朝香式さんの「マンガ肉と僕」(新潮社)

 

  さわやか清潔系、それでいながら勉強もスポーツもかなりイケる青年、僕、ことワタベくん。白目が、若干、青味がかって澄んでいるところにも、清純無垢な少年ぽさを残しています。

  女子からの好感度も高いのに、なぜか交際が長続きしない、何かが残念な男子。

  そのため、東京の有名私大の法学部に進学したときにも、彼女がいない状態でした。同じ大学の女の子たちの大部分は大学に近い名門女子高校の出身。上品で質の良い高いお洋服をさりげなく着こなした、身ぎれいで清楚系な子が主流。目の保養になるものの、あまりにも「良家のお嬢さま」っぽくて、ワタベにはその点が物足りなく思えます。

  ところが、ある日のドイツ語の講義で、ワタベは「ありえない、しかし女子らしいもの」と遭遇。色落ちしたデニムのミニスカート。スタジャンには劇画調のケバい刺繍が、これでもかというほど施されている。ぼさぼさ肩に広がる、ド金髪。すでに有名かつ男女両方から「いないことにされ、無視されている」前代未聞の「肉女」が教室に入ってきたのでした。こともあろうに、その肉女はワタベに近づき、隣りの席に着席。椅子が、肉女の重さに悲鳴をあげて、きしむほど。脂ののったシロイルカを思わせるズンドウの肥満体。ミニスカートからにょっきりと現れる脚は、さながら横に成長し過ぎた大根。膝下の素足で自己主張するスネ毛がビッシリ。しかも、臭い。いつシャンプーしたのか不明。その上、スパイシーとしかいいようのない香水が、悪臭を強烈にしてます。教科書を見させた上、ワタベ愛用の高価なボールペンを強奪して自分のズダ袋に押し込む肉女は、ワタベを気に入ったのか、阿佐ヶ谷のワタベの下宿を突き止めて、強引に住み着いてしまいます。

  肉女は肉とスナック菓子が大好き。ワタベがバイトを終えて帰宅すると、昭和のマンガに出てくるマンモスの肉に似せたカラアゲ、通称「マンガ肉」を買いにワタベをコンビニに走らせる日常。ところが、ワタベは可愛い子がたくさんいるバイト先で、女の子たちの中でも特に好みのタイプ、本多菜子といい感じになってきており、ぜひ、菜子を自分の部屋に呼びたいと思い始めていたのでした。そう、肉女のいない、臭くない部屋に。

  ・・・・・・・そして、それから10年後。司法書士になったワタベは、すでに過去の埋もれた記憶となっていた「肉女」が秘めていた物語を知るのですが・・・・・・「マンガ肉と僕」にはじまる5部構成の「長編小説」

 

 

  新潮社の主催する「R-18文学賞」という新人賞があります。2002年にスタートし、15年以上も続く文学賞となりました。この履歴には、正直言ってかなり驚かされました。実のところ、いくら新潮社が主催しているとはいえ、たぶん、2~3年、長くても5年くらいで幕をおろすのではないかと予想していたからです。「キワモノ」「イロモノ」感いっぱいのコンセプトでした。今では「女による女のための文学賞」と銘を打たれていますが、スタート時は「女による女のための官能小説賞」と規定されていたのです。「官能小説」で作家デビュー「してもよい」と割り切れる女性作家志望者が、はたして毎年応募するほどいるだろうか。

  しかし、フタを開けてみると、傑作の受賞作が勢ぞろい。2011年からは「官能小説」というシバリがなくなり、いまや、「有力新人を輩出する」新人賞として定着した状況です。

  なぜこれほど優秀な作家さんが集まったかと言いますと。現行の新人賞の大半が「広義でもよいから、とにかくミステリー」のための賞であるという実態に起因しているのではないかと思います。一般エンタメ作家をめざす作家さんの登竜門として思い浮かべることができるのは、一番の有名どころでは、なんといっても「小説すばる新人賞」。ただ、この賞はエンタメとは言っても「文学性が強いこと」を重視しており「独自の発想」「手に汗にぎる面白さ」だけでは、下読み時点で弾かれ、一次選考すら通過できない可能性が高い。篠田節子さん、佐藤賢一さんに匹敵する完成度が必須です。近年でいえば、飛鳥井千砂さんのような作家さんが求められている状態です。さらに2010年代に入ってからの受賞者さんの多くが、デビューしたものの、鳴かず飛ばず。この賞をとっただけでは作家として先行きが不安という印象が強まっています。その他、「野性時代フロンティア文学賞」「小説現代新人賞」も、受賞しただけではプロとしてやっていけるかどうか、先行き不安定な感じ。

  意外と知られていない「メフィスト賞はジャンル”不問”」という事実。しかし実際に、ミステリー以外の有名受賞作といえば「図書館の魔女」くらいしか思い出せません。これもミステリーではないものの「ハイ・ファンタジー」。ふつうの一般エンタメがどこまで勝負できるかは疑問です。

  そこに降って湧いたのが「R-18文学賞」。女性限定なので、「性差別」なのですが。

  近ごろ、いつのまにか秀作を書き重ねている新進作家さんがいるな、と思ったら、「R-18」の出身者だったということも、しばしば。豊島ミホさん、日向蓬さん、吉川トリコさん、南綾子さん、宮木あや子さん、蛭田亜紗子さん、山内マリ子さん、彩瀬まるさん、森美樹さん、その他。とくに「ふがいない僕は空を見た」で窪美澄さんがデビューしたのは大きいと思います。「女性のための」ということで「ドロドロ系」「イヤミス風味」の作品ばかりか、と思ったら大間違い。ヴァラエティに富み、個性的な作品が目白押しです。

 

  そんな中でも、ひときわ異彩を放つのが、この「マンガ肉と僕」。タイトルを見ただけで、借りてしまいました。

 

  だって「マンガ肉」ですよ。バカミスだって、こんな言葉をタイトルに入れたりしないと思います。ただし、「マンガ肉」って、「マンモス」だよ、と指摘すれば、ある世代より年長の方は「あれか!」と、即、気がつくはず。

  気を付けなければならないのは、一見、短編集のように見えるけれど、じつは五つのエピソードがまとまって、ひとつの長編となっているということ。連作短編ではなく群像劇です。たとえば、伊坂幸太郎さんの「ラッシュライフ」をいきなり「愛すべき、あの泥棒さん」パートから読み始めたりしたら、トンデモないことになりますが、本作でも同じです。

  にも関わらず、忠告している私自身、2部から読み始める、という大失敗をしたのでした。

  結果として私は、ワタベくんにそのまんまアンジャッシュ渡部さんを充てて読んだのですが、より詳細にキャラ描写されている1部にもどってみると、印象がまるで違う。肉女のワガママな命令をアタフタしながら遂行していくようすは、〇〇阿〇加さんぽくもあります。すごく美化すると、竹内涼真さんぽくも感じられました。

 

  ワタベくん、アルパカ男、合気道黒帯青年、めんどいお嬢さん、その他が、肉女の物語をいろどっていくのですが・・・・・いや、人間て見る人しだいでこうも印象が変わってしまうのか。

  「優しさ」とか「冷淡」「こだわり」「傍観」などなどに関して、思わず「ん?」と引っかかり、考え込まされてしまうこと、多々の展開。

  しかし、「だから結局、正解はね・・・・・」的な文章はひとつもありません。

  臭くて不潔な肉女が寝そべっていたソファは平気。それなのに「重く」なっていく他の女の子が座った椅子には、その子の前で消臭スプレーをかけちゃう。それも無意識のうちで。どちらも、ワタベくんであることに違いはない。

 

  しかし、アルパカ男。羊系男子、カッコよさのカケラもないのに、そういう成り行きなのか。しかも、人目をひく美女ばっかり・・・・・

 

  私が一番好きなのは・・・・・アルパカ男の中高同窓生、あんた医者ってウソでしょ?な、あの独身医師さんです。