高田侑さんの「家政婦トミタ」(角川ホラー文庫)

 

  小笠原明、41歳。カワイイ系美人の年下の妻、美樹は、一部上場会社の管理職。見かけの愛らしさ、天然美人ぽさからは想像できないほど、手際がよく、公私にわたって有能。

  子どもは2人。中学生の美晴と、小学生の直人。仲のよい姉弟です。子どもたちは、容姿、才能、健康に恵まれており、特に病気をしない点は、美樹にとっては大助かり。

  明自身も高収入。美樹も引けを取りません。年齢相応以上の経済力をつけた明は、30年ローンを組んで、築3年の中古の大邸宅を購入、転居します。

  明は大企業の管理職でしたが、所属部署をのれん分けするような形式で、独立。老人ホームにむけて介護用品を販売する、什器などは時にレンタルする小企業の社長となって数年がたちました。少人数ながら、元の会社から連れてきた優秀な営業マン小林をはじめ、一般事務職の渡辺由美に至るまで、社員は精鋭ぞろい。ところが、業務拡張要員として、中安という30男を採用したことから何かが狂ってきます。中安は、「使えない」社員の見本そのもの。仕事中に会社のパソコンでゲーム三昧の日常。取引先相手のビジネスマナーも訓練されていない。報告書も書けない。そのたびに小笠原や小林が注意、指導するはめに。そして、ある日、何カ月もかけて関係を深めてきた福祉法人への最後のプレゼンを、中安はドタキャン。相手に見せる介護練習用モデルを自宅においたまま、遊びに出かけるという失態。ようやく出勤してきた中安を小笠原と小林は叱責し、厳重注意します。ところが、その翌日、中安は二世代同居の自宅豪邸で、練炭自殺してしまったのでした。

  パワハラ、労災疑惑と戦いながら、新居に慣れようとする明と家族たち。気になるのは雑草が伸び放題の広い庭を放置している隣家。険しい顔つきの老女と、その息子らしい独身中年男の二人暮らしで、息子は無職のようです。ときに、小笠原家の庭にまで跳んでくるBB弾。老女の趣味は射撃だったのでした。

  留守中に下校する子どもたちを心配する美樹は、家政婦を雇うことを提案。家政婦協会から派遣されてきた中年の家政婦は、ある意味「気が利きすぎ」、それをおせっかいと感じた美樹は彼女を解雇、かわりにママ友つながりで、富田という若い家政婦を雇います。協会を通さないため、費用は安上がり、しかも基本的に「命じられたことだけをする」「あれこれ気を回さない」富田の職務態度を、美樹は「割り切りがよい」と高評価するのでした。

  しかし、夫の明は、家の中に些細な異変が起こっていると感じ始め、それは確信にかわります。そのうち、祟りでも受けたかのように、奇病に襲われる明。

  おりしも、息子の直人は、両親には無断で、隣家に近づき、住人である老母と息子に懐いていくのでした・・・・・・

 

 

 

  先日、曽根圭介さんの「あげくの果て」を絶賛おススメした際、比較対象として取り上げ、低く評価してしまった高田侑さん。読んだのが1作のみで、低評価してしまったのは、杜撰であり尚早にすぎたと、かなり反省しました。

  そこで、別の作品を、と書店で選んだのが、たぶん最新作に近いと思われる「家政婦トミタ」。

 

  ドラマの「家政婦は見た」にはじまり、各種メディアで「家政婦」ものは、ちらほら見かけるのですが、松嶋菜々子さん主演の「家政婦のミタ」も世評ほどには心に響かなかった、という印象。唯一、大爆笑できたのが、神坂一さんによる短編 「家政婦は見たかもしんない」ですが、「スレイヤーズ」シリーズ、それも「白蛇のナーガ」もので、「家政婦」という素材を扱ったら「つまらなくしろ」というのが無理な話です。

  ただ、一見、書けそうなのに「おもしろく書く」のは難しい「家政婦」もの。

 クリスティの「パディントン発」に登場するルーシー・アイレスバロウ、宮部みゆきさんの初期名作「刑事の子」で脇をかためる初老家政婦さん、大島弓子さんのマンガに登場する「教授の家の家政婦さん」など、魅力たっぷりの家政婦さんはみかけることが多いのですが、みなさん「端役」としての登場です。

 

  ついで、本作が目指したと思われる「人間が怖い」ホラーですが・・・・・何度も繰り返しますが、貴志祐介さんの「黒い家」を超える作品は、まだ書ける余地が残されているのか、その点ですでに疑問。 次点「人間怖い」は、向田邦子さんの短編 「かわうそ」で決まり、というのが現時点でのランクです。「かわうそ」の怖さは「異常性格者」「サイコパス」などの人間の怖さを描いたものではないという点につきます。あ、でも、ああいうことが出来ちゃうというのは、やっぱり性格的に「異常」な何かがあるのかな。あと乃南アサさんの短編 「魔女」もそうとうに怖い。見方によっては「良い人の無償の善意」と容易く騙されてしまう上に、なんの動機もない、だれの利益にもならない点がひたすら怖い。

  比べると、「家政婦トミタ」はどうかというと・・・・・・どんなに怪しげで怖い人でも、その人が大声で悪態をついたり、口汚く罵ったりしたら、その時点で 「怖い人」ではなく「アブナイ人」さらに悪いケースでは「凶暴な人」に成り下がってしまう、これはもうお約束です。「黒い家」の「怖い人」は、小声で繰り言を「独り言」として呟くのにとどまっています。

「かわうそ」や「魔女」の「怖い人」は「微笑む」だけ。社交的で、快活な人が、「微笑みながら話しかける」「口を閉ざして微笑む」。「狂気」を感じさせるものがない、ということが・・・・・・

 

 「家政婦」ネタで「怖い」は書きつくされたジャンルではないので、今後、傑作ホラーが書かれることに期待します。

 

 そして、高田侑さんに関しては・・・・・・あと1作、少なくとも1作は読もうと思っています。