注目中の女優の「ペット犬付き」のメイドとしてイギリスからやってきた明朗快活、高回転頭脳の少女ケイト。しかし、渡米するや「ご主人であるスパニエル犬アビー」のご主人である女優が殺されます。現場は「ほとんど」密室。なぜ「完璧な」密室ではないかというと、隣りの部屋に他ならぬケイトが泊まりこんでいたから。当然、ケイトに降りかかりまく疑惑、疑惑、疑惑。断固として戦うべく、ケイトは後見人エドを訪ねます。ハリウッドとニューヨークを股にかける写真家なはずのエドの前身は、なんと、イギリスのスコットランドの警部。ロンドンで愛妻に先立たれた彼は、惑乱のあまり、気がつけば「幼児放置」という大罪を負ってアメリカの地に降り立っていたという過去が。

ケイトたちが調べまくるや、出るわ出るわ状態の女優をめぐる疑惑とハリウッドのスキャンダル。そんな中、「真犯人」は二人目の女優を殺すという蛮行に及ぶのでした・・・・・

未読なのですが、ネットの評判は「ケイトが魅力的でクリスティの茶色服男のヒロイン、アンを思わせる」など、ほぼ良好な感じ。

 他に真瀬さんには、青年モリアーティ側から描いた「シャーロキアン・クロニクル」(全6巻)もあり、なかなか良くできている「ホームズもの」なのですが、ところどころ、かすかにBLっぽさのあるシーンが。

 むしろ、ベイカー街の少年リアムを主人公にした「ベイカー街少年探偵団ジャーナル」全3巻のほうが安心。①キューピッドの涙盗難事件②アーンズワース城の殺人③死を招く薔薇事件、とサブタイトルも興味をひきます。

 

その他、気になる本格ミステリー&本格じゃないけどミステリー。

 

・梶尾真治さんの「壱里島奇譚 」

かろうじて「SFミステリー」に分類できるトンデモ・ファンタジー。

商社マン宮口翔一が常務から直々に受けた密命、それは売れ行き絶好調、しかし謎に包まれた商品「おもしろたわし」の製造の秘密を探る、というもの。さっそく、翔一は生産地である九州の孤島、  壱里島へ。たちまち襲いかかる「怪奇現象」いやむしろ「ふしぎ現象」。なんと、社会人の間には知られていないものの、オカルトおたくの間では、壱里島は有名なパワースポットだったのでした。普通人ひとりでは手に負えないと察した翔一は、オカルトライター機敷埜風天と組むことに。その矢先に島を二分する事件が勃発。巻き込まれた翔一は、島の謎を解くために”問題の地”へ向かいます。

魅力的な謎あり 、どんでん返しあり、驚きのラストに騙され感を味わえる、という点では「広義のミステリー」に、かろうじて分類できる作品。

「閉鎖的ではない村社会」「さっぱり爽やかな島の人間図」など、「ワルツを踊ろう」や「くちぬい」「避雷針の夏」などなどを読んだ後味でダウナー気分の方には特におすすめ。

 

・竹本健治さんの「緑衣の牙-眠れる 森の惨劇」

舞台は、北海道の大沼公園の湖畔。森の中に建つ古いミッションスクール星辰女学園とその女子寮。湖で謎の水死体として発見された華やかな女王的生徒、麻耶。「血塗られた祭壇」とは? 「密儀の部屋」とは? 棋士探偵をかこむ、あまりに個性的すぎる少女たち。そして第二の殺人が・・・・・

竹本さんの初期の、お手本のようなクローズドサークルもの。綾辻行人さんの「緋色の囁き」に似ているという意見もあるらしいですが、「緋色」のようなモヤモヤ感はありません。

 

・佳古屋圭市さんの「断片のアリス」

遠未来、人間が「意識の中の仮想社会」でしか生きられない社会。しかし、その仮想社会は、きわめて安全で豊かなユートピアなので不満を持つ者はいません。それなのに、少女、椎葉羽留は突然、その社会から切り離されて「肉体」の中に呼び戻されます。そこは、「痛覚」という「不快感」を感じてしまう世界でした。苦しみも、そして「死」すら存在する。それが解ったのは、その世界で「殺人事件」が続いたため。羽留は、連続殺人の謎を解き、さらには世界そのものの謎も解いて、「脱出」できるのか。

 

・矢樹純さんの「がらくた少女と人喰い煙突」

とにかくゴミやガラクタを集めないと心が安らがない強迫症に罹患した少女、陶子。もはや、日常生活もおくれない状態です。カウンセラーの青年、桜木は、転地療法が効くのではないかと診断、陶子をつれてある孤島を訪れます。ところが、島で殺人事件が発生。事件を解きつつ、陶子を護らなければならなくなった桜木ですが、実は彼にはある秘密があったのでした。最初からハンディキャップを負って始まった推理劇はどこに着地するのか。

 

・中村啓さんの「鬼の棲む楽園」

ある占い師が、脳をくりぬかれるという残虐な手段で殺されます。彼が死の直前まで怯えていたという「鬼の呪い」とはなにか。主人公は「呪い」が喜多住島という島に伝わるということ、占い師が生前、この島に住む偉大な術者を訪れていたことを知り、事件解決のために島に向かうのですが、はやくも連続殺人事件に巻き込まれるのでした。

 

ざっとあげると、こんな感じです。

埋もれていただけに、世評の好悪は多種多様。ただ、まるっきり凡庸、あるいは退屈な作品はないと思いますので、お気がむいたら、一読なさることをおススメします。

 

梶尾真治さんのさくひんは、ミステリーというには怪しすぎるのですが、梶尾さんのメチャクチャな作品傾向(メチャクチャな時点で、すでに傾向など皆無なのですが)は、霞流一さんの「奇蹟鑑定人」シリーズと共通して大好物なので、ご紹介してしまいました。

目下「悪魔の家系図」を読んでいるところです、ある書評家さんの批判で語られる「駄作化」はどのあたりから始まるのかなあと思いつつ・・・・・今のところ、クリスティの「満潮に乗って」「無実はさいなむ」「邪悪の家」をミックスした雰囲気で、物語はスムーズに展開しているのですが。ただ「血みどろ王ヘンリー8世」「ぶらっくチューダー朝&プランタジネット朝」「英国教会」について、多少なりとも予備知識があれば、より楽しめるかも。