湊かなえさんの「告白」が刊行され、「イヤミス」という言葉が生まれてから、かれこれ、10年近いとおもいます。

 

 そして、いまや、書店にあふれる 「イヤミス」のかずかず。

 イヤミス作家に分類される作家さんも多い。

 ざっと、あげてみると。

 作品は参考作品で、全作品ではありません。

 

 ・真梨幸子さん

 あまりにも有名。もはや「イヤミスの女王」は、湊さんではなく、この作家さんに捧げられるべき称号といっても過言ではありません。

「鸚鵡楼の惨劇」「みんな邪魔」「五人のジュンコ」

など多作。有名なのは「殺人鬼フジコの衝動」でしょうか。

 近年、複雑化を突っ走るプロット。返して、返して、また返す「どんでん返し」のたたみかけは、さながら「イヤミス界の折原先生」。で、近作は、メモを取らないと読めない難解な作家さんとなっており、ビギナーにとっては、ハードルが非常に高い。

 

・林由美子さん

 「堕ちる」「揺れる」

など、タイトルで「イヤミス」とわかる、解りやすい作家さん。

 作品も、とても解りやすい。伸び悩んでいる感じですが、なぜ、そうなのかも、1冊読めば解ります。

 超超ビギナー向け。なのですが、作品の大半が2年ほどで絶版になっています。その理由もすぐに解ります。

 ただし「ミステリー要素」の薄さもハンパない。「イヤミス」的な「イヤさ」だけでなく、寝過ぎた後の午後、みたいな倦怠感に襲われる、かもしれません。

 

・松村比呂美さん

 「鈍色の家」「女たちの殺意」「黒いシャッフル」

 同人誌っぽいなあ、という感じの作品群。デビュー作は自費出版。

 きわめて読みやすい。昭和の少女マンガ、特に「マーガレット」系作品が好きだった人には好みかも。

 「クラスの美人女王=自意識過剰で鼻に付く高学歴キャリア女子に成長」これが、パターン。つまり、「ありそう」と錯覚しがちな「ありえない」イヤ女のオンパレード。

 

 と、ここまで書いた時点で、すでにイヤな気分をお察しいただけるかと。

 このあたりの作家さんは、2、3冊読めば、おなかいっぱい、です。

 「イヤミス」はすでに「ドロドロ」を書いた「ドロミス」化している、といった風潮でしょうか。

 「リバース」「ホーリーマザー」あたりで別路線にシフト、「山女日記」で、脱「イヤミス」かと思われた湊さんも、また「ドロミス」っぽくなってしまったのが残念。

 

 他に、あまりにもクオリティが高く、すでにして「イヤミス」扱いがはばかられるのが

・実は本格ミステリー度が高い深木章子さん

・すでに「ホラー」な明野照葉さん

・号泣必至。イヤというより哀切、沼田まほかるさん

・硬質なプロットが魅惑の秋吉理香子さん

・もはや、「人間性文学」「冷徹にしてドライ」の櫛木理宇さん

・何とも言えないロマネスクな香気ただよう美輪和音さん

・3作目「すみれ屋敷の罪人」でオオバケ、降田天さん

あたり。

  「イヤミス」ファンでない読者さんをも引き付けるレベルです。しかも、エンタメとしても、おもしろい。櫛木理宇さんあたりは、「おもしろい」云々ではない作風ですが。

 

  そして、近接していても、ジャンルが違うことが明白なのが

・恩田陸さん

・若竹七海さん

・近藤史恵さん

・皆川博子さん

・桜庭一樹さん

・宮部みゆきさん

男性作家さんより

・西澤保彦さん

・小林泰三さん

・牧野修さん

・米澤穂信さん

さらに海外から

・マーガレット・ミラー

・パトリシア・ハイスミス

・シャーロット・アームストロング

・ヘレン・マクロイ

・クリスチアナ・ブランド

・ダフネ・デュ・モーリア

・ケイト・モートン

といったラインナップ。「イヤ」ではなく「毒」の世界です。クリスチアナ・ブランドあたりは、すでに「文学的諧謔」といってよいと思いますし、そうなると、「鐘」のアイリス・マードック、「パリの家」のエリザベス・ボウエンなど「英文学作家」たちも、果てしなく境界線に近いとおもいます。

 天童荒太さん、貫井徳郎さんあたりは、このジャンルにも入れづらい。「神」「救済」に属する要素が強いです。描かれる「罪」も「原罪」に近い。

 

  以上、ざっと振り分けてみましたが、「イヤミス」という言葉が使われるより遥か以前から、「毒」を扱った作品が多々、刊行されてきたことが、おわかりいただけると思います。

 

 では、「最初」に「広義ノイヤミス」を書いたのは誰か。そして、その作品は何か。

 

 山村美紗さんの初期作品は、それに近いのですが、まだ「新しい」。

 小泉喜美子さんの「弁護側の証人」? NO、果てしなく「現代」に近いです。

 

 最初の、「イヤミス・イヴ」とも言うべきは、ずばり、

 1967年の江戸川乱歩賞受賞作、戸川昌子さんの 「大いなる幻影」

 これが、正解ではないかと思います。

 

 青山の同潤会アパート(屋上にプールまであった独身女性むけ超高級アパート)をモデルにしたと思われる中層アパートが舞台。アパートといっても、現代でいうなら、高級マンションです。

 入居つまり購入資格は、高学歴高収入、かつエリート・ホワイトカラーもしくは専門職についている独身女性であること。それのみ。1940年代に華やかな独身生活を謳歌していた女たちがヒロインです。しかし、彼女たちは定年退職し、終日、自室で過ごす生活。しかも、他人が入りこめない、当時としては先進のセキュリティが、高級アパートを閉鎖世界にしてしまっています。入居女性の中には、早くも認知症の初期症状があらわれている老婦人も。かつては、贅沢で豪華だった調度品も、今では古びて凄みさえ感じさせます。

  そんな閉ざされた人間関係の中で殺人事件がおこります。

 

  以上が、文庫本にしてたぶん、300ページにも満たない長さで描かれているので、非常に濃密なストーリーです。

 

  そして、まさに、イヤミス。戸川さんの筆歴を追うと、その後、イヤミス路線が続き、オカルト、ホラーにシフト、そしてまたイヤミスに回帰するのと並行して純文学を書く、といった感じでしょうか。

 

  中古でも高価だと思われますが、機会があったら、ぜひ。

 

  なぜこの作品にぶち当たったかと言いますと。

  メフィスト賞、鮎川哲也賞、福ミスの過去受賞作を読みあさっている途中、ふと気になったのが、江戸川乱歩賞は創設当初から、今みたいな感じだったのか、という件。

  二木悦子さんの「猫は知っていた」は、それはもう、じゅうぶんに楽しめました。

  そして、次にこの作品に取り掛かり、数十ページほど読んだところで・・・・・・これって、「イヤミス」では?