松村比呂美さんの「黒いシャッフル」(光文社文庫)

 

   私立の中高一貫、お嬢さま女子校を卒業した女三人組み、麻里、葵、すみれ。

   ひときわめだつ美少女で、エレガントな制服紹介ページのモデルに選ばれた麻里は、中学校時代はまさにクラスの女王さま。そんな麻里から「クラスの中で、私のつぎに可愛い」という理由で友人として選ばれた清楚で可憐なのに消極的な葵、小学生時代にいじめられた経験があり、いじめの対象となるのを避けるため「クラス一番の人気者」である麻里に近づいて、自ら「友だち」という名の「引き立て役」となったさゆり。三人はクラスのトップカーストとして、クラスメイトたちから憧れられる存在でした。

  しかし、それは過去の話。亡くなった中学時代の恩師のお別れの会に出席した三人も、すでに30代。そこでも注目を集めたかに思えた麻里でしたが、遅れて出席した美人に完全に主役の座を奪われます。その美人こそ、中学時代、麻里が先導してイジメの標的にしていた朋世の成長した姿でした。中学時代は貧しかったはずの朋世ですが、今は裕福なようすが喪服や持ち物からうかがえます。既婚なので、玉の輿にのったのでは、と推論する麻里。自分の結婚生活と比較してしまいます。

  麻里の年下の夫、朔は売れないモデル。不動産会社のエリート営業ウーマンの麻里が、生活の全てをまかなっています。たまに撮影の依頼が来ても、読者モデル同然の扱いで、服も靴もすべて自前。見えっ張りの朔は、1万円くらいのギャラの撮影のために、10万円以上の服装一式を新調。出費はもちろん、麻里の稼ぎに頼って悪びれるようすもありません。結婚するまでは朔の美しい容姿に夢中だった麻里ですが、いまやヒモでしかない夫に愛想をつかし、「早く死んでくれないか」とまで考えていたのでした。

  一方、葵とさゆりにも「死んでほしい」と願うふたりの男がいます。とんだDV男だった葵の前夫、浩一。そして、大学卒業後、引きこもり状態を続けながら母に暴力をふるい、妹の収入を湯水のようにネットショッピングに消費する、さゆりの兄。三人で集まったとき、麻里が口にした「交換殺人をして、邪魔な男たちを始末しよう」という言葉が、にわかに現実味をおびてきます。ついに、三人は交換殺人の計画をたて、「シャッフル計画」と名付けます。まず、麻里がさゆりの兄を殺すというのが、計画の順番。

  そして、ある日、「アリバイ作り」のために出掛けていたさゆりが帰宅すると、家の中には変わり果てた兄の死体が。警察は兄の死を自殺として処理するようなのですが・・・・・・

  麻里がほんとうに兄を殺した・・・・・麻里の恐ろしさを思い知らされたさゆりは・・・・・・

 

 

  昨年の夏、店頭チェックの甘さで国産ミステリーの新刊を何冊も見落としてしまった私。

  中山七里さん、櫛木理宇さんの新刊など、気がつけば刊行後数カ月たっていたという状況で、図書館で借りようとしても、すでに予約待ちの人が300人を超えているという状態。

  以来、発売後すぐに借りられるよう、楽天のカレンダーで新刊刊行予定をチェックしていたにも関わらず、この「黒いシャッフル」には新聞広告でやっと気づいたという状態。すでに半月くらいたっていたのに、図書館ではかなり余裕で借りられました。

 

  新聞広告を読んで興味を持ったのは、「交換殺人」を扱った作品だったから。

 

  交換殺人。テーマとしては面白いし、物語の展開にも変化をつけやすい、作家さんにとってはかなり「美味しい」ネタだと思うのですが、これを扱ったミステリーは意外にも決して多くありません。海外の古典的な名作として、必ずといってもよいほど例示されるのが、パトリシア・ハイスミスのあの「代表作的作品」なんですが。実際に読んでみると、期待を超える面白さは感じられないというのが、正直な感想。ハイスミスはむしろ、短編のほうがおもしろいのではないかと思います。

 その他国内外をとわず「交換殺人もの」は多少あるのですが、タイトルを明かす=ネタバレにつながるような作品多々なので、具体的なタイトルは明記しません。

  たぶん、未読なのは、東川篤也さんの、あの有名作品くらいかと思います。しかし、私にとって東川篤也さんは、鯨統一郎さんとならんで相性最悪な作家さん。「ディナーのあと」を面白く読めなかった人でも、この作品は「必ず笑えて楽しめる」と激賞されていますが、同じふれこみだった「もう誘拐なんてしない」も、ひとかけらも笑えなかったし、楽しむこともできませんでした。なので「交換殺人ものの傑作」とされているコレも、密室の傑作らしいアレも、まず読むことはないと思います。

 

  さて、交換殺人ものとしての「黒いシャッフル」を考えるに、確かに「黒い」もはや「真っ黒」、しかし「シャッフルしているのか」というもの。いかんせん、「交換殺人」に関する「計画」が、ひたすら秀逸ではない印象がぬぐえません。

  若い男性が次々に不審死、ちょっと調べると彼らに近い女たちは、中学時代に親密だった。これで、微塵も疑わず、掘り下げた捜査もしないなどというマヌケな刑事は、数々の関門をクリアしなければ捜査一課に配属されない日本の警察事情を考えるに皆無に近いのでは、と思います。

 

  そして、人物設定のテンプレ感の強さがハンパないという短所も見落とせません。そのために、ストーリー展開にリアリティが感じられないからです。これは、松村さんの過去作のほとんどに共通する弱点。あえて言うなら、明野照葉さん、新津きよみさん、永井するみさん、永嶋恵美さん、林由美子さん、宮西真冬さんなどの作品にも、多く見かける傾向といえます。

 

 今まで読んだかぎり、松村比呂美さんの現時点での最高傑作といえば以前ご紹介した「鈍色の家」だと思います。

https://hama-sush-jp.pro/eseseve10/entry-12436478123.html

 

 その点で今世紀以後にデビューなさった女性作家さん、はたまた女性ラノベ作家さんたちの中で、北里紗月さん、松嶋智佐さん、吉川トリコさん、望月諒子さん、雀野日名子さん、青木佑子さん、深緑野分さん、美輪和音さん、などなど、じつに対照的な作家さんだと思います。