これまた40年前と全く違う部分が気になりました。
あとのない仮名
(山本周五郎著)
(2024/07/27読了 : 四読目)
八篇が収録された短編集です。
これまでは藩主の意図が分からない人事に不承不承勤めて最後にあっと思わせる「討九郎馳走」や、「滑稽もの」の「主計は忙しい」などが印象に残っていました。
今回はタイトルにもなっている「あとのない仮名」が印象に残りました。
腕の良い植木職の源次は、仕事も家族も放り出して放浪します。
色男を武器にして煮売屋の女将に世話になったり。以前、仕事をした家の庭の手入れをしたり。
飲めない酒を飲みながら、家にも帰らない、真っ当に仕事をしない源次。
天塩にかけた植木たちが勝手に育って自分の手を離れてしまう。
何日も山を歩き、疲れ果てて帰ってきたら、女房が「めしの支度はそこにできているよ」とだけ言って勝手に入ってしまう。
そんな無情に嫌気がさし、心の中を虚しい風が通り抜けていくだけ。
読んだ時、もしや山本周五郎の気持ちなのではないか、さまざまな作品を生み出したあとに、周五郎の心の中にも虚しい風が吹いていたのではないか、と思いました。
解説を読むと、果たしてこれが山本周五郎の最晩年の作品なのだそうです。
私も、もう引退の年齢で、ここしばらくの今の私も気持ちに触れたのかもしれません。
他にも、主従でありながら深い友情を描いた「桑の木物語」、報われない夫の愛情に妻がついに気づく「竹伯記」にも涙してしまったのは、やはり自分の今の年齢があるように思います。
あと10年経って読んでみたらどんな感想になるのだろう?
山本周五郎の作品は、何度も読んで味が出る、スルメのような作品です。
(--.-/--.-)

