吉川トリコさんの「光の庭」(光文社)

 

   銀チョコラバーズ。それが彼女たち5人のグループ名でした。グループ活動していたわけではないけれど、クラスの中でも、ひときわ目立っていると自認する5人。卒業式後、カラオケボックスに寄り、10年後、自分たちがどうなっているべきか、抱負らしきものをテープに吹き込みます。

  ところが、10年どころか、わずかに2年後、ムードメイカーだった三千花が殺され、バラバラ死体となって町はずれのR池で発見されます。その後、おのずと疎遠になった残りの4人。

  そして、18年後、もはや心霊スポットとして全国規模で有名になったR池で、今度は美人キャバクラ嬢の他殺死体が発見されました。関連して、三千花事件に関しても、ときどき噂されるように。

  そんな町に、東京の大学を出て、ライターになった志津が帰ってきます。東京でノンフィクションライターとして大手出版社から自著を出すことを諦めたという志津。彼女は節約のために実家に住み、アルバイトを探しながら、銀チョコラバーズの残りのメンバー、市役所勤めの真里奈、学生結婚して3人の子持ち専業主婦となった法子、県でも有数の実業家夫人として落ち着いた理恵たちに連絡を取り、20年ぶりの女子会を開きます。ムードメイカー三千花という欠落を否応なしに感じさせられる37歳の4人の女たち。雑貨屋を営みたいと言っていた真里奈、女社長になると宣言した法子、木村拓哉と結婚すると言った理恵、洋楽ライターとして印税暮らしを希望していた志津。10年どころか20年たっても、誰ひとり望む目標に達していない、かつての華やかグループ。それどころか、全員、多かれ少なかれ、生活上の問題を抱えています。「三千花」の名まえに広がる波紋。実は、4人の中にひとり、「実行犯」ではないものの、三千花の死の手引きをした「罪人」が潜んでいるのでした・・・・・

 

 

  吉川トリコさんは有名な作家さんとは言えないものの、実は既に「ご紹介済み」の作家さん。何をかくそう、あの珍傑作「マリー・アントワネットの日記」を書いた新進作家さん。

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 「マリー・アントワネットの日記」も、ビックリものの傑作で昨年のランキングに迷わずいれましたが、本作も、さすがの読み応え。「マリー・アントワネットの日記」とは全然趣向がちがうと思われる方も多いでしょうが、あのような「狙って錬るに練った軽薄ラノベ体」の文章を書ける技量があればこそ、これらのようなシリアスな文体で読者を最後まで引き付けることができるのだ、と納得の傑作です。「これら」というのは、本書が3つの視点で書かれているから。最初は三千花の「卒業の歓び」で弾けるようなモノローグ、そして現在の3人称彼女たちを俯瞰して描かれた3人称による物語、それと交互に何かの目的で現在執筆中の志津による語り。ここに、一種の企みが潜んでいます。リチャード・ハルが「伯母殺人事件」で使った手法に近い、と書けば、「ああ、あれか」と思い当たる方もいらっしゃるかと。まあ、ミステリーでよく言われる「信用できない語り手」のパターンです。

 

  湊かなえさんの短編集「サファイア」に収録された「ムーンストーン」を思い出す方も多いかもしれません。双方、未読の方は読み比べても一興・・・・・・とは言えないですね。クオリティに比較にならない差があることが確認できるだけ、そして湊かなえさんの「書き手」としての「浅さ」が確認できるだけです。この点は、湊さんが何年、創作活動を続けていこうと、けっして乗り越えられない天賦の才能の差というしかありません。

 

  高校卒業時、思いっきり輝いていた5人の少女たちの抱負。そして、現状との落差の大きさ。しかし、生き残った4人の中に「20年前の夢」を捨てていないキャラが、ひとりだけいることも、終盤明らかになります。「夢にしがみついている」ととるか「夢に向けて進み続けている」ととるかは読む人しだいかもしれませんが、少なくとも20年を経て成功をつかもうとする彼女の手段は、けっして褒められたものではありません。にもかかわらず、たぶん彼女は「成功」を手にいれるでしょうが。

 

  自分が「不美人で男からは求められない女」であることを認めようとせず、「自分は男っぽいから男に囲まれていても”良い友人”になりがち」と自分にも周囲にも思い込ませようとするメンバーのひとりを「彼女」は「痛い女」として、必要な時以外は気にも留めません。

 仲間のひとりが長年つくり貯めてきた飲食店情報のスクラップ。うれしそうに借りたきり、目を通しもせず、ベッド脇の床に放置状態、踏みつけても何も思わない彼女。

 「高校の孤高の女王」としてその美貌で君臨してきた仲間が、大学在学中にファッション誌の読者モデルとなったとき、「安っぽくなった」と見下げ、切り捨ててしまった彼女。

  彼女の心には、ちいさなトゲが刺さっています。グループの他のメンバーが周知している仲間たちのプライバシーを自分だけ知らされていなかったり、仲間たちから相談相手に選ばれなかったり。「仲間たち」を「仲間」と思っていない自分への自覚が、最初から抜け落ちているのに。

 

  対して。三千花。

  仲間が読者モデルをしている、その理由だけで、そのファッション誌を毎号買い続け、該当ページにはすべて付箋をはって丁寧に保存していた子。仲間にたのめば、毎月、無料で雑誌を送ってくれた可能性が高いのに、身銭を切ることを選んだ子。

  自分が男の子たちに囲まれていても、「仲間が一番たいせつ」な子。

  冷たい水のなかで、バラバラに切り裂かれながら、「来なかった仲間」がなにかトラブルに巻き込まれたのではないかと、最期まで気に掛けていた子。

  そして、ほんとうに苦しみ続けた3人。「親友」を永久に失ったという事実と向き合い、哀悼を抱き、と「自分がかわりに死ななかった」という自責を敢えて背負い続けてきた残りの3人。

 

  それにも関わらず、「彼女」は成功し、見えるものだけを見て歩いていくのだと思います。

  クリスティの「春にして君を離れ」をふと思い出しましたが、本作の方が、より残酷で救いがないかもしれません。ジョーン・スカダモアは少なくとも人を愛したことがありました。

  しかし「彼女」は自分の「利」しか考えず、その他のことは心に留まることさえない、そもそも、ほんとうの意味で「人の話を聞いていない」人なのですから。

  

  残りの4人の女たちの中に「あなた」はいるでしょうか。

  それとも、三千花だけが友だちだった日佐子、その他、三千花の友人たちで、三千花を通して銀チョコラバーズにはいることもできたのに、外側に留まりつづけた数多い少女たちのなかに「あなた」はいるのでしょうか。

 

  これはミステリーなのか。18年前に死んだ三千花の名まえで登録されたSNSなど、ミステリー要素も実は豊富。しかし、これほどの佳品をジャンル分けするのも無意味・・・・・とおもいつつ、あえて「ミステリーレビュー」に登録します。