特に、韓国が即日でナフサ輸出を全面禁止(国内全量回し、5ヶ月間)という強力な国内優先措置を取ったのに対し、日本政府の動きは「備蓄放出中心」で、現場の石化業界がすでにエチレン減産(国内設備の半数近く)を始めている状況に対して、即効性のある抜本策がまだ見えにくい点が批判されやすいです。

政府のこれまでの対応(2026年3月時点)

  • 3月16日:民間備蓄の放出開始(15日分相当)。
  • 3月24日:関係閣僚会議で高市早苗首相がナフサを含む石油関連製品の供給網維持を指示。赤沢亮正経済産業相に「世界供給状況・国内在庫を踏まえた対応方針」の取りまとめを命じる。
  • 3月26日:国家備蓄原油の放出開始(当面1ヶ月分、約850万kl)。民間分と合わせ約50日分に相当。
  • その他:IEA協調放出への参加、ガソリン補助金の継続・積み増し、非中東産ナフサ(米国・南米・インド・アフリカなど)の代替調達支援、国内製油所への「ナフサ生産比率維持」の要請。
経産省は当初「ナフサ含む石油化学製品で国内需要の約4ヶ月分確保可能」と楽観的な見通しを示していましたが、現場ではすでに在庫が薄く(一部アナリスト推計で20日分程度)、韓国輸出禁止の影響も加わって5月以降が正念場という声が強いです。

なぜ「のほほん」に見えるのか?(主な批判点)
  1. ガソリン優先 vs 石化原料の後回し感
    備蓄放出は主に原油なので、製油所ではガソリン・軽油などの燃料生産が優先されやすい。ナフサ(石化原料)は相対的に薄くなりやすく、実際のエチレン減産を防げていない。
  2. 韓国とのスピード差
    韓国は在庫2週間分という逼迫を理由に、即座に「輸出禁止+毎日報告義務」を発動。日本は「試行錯誤」「方針取りまとめ中」という段階が続いている印象。
  3. 長期化への備えが弱い
    代替調達(非中東産)は高コストで船腹・保険の問題もあり、6月以前の到着は難しいとの現場見方。価格高騰・減産長期化が避けられず、包装材・日用品・自動車部品などへの波及が「想定より早い」との指摘が出ています。
  4. 構造的課題の先送り
    中東依存(ナフサ輸入の7割超)が長年の問題なのに、危機が起きるまで本格的なサプライチェーン多角化が進んでいなかった印象。
一方で、政府側からすれば「のほほん」ではなく現実的な限界もあります。日本は石油備蓄量が世界トップクラス(官民合わせて250日超)で、まずはこれを活用して「時間を稼ぐ」のが標準対応。韓国のように即輸出禁止を打つと、国際的な供給網や同盟国との関係に影響が出やすい面もあります。

今後の焦点

  • 4月は備蓄で何とか持ちこたえられる可能性が高いが、5月連休明け〜夏にエチレン減産が拡大し、ポリエチレン・ポリプロピレンなどの樹脂不足・値上げが本格化するリスク。
  • 政府が本当に「のほほん」か否かは、24日の閣僚会議で指示されたナフサ特化の対応方針がどこまで具体的で実行力があるかで決まります(代替調達の強力支援、価格転嫁円滑化、石化設備への直接支援など)。
ユーザーの感覚は、多くの現場関係者や経済アナリストが共有している部分です。中東情勢が長期化すれば、韓国並みの国内優先・輸出調整策や、もっと踏み込んだ経済安保措置(ナフサの戦略物資指定など)が求められる局面になるでしょう。

過去の主な石油・エネルギー危機と現在の2026年中東情勢(ホルムズ海峡事実上封鎖によるナフサ供給危機)を、ナフサ・エチレン減産・政府対応を中心に詳しく比較します。日本は1973年の第1次石油危機を教訓に世界トップクラスの石油備蓄(現在約240〜250日分)を整備しましたが、今回のように「ナフサ特化の即時減産」が早期に表面化したケースは珍しく、政府の対応が「のほほん」に見える理由の一つです。以下に主な過去危機(1973、1979、1990-91、2022)と2026年を比較表でまとめ、その後でポイントを解説します。過去危機 vs 2026年ナフサ危機の比較表
危機
きっかけ
原油価格変動
日本への影響(全体・石化)
政府対応の特徴
エチレン/ナフサ減産状況
危機の持続・結果
第1次石油危機
1973
第4次中東戦争 → OPEC禁輸・生産削減
約4倍
CPI +23%、トイレットペーパー騒動、高度成長終了。ナフサ高騰で石化原料急騰
ガソリン補助金初導入、民間備蓄90日義務化(石油備蓄法の原点)
データ少ないが、石化全般で操業率大幅低下(原料不足)
長期化(数年)。政策大転換(省エネ・備蓄強化)
第2次石油危機
1979
イラン革命 + イラン・イラク戦争
約2〜3倍
物価高・景気後退継続。ナフサ価格急騰
備蓄体制強化(国家備蓄開始)
石化原料高騰で減産圧力(詳細非公表)
数年。備蓄90日体制完成
湾岸危機/戦争
1990-91
イラクのクウェート侵攻
約2倍(短期)
ナフサ高騰(湾岸危機以来最高値)。石化輸出増も原料圧迫
IEA協調で民間備蓄4日分放出(初の国際協調)。高値買い自粛要請
ナフサ高騰で一時減産圧力も、短期終結で影響軽微
数ヶ月で収束。IEA放出の初事例
ウクライナ侵攻
2022
ロシア侵攻 → 制裁
130ドル台(約2倍)
エネルギー価格高騰(原油・LNG)。エチレン生産量600万トン割れ
IEA協調放出(民間4日+国家初放出)。ガソリン補助金
エチレン生産33%減(3月単月)。一部減産
数年(価格高止まり)。国家備蓄初使用
2026年中東危機(現在)
2026
イラン情勢 → ホルムズ事実上封鎖
急騰(ナフサ価格 +60〜66%)
ナフサ在庫20日前後。エチレン12基中6基減産(国内半数)。包装材・自動車部品へ波及開始
民間備蓄15日放出(3/16〜)→国家備蓄1ヶ月分放出(3/26〜、単独)。ナフサ確保方針指示も「試行錯誤」
予防的減産が最速・最多(3月中旬から三菱・三井・出光など)
進行中(5月以降正念場)。韓国は即輸出禁止、日本は補助金中心
(出典:石油連盟・経産省資料、日本石油化学工業協会、IEA報告、Bloomberg/Reuters/Nikkei報道など)比較のポイント解説
  1. 危機の性質の違い(最も大きい点)
    • 過去(1973・79・90・2022):主に原油価格ショック。供給量は減ったが「全面禁輸」ではなく価格高騰が中心。
    • 今回ナフサ物流の物理的寸断(ホルムズ封鎖で中東産ナフサ74%が直撃)。原油価格だけでなく「原料そのものの入荷遅延」が即座にエチレン減産を招いている。過去にない「ナフサ特化型」危機です。
  2. エチレン減産のスピードと規模
    • 過去:価格高騰による「操業率低下」はあったが、具体的な「6基同時予防減産」までは至らず(特に1970-80年代は設備老朽化・カルテル対応が主)。
    • 今回:危機発生から2週間以内に国内設備の半数が減産開始。これは「プラント停止のコスト高(再稼働1ヶ月超)」を恐れた予防策で、過去事例より波及が早い。ユーザーが指摘した「素材→化学→製造業への波及が想定より早い」のはこのためです。
  3. 政府対応のスピードと内容
    • 1973:パニック後に対応(補助金・備蓄法制定)。「のほほん」ではなく「後手」だったが、結果的に制度を築いた。
    • 1991・2022:IEA協調放出が中心。2022は国家備蓄初使用で比較的迅速。
    • 今回:備蓄放出は過去最速クラス(危機発生から約3週間で国家備蓄開始)。しかしナフサ特化策は遅め(韓国は3/27即輸出禁止・毎日報告義務)。「ガソリン補助金優先」「代替調達模索中」という印象が強く、現場(石化協)は「高コストでも確保せよ」と自主努力を強いられている。
      → これが「のほほん」に感じる最大の理由。過去危機では「価格対策」が主だったが、今回は原料供給そのものの確保が求められているのに、具体策が「方針取りまとめ中」段階です。
  4. 備蓄の役割
    日本は1973教訓で備蓄を世界一に強化。過去危機では「時間を買う」ために有効でした。
    今回も約50日分相当を即放出で短期は繋いでいますが、ナフサは原油精製の副産物のため、放出原油を製油所でガソリン優先に回すとナフサがさらに薄くなる構造的弱点があります(過去にも指摘された点)。
  5. 波及の深さと長期性
    • 過去:1973のように「物価ショック+景気後退」が主。石化は価格転嫁でしのいだ。
    • 今回:エチレン減産→ポリエチレン・ポリプロピレン不足→包装材・自動車部品・日用品への直接影響が1〜2ヶ月で表面化しやすい。韓国輸出禁止(日本輸入の8〜12%消失)が重なるため、過去よりサプライチェーン断裂リスクが高い
まとめ:今回が「過去の教訓を活かしきれていない」ように見える理由
  • 備蓄量は過去最大級に強化されたのに、ナフサ・石化原料への目配りが薄い(ガソリン・燃料優先の伝統的対応)。
  • 韓国のような「国内優先・輸出規制」の即断がなく、国際協調・代替調達頼み。
  • 1973で学んだ「省エネ・多角化」が進んだはずなのに、中東ナフサ依存(輸入の7割超)は依然高く、危機の「型」が過去と違う(価格ではなく物流寸断)ため対応が追いついていない。
中東情勢が数ヶ月以上長期化すれば、2022年ウクライナ危機を超える石化ショックになる可能性が高く、政府の「ナフサ特化対応方針」(3/24指示)がどこまで具体化・実行されるかが正念場です。