以前私に三十年物のガイドブックを貸してくれたおじいさんのことを覚えていらっしゃるだろうか。

あの時は詳しく書かなかったが

このご老人、なかなかの変わり者であることで隣村では少々有名である。


私も村のお姉さまおばあさま方から聞きかじっただけだが

なんでも若くして奥様と子どもに逃げられ、以来御年76の現在まで一人暮らしらしい。

それだけならまぁ同情を誘うお話なのだが、なんせ彼

若い女の子をナンパしては家に連れ込む


というなかなかご機嫌なご趣味をお持ちのため村人から警戒されている。

連れ込むと言ってもただお喋りをするだけなのだが

いきなり誘われた方はそりゃビビる。

かく言う私も幾度となく家に招待されては

日本人の最終奥義 「また今度」 「考えておきます」 で乗り切ってきたのだが、

そうすると今度は

「では今夜スカイプで話そう」


と言ってくる。



いや、用があるんなら今言ってくれ。




申し訳ないが、さほど良く知らない相手(しかも家が近所)と

わざわざスカイプで話すメリットが思いつかない。



「寂しい身のご老人になんて冷たい・・・」


と思われるかもしれない。

実際、彼と同年代の村の方々もそう思い幾度となく彼に手を差し伸べて来た。

が、このご老人

自分と同年代の人間にはひたすら冷たい。

というか、若い女性以外に全く興味を示さない。


それ故、村の同年代の男性の集まりなんかには死んでも顔を出さないらしい。





ごめんおじいちゃん、あんたちょっと面倒臭いわ!(本音)






さてこのご老人、実は5月に2週間ほど日本に旅行に行っていたのだが

「日本」という共通の話題が出来てしまったお陰で

事態は一気に悪化した。


彼とは週に一回合唱団の練習で会うのだが

休憩時間や練習後に私が他の若い女性団員と話していると

いきなり話に割り込んで来て自分の日本旅行語りを始める。


さらに最近は日本語に興味があるから時々レッスンをしてほしいと言う。



いや、私も一応仕事のある身、悪いが勘弁してほしい・・・・。




これが普段からお世話になっている村のお姉さま方なら喜んで応じるのだが

なんというか、正直このご老人相手だと全く気乗りしない私は

ちょっと薄情な若者なのだろうか・・・・。




さて先日このご老人が唐突に

「日本語で 『Low』と『Noise』と『Block』 はどう書くのか」


と紙とペン片手に聞いて来た。

すでにピンを来られた方もいらっしゃるだろうが、この手のハイテクには疎い私。

妙な単語の羅列に首を傾げつつ、とりあえず

『低い』 『雑音』 『ブロック』

と書き込んだところ、このご老人

「じゃあこれをうちの壁にペイントするよ」


と言う。




うむ、さっぱり意味が分からん。





という訳で良く聞いてみると、

というか良く聞いても全く要領を得なかったのだが、


彼は自分の家のアンテナの近くの壁を塗り替え中で

そこに日本語で『Low Noise Block』と書きたいのだと言う。




理由は訊かないで欲しい。私も知らん。




そもそもこの 『Low Noise Block』 が何かすら見当もつかない私。

しかしこれの日本語訳が

『低い雑音ブロック』


でない自信だけはあったので帰って速攻Google先生に伺ってみた。

そして先生曰く、日本語訳は

『LNB』


らしい。





・・・・・・うん。






どうやらテレビのアンテナに取り付ける何からしいが

この手のことに全く興味のない私。

速攻で調べ飽きたので後日このご老人に

「日本語でLNBだそうですよ」

と報告しておいた。

当然「いやそれは英語じゃないのか」と突っ込まれたが

私がめちゃめちゃ適当にざっくり調べた限り日本語訳はなかったので諦めて欲しい。

するとこの老人

「じゃあ前回書いてもらった『低い雑音ブロック』を壁に書くことにするよ」


という。




いや、それは全くおススメ出来ないぞ・・・・・。





とやんわり伝えてみたが

「どうせ日本語の分かる人間なんて村にいないからなんでも良い」


というご老人。




じゃあわざわざ聞くなやーーーーー!






どうせ誰にも読めないから何でも良いというなら

もはや日本語ある必要性すらないのではないか。

というかそもそも壁に「Low Noise Block」と書く理由は何なんだ。








もはやどこから突っ込めばよいか見失いつつある私だった。