ハマカズシさんの「勇者に期待した僕がバカでした」(小学館ガガガ文庫)

 

  世界の始めに存在した創造神、ゲラ神とパス神。ゲラ神は人型の魔法使いなども含む「モンスター族」を、パス神は「人間族」をつくりました。しかしモンスターと人間は「あっ」という間に、それぞれの創造神の名のもとに代理戦争をはじめ、あまりの能力差のために、「あっ」というヒマさえなくモンスター側が圧勝し、「聖戦」は終結、パス神は封印されます。ところが、聖戦の中で、モンスターは余裕があったためか、いくつもの派閥に分かれ、それぞれが「魔王」をトップとして、飽きることもなく内戦を続ける始末。いい加減、頭が痛くなってきたゲラ神が考え付いたのが「勇者システム」。人間とその文明を復興させた上、何年かに一度、人間の中から勇者の資格をもつ者が選ばれて、魔王討伐の冒険に出かけます。モンスター側には「宿敵」を、人間側には「英雄」を与えることによって、各種族内の内戦を防ぐのが目的。多くの魔王たちの中で、だれが勇者の標的となるのか、それは候補として名乗りをあげた魔王たちのコンペによって決まります。勇者の相手に選ばれた選抜魔王軍は勇者の成長レベルに合わせて、行程を妨げる危険を除去、途中のダンジョンの宝箱の中に適切にアイテムを配置。その上、見合ったレベルに勇者が成長したら、勇者と戦ったうえ、華麗に「殺され」なければなりません。この世界では、「勇者に殺された」モンスターだけが、より高いランクのモンスターに転生できるからです。

  さて、前回の勇者を序盤でモンスター四天王のアスール大帝が殺してしまうという恥ずかしい失敗に終わらせたトラウマを持つゴルディアス魔王の配下たち。30年ぶりに現れた勇者と戦う選抜魔王軍に選ばれてわきたっています。ふつうは千軍近い志願軍が殺到する選抜魔王軍コンペへ参加したのが、わずか6軍だったこと、など怪しさ満載なのですが、気に留めるものがいないほど、浮かれている状態。

  ゴルディアス魔王の政治秘書として、戦闘力には数えられないものの、高い事務能力を買われたエルブランコは、新卒の魔法使い少女ウニベルという部下も持つことになり、気合十分。ウニベルは実は、ゴルディアス魔王軍は、就活の第2志望。、第1志望の魔王軍は魔法使いの制服が可愛いので入軍したかったとのことですが、1週間もたたないのに、私服勤務のゴルディアス魔王軍に馴染みきっています。エルブランコより高度の魔法を使える半面、オフィスマナーは怪しいし、事務処理は優秀なのかダメなのか判別不可能な子。エルブランコの不安はつのりますが、もっと驚くべき情報が。

  多額の支度金を受け取っている新勇者が、「はじまりの村」で、大人の事情により捨て値で売られているドラゴンスレイヤーには手も触れず、棍棒を買ったのでした。棍棒といえば、冒険の初心者さえ見向きもしない「様式美」として置いてあるだけの武器。勇者は御年30歳で、ひ弱な体形にメタボの気配が見えるニート。実は、武器屋で鉄の剣を買おうとしたものの、鉄の剣の重量に勝てず、両手でも剣を持ち上げることができなかったのでした。

  対するゴルディアス配下のモンスターのうち、最弱なのは、レベル5ゴブリン。戦闘担当の四天王で、前回の失敗要因となった剛将アスール大帝がモンスターたちを鍛えすぎてしまったのでした。

  絶体絶命の状況。レベル1の非力な勇者なんて、レベル5ゴブリンに触れただけで、致命傷などという危険も。この状況で、この最弱勇者に、どうすればうまく負けることができるのか。

 

 

  少し長めの休みだと予定が入っていると、読書時間がたっぷり取れるので、辻村深月さん、桜庭一樹さんなどの重め長編や、太田忠司さんなどの積読のミステリー系にどんどん取り掛かるのですが、そんな時の気分転換に良作のライトノベルが読みたくなることも多々。「ビブリア古書堂」「妖怪アパート」「キノの旅」「狼と香辛料」みな、そんな感じで読みました。「狼と香辛料」は気分転換や息抜きに読めちゃうようなユルい作品ではありませんでしたが。上遠野浩平さん、時雨沢恵一さん、支倉支砂さんが、深謀難解ラノベ御三家であることに変わりはないと思います。

 

   ラノベで特に、狙っているのが、各レーベル、各出版社の開催する新人賞の受賞作品。

   昔は、「スレイヤーズ」を発掘したファンタジア大賞に良作が集まり、電撃文庫が創刊されて新人賞が設けられると、有望新人たちがその方向にシフトした、という印象ですが、今、良作や有望新人を探したければ、とりあえず小学館ライトノベル大賞をチェックするべきかと思います。この賞の受賞作は、小学館のラノベ文庫レーベルであるガガガ文庫で刊行されます。ガガガ文庫は、「後発」といってもよいレーベル。「ガガガってなに?」と問い詰めたくなるようなフザけた名称ですが、刊行されるのは、やや異色な作風の作品ばかり、いわゆる「異世界テンプレ」作品が見向きもされない傾向が独特です。つまり、この賞はエンタメの賞でいうと「メフィスト賞」っぽい立ち位置をとっている大賞といってよいとおもいます。

  以前ご紹介した中世ヨーロッパ風歴史伝奇ミステリー、「フーダニット」にこだわりながらも、緊迫したスリリングな展開を失わなかった「六人の赤ずきんは今夜食べられる」も同賞受賞作。男ひとりに、それぞれに魅力的な少女6人という設定なのに、ハーレムどころか「萌え」もない。ドライでクールな「契約」が男と少女たちをつなぐ絆です。

  その他、同賞の受賞作でめだつところを上げると、「埼玉県神統系譜」(平行世界埼玉、民族文化混交社会)、「世界の終わりに問う賛歌」(近未来暗黒社会、マフィア、ディストピア)、「マージナル」(犯罪嗜好者の集うアングラサイトと連続サイコキラー)、「RIGHT×LIGHT」(人間の五感を破壊する「呪い」、ふたつの古来の魔法秘密結社のどちらが「絶対悪」なのか)など、一筋縄ではいかぬ内容の受賞作のラインナップ。

 

  そんな中で「勇者に期待した僕がバカでした」は、ユルさの極致。コメディを超えて、もはや、ギャグ。ラノベでほんとうに笑えたのは、初期の「スレイヤーズ」および「スレイヤーズ・すぺしゃる」以来のことだと思います。

  ゴルディアス魔王軍、特にエルブランコや、四天王の中でも参謀的な老魔法使いロホ博士からみると、笑っている場合ではないと解っていても、次々湧いて出る「脱力的危機」「勇者の奇跡的な愚行」の数々には、やっぱり笑ってしまいます。あと、よく分析したうえで設定されているなと唸らされたのが、「諜報」と「軍略」を別個の部署が担当しているという点。ラノベのみならず、多くの歴史小説、戦記小説では、このあたりを曖昧にごまかしているのが実情です。

 

 タイトルは「部下に期待した僕がバカでした」でも良いと思うくらい、ウニベルがエルブランコを引っ張りまわすのも、これからのパターンとして定着するのでしょう。というのも、この作品、シリーズ化されましたので。

  途中からシリアス方向へ深くなっていくマンガ「ヘルク」が、1巻の雰囲気で暴走し続けたら、こうなったかも、と思わせる気持ちよく笑えるファンタジーです。人型、私服モンスターのほとんどがスーツを着ている世界を舞台にしていても、やはり大変良くできたファンタジーです。

  ただねえ、ラストは、あまりにも気持ちよく、あまりにも良い感じに収束させすぎちゃったかも、という感じも否定できない・・・・・