東国原英夫さん(そのまんま東さん)の「ビートたけし殺人事件」(太田出版)

 

  今は昔な1980年代、東京のど真ん中。

  僕、こと、東国原英夫、芸名・そのまんま東は、北野武つまりビートたけしをリーダーと仰ぐお笑い芸人集団「たけし軍団」の一員として、すべてにおいて上昇中の芸人生活を謳歌していました。それはもちろん、ビートたけしの人気と名声があればこそ、という現実を重々承知している東。

  なので、ある日、テレビの生放送に姿をみせなかったたけしのことが心配でなりません。そんな東をあざ笑うかのごとく、テレビ局に現れません。ついに、失踪が認定され、捜査が始まるや、身元不明の他殺死体が発見され、たけしの遺体だと認定されます。たちまち、「おっさん探偵団」ともいうべく、たけしを殺した犯人を突き止めようとします。テレビ局にあふれかえる「即席探偵」の群れ。

  ずば抜けて頭が良いダンカンが、じきに「真の探偵役」となります。

  そこへ襲いかかる謎の暗号。

「しやうじや 1-2-3-7-9ー11」

  ダンカンは、最初こそ困惑するものの、この暗号もクリア。

  ところが、歓びに湧く中に告げられたのは「たけし軍団」所属の芸人の死。

  そして、また軍団の芸人が殺されます。この「一種の異型密室」の謎も、たちまち解き明かすダンカン。そのダンカンの身にも犯人の魔手が迫っているとは夢にも思わない東でしたが・・・・・

  

 

 

  もはや確固たる”大成功した政治家”であり、テレビには知識人として、または政治家として出演する立場の東国原英夫さん。クイズ番組ではなんだか妙に「地に足付いた」博学ぶりを発揮、番付番組 「プレバト」で俳句をとおして独創的な発想と表現力を感じさせる東国原英夫さん。

  実は、東国原英夫さん、20代後半~30代にかけての日々、繁忙の中で時間をやりくりしては、新人賞への投稿作品を執筆なさっていた、という過去をお持ちです。

  狙いを定めたのは、かの江戸川乱歩賞。つまりミステリー作家をめざしていらっしゃったのです。そこへ降って沸いたのが「たけし軍団」による「フライデイ出版部襲撃事件」。TV番組「しくじり先生」によると、東国原さんは召集されたとたん、「まじやば」と認識、血が引いたとか。それもそのはず、「フライデイ」も「江戸川乱歩賞」も「講談社」それも「看板」。及び腰の東国原さんは、少しでも火の粉から遠ざかるべく、エレベータの最後に乗り込む・・・・・そう、自ら罠をほってしまった。エレベータは普通、扉に近い順に降りるわけなので、東国原さんは気がつけば襲撃隊の先頭にたつという状態。これで、江戸川乱歩賞への投稿は、永遠にお預けになりました。

  ちなみに、乱歩賞向けに書いていらっしゃったのが、ものすごく本格、トリックや暗号などのギミックにこだわり、練に錬られた”ハウダニット”のミステリー、らしいです。まだ綾辻行人さんの「十角館の殺人」は未発掘。江戸川乱歩賞にガチ本格ミステリーを投稿すると、「古くさい」「大仰すぎる」「現代社会への疑問が提示されていない」などこき落とされ「一次選考」すら通らないことがほとんど、という時代っぽい。 今や人気作家の「大関」ともいえる池井戸潤さんも、はじめはヨーロッパのメルヘンや民話に材をとった本格ミステリーや、近世ヨーロッパを舞台に繰り広げられる本格歴史ミステリーを投稿なさったものの、塩対応だったため、乱歩賞の大好物「業界もの」にシフトチェンジなさったと、デビュー当初、言っておられたと思います。

 

  もし「襲撃事件」が起こらず、東国原英夫さんがネタ作りに軽く書いた感のあるこの「ビートたけし殺人事件」ではなく、練に錬った勝負作、それこそ島田荘司大先生リスペクトのトリック重視、ハウダニットの本格ミステリーで1987年度の乱歩賞を受賞なさっていたら、ミステリー界にも影響があったでしょう。本格ものと乱歩賞の相性の悪さは周知の事実ですが、この都市にかぎれば、受賞出来た可能性が高い。この回の受賞作は、石井敏弘さんの「風のターンロード」。作者さんはとっくにミステリー界から消え、受賞作も酷評を残したのみ。しかし、なんと乱歩賞史上に残る作品です。石井敏弘さんは、「史上、最年少の乱歩賞受賞者」なのですから。こうしてみると、「最年少受賞者」などという「看板」には、まるっきり意味も価値もないことが明白化と思います。近年、増える一方の「高校在学中、それができなくても大学在学中の作家デビュー」を希望する10代の作家志望者さんたちには、この点を熟考して頂きたいところです。

 

  力を抜いて書いた作品、ネタ作品ぽくはあるものの、「ビートたけし殺人事件」はミステリーとしては良くできていると思います。暗号も、工夫が凝らされた、一筋縄ではいかぬ謎にしあがっています。

  そして、一風変わった密室の謎。密室に存在するのは「死体」ではなく「犯人」。つまり、「密室の中の被害者をどのように殺したか」ではなく、「密室の中から、密室外の被害者を、どのように殺したか」、それが大問題。ふたを開ければ、アホなトリックですし、このような「ひねくれた設定」を思いついてしまった作者さんも、ある意味「アホ」だといわなければならないでしょう。

  そして、容疑者を集める前に、昇天してしまう○○役。立場からもわかるとおり、めちゃ頭が良く、その「事件説明」と「謎とき」は、鮮やかというほかないのですが・・・・・思えば、あまたのミステリーで、なぜ犯人はこの立場の人物を早々に殺してしまわないのか、思えば謎ではあります。これは近年、今村昌弘さんもやったパターンで、今では類似パターン多々ですが、1987年以前にこれをやった作家さんは・・・・・・うーん、思い出せないです。

 

  イロモノ感は否めないけれど、充分、楽しめる本作。ブックオフの100均コーナーで、たまに見かけるので、興味がおありならご一読ください。

 

  追記しますが、本作の大欠点。本筋に関係ない内輪ネタがある。しかも・・・・・ネタに登場する芸人さんたちが、ほぼ全員 「あの人は、今」系のひとたちであり、若い人は存在そのものを知らない。

  「ビートたけし」より「北野武」のほうが、興味をそそるキャラであるということが、今ではバレてしまっている。

  ざっと、このあたりでしょうか。