もう16年も毎年この詩は私が伝える8歳の私の戦争の記録として載せてきました。

荒れ果てたウクライナの町を見ると心が痛みます。あれは紛れもない現実です。

 

 

        箱  舟

 

 季節風は

 吹き()れてもいつかきっと止む

 だが 爆撃は

 いつ終わるのかわかりはしなかった

 いのちの瀬戸際に立つことに疲れ果て

 人々は箱舟を

 あえぎあえぎ走る黒い車体の箱舟を

 上野の駅頭でじっと待ち続けた

 

 

 芋の混じったボロボロの握り飯を出して

 一口齧ると

 何本ものよごれた小さな手がさし出された

 「チョウダイ」「チョウダイ」

 からだ中に満ちていた食欲が

 針で穴をあけられた風船のようにしぼみ

 握り飯をつかんだ掌を差し出した

 幾本ものよごれた手がそれをとり合い

 その一瞬の喧騒がすぎると

 不思議に世界は動かなくなり

 人びとはまたじっと箱舟を待った

 母の膝に縋った幼い日の脳に焼き付いた

 枯野のような灰色の街は

 神の審判を受ける恐怖に

 サイレンの悲鳴をあげるのをやめた

  束の間の静寂だった