
● 電気エネルギーで旅客機が 大陸間を飛ぶ未来はいつ来る?
電池を動力源とするワイドボディのジェット旅客機は、あとどれほどで大陸間を飛行するようになるのか?ニュースの見出しは、飛行の未来は電気だ、と請け合う。ターボファンで燃焼させるケロシンと、仮想上の電気飛行機に搭載されるだろう、今日の最高性能のリチウムイオン電池のエネルギー密度の間の途方もない隔たりを、呆れるほど無視して。
ジェット旅客機の動力源であるターボファンエンジンは、1キログラム当たりほぼ1万2000ワット時に相当する46メガジュールのエネルギー密度を持つ燃料を燃焼させ、化学エネルギーを熱エネルギーと運動エネルギーに変換するのに対して、今日の最高のリチウムイオン電池でも1キログラム当たり300ワット時未満しか供給できない。つまり、40倍以上の違いがあるのだ。
たしかに、モーターはガスタービンのおおよそ2倍も効率的なエネルギー変換器であり、そのおかげで実質的なエネルギー密度のギャップはわずか20倍ほどだ。だが、過去30年間に電池の最大エネルギー密度はおよそ3倍にしかなっていない。
だから、仮に再び3倍にできたとしても、2050年にエネルギー密度は依然として1キログラム当たり3000ワット時をはるかに下回り、ケロシンを燃料とするボーイングやエアバスの飛行機で何十年にもわたって毎日してきたように、ワイドボディの飛行機をニューヨークから東京へ、あるいはパリからシンガポールへ飛ばすには、とうてい足りない。
● 脱炭素運動を本気で進めれば 文明を支える4本柱の生産が止まる
そのうえ、現代文明を支える4本柱とも言える素材の生産に、電気だけでエネルギーを供給するような、すぐに導入可能な商業規模の代替手段はない。つまり、たとえ再生可能電気の豊富で信頼できる供給があったとしてさえ、セメント、鋼鉄、プラスティック、アンモニア(編集部注/現代社会は、これら4品の大量生産なしには成立できない)を生産するための、新しい大規模なプロセスを開発しなくてはならないのだ。
少しも意外ではないが、発電以外の脱炭素化はゆっくりとしか進んでいない。ドイツはまもなく、電気の半分を再生可能エネルギーから生み出すようになるものの、20年間の「エナギーヴェンデ」(編集部注/原子力と化石燃料からの脱却を図る、ドイツにおけるエネルギー革命)で、同国の1次エネルギー供給に占める化石燃料の割合は、約84%から78%に下がったにすぎない。
ドイツ人は、おおむね速度無制限のアウトバーン(高速道路)や頻繁な大陸間飛行を好むし、ドイツの諸産業は天然ガスと石油で稼働している。この国が過去20年間と同じ割合で進むと、2040年の化石燃料への依存率は依然として70%近い数字のままだろう。
では、途方もないコストをかけて再生可能エネルギーへの転換を進めてこなかった国々はどうなのか?日本がその最たる例だ。2000年には、日本の1次エネルギーの約83%が化石燃料由来だった。福島第1原子力発電所の事故後、原子力発電が停止し、再稼働も一部にとどまっており、燃料輸入の必要性が高まった結果、2019年には化石燃料への依存率は88%を超え、90%に迫っている!
● 化石燃料を他のエネルギーに 置き換えることは難しい
また、アメリカは石炭への依存度を大幅に下げ、発電では天然ガスに切り替えたものの、1次エネルギー供給に化石燃料が占める割合は、同年には依然として80%だった。一方、中国での化石燃料の割合は2000年の93%から2019年には85%へと減少したが、この相対的な下落の間に、同国の化石燃料需要は3倍近く増えている。
21世紀の最初の20年間に世界の化石燃料の消費量が約45%増えたのは、中国の経済的な台頭が原因であり、広範にわたって多額の費用をかけて再生可能エネルギーの利用を拡大したのにもかかわらず、世界の1次エネルギー供給に占める化石燃料の割合が、87%から約84%へと、ほんのわずかしか減少しなかったのも同じ理由による。
世界の年間の化石炭素需要は、今では100億トン強に達する。これは、全人類を養う主食穀物の最近の年間収量と比べて5倍近い質量であり、世界の約80億の人が毎年飲む水の総質量の2倍を超える。
だから、それほどの量の化石炭素を別のものに置き換える事業は、末尾が0か5の年に定めた政府目標(編集部注/温暖化対策を叫ぶ知識人や政治家は、「2025年までに~」「2030年までに~」「2050年までに~」という表現を好む)で対応するのが最善ではないことは明らかなはずだ。
化石炭素への依存は相対的割合も規模も大きいため、何にであれ迅速に置き換えることは不可能だ。これは、グローバルなエネルギーシステムをろくに理解できていないことに起因する、バイアスのかかった個人的な印象ではない。工学と経済の現実に基づく、実際的な結論なのだ。
● 脱炭素運動を楽しめるのは 余裕のある金持ち諸国だけ
近年の性急な政治公約とは違い、こうした現実は、慎重に考慮された長期的エネルギー供給のあらゆる筋書きが認めてきたものだ。国際エネルギー機関(IEA)が2020年に発表した「公表政策シナリオ」は、化石燃料が世界のエネルギーの総需要量に占める割合は、2019年の80%から、2040年には72%までしか下がらないと見ている。
一方、同機関のこれまでで最も積極的な脱炭素化の筋書きで、大幅に加速したグローバルな脱炭素化を見込んでいる「持続可能な開発シナリオ」でさえ、2040年にも世界の1次エネルギー需要の56%を化石燃料で賄うことを想定している。
これほど大きな割合を、その後のわずか10年でゼロ近くまで削減することなど、ほぼありえない。
富裕な世界は、その富や技術力、高水準の1人当たりの消費量と、それに伴う廃棄物の多さを踏まえると、たしかに、比較的迅速な目覚ましい脱炭素化の措置をいくつか講じることができる。
あけすけに言えば、どんな種類のエネルギーであれ、もっと使用を控えてやっていくべきだ。だが、富裕な世界の水準と比べるとごくわずかしかエネルギーを消費しない、50億超の人々の場合には、そうはいかない。
彼らは、増大する人口に食べさせるために豊産物の収量を上げなくてはならず、それには今よりはるかに大量のアンモニア(編集部注/農業用肥料にはアンモニアが不可欠)を必要とするし、重要なインフラを建設するために、ずっと多くの鋼鉄とセメントとプラスティックが要る。
私たちに求められているのは、現代世界を作り上げたエネルギーへの依存を着実に減らすよう、努力し続けることだ。この来るべき転換の詳細の大半はまだわかっていないが、1つだけ変わらずに確実なことがある。
すなわちこの転換は、化石炭素の突然の放棄によっても、使用量の急激な削減によってさえもなされることはないし、また、なされえない。むしろ、緩やかな減少という形をとるだろう。
バーツラフ・シュミル/柴田裕之
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