一緒にお昼寝してたわたしが

トイレに行って帰ってきたら

ベッドの上にお座りした笑顔のノアが待っていました

16年間
いつもいつもわたしを待っていてくれたね



2018年の10月


わたしの誕生日の日の真夜中12時頃


ノアの具合が悪くなりました。

もうすぐ16歳の誕生日を迎えるノアは

春先にてんかん発作が出て
心臓も急に悪くなり
一気に体調を崩していました


いつもようにベッドで眠っていると

リビングに置いてあるノアのケージから
ガタガタと音がして目が覚めました。


寝ている間に、てんかんの発作を起こしたのか

心臓の具合が悪くなったのか

跳ね起きたわたしは慌ててリビングへ


掛けてある布のカバーを上げて
ケージの扉を開けるとノアがよろよろと出てきました。

いまひとつ元気はありませんが
発作を起こした形跡はないようです。

足腰も弱ってきてるので
立ち上がったとき
ケージの中で少しふらついたのかも知れません。

しばらく様子を見ていましたが  
大丈夫そうです。

お気に入りの毛布の上まで歩くと
くるんとまるくなりまた眠り始めました。


「ノン、ハウスだよ、ねんねしよう」


明日も仕事があるわたしは
ケージに入れて寝ようと思い
横になっているノアに声をかけるのですが


なぜか丸くなって横になったまま
うーうーと唸って
畳んだ毛布の上からどこうとしません


発作のとき、倒れてどこかにぶつかって怪我をすると危ないし

ノアは、てんかんの発作の前に

歩き回りながら首を降って胃液を吐くので

リビングでフリーにしておくことはできません


いつもなら、唸られてもお尻をポンポンして

「いいこだね、いいこだね」

と、だましだまし
押しながらケージに入れて
その上から布を掛けるのですが


このときは

なんだかこれ以上無理強いするのが
かわいそうになり

丸くなって寝ているリビングの毛布の上にそのまま寝かせて

小箪笥の上のランプの灯りをつけて

わたしは寝室に戻り

寝室の扉を開けたままベッドに横になりました。



しばらくして、


テチテチテチ


リビングのフローリングを歩くノアの足音が聞こえてきました。

てんかん発作かなと身構えましたが

吐いてはいないようです。


テチテチテチ


足音は止みません。


ランプの明かりのなか

わたしを探して歩くわたしの犬。



ベッドから降りて、寝室から出ると

湿った鼻が
わたしの脛に当たりました。


灯りの届かない暗い廊下でノアはわたしを待っていました。


ノアの頭に手を当てて撫でると
暗がりのなか、ゆっくりとしっぽを振りました。


ドクターストップで
トリミングに出せず伸びきった頭の毛をくしゃくしゃと撫で回してから

脇を両手で持ってそっと抱き上げました。


左手で、ノアの身体を
右手でノアのお尻を支えます。


ノアは、仔犬の頃と同じように


わたしの肩に頭を乗せて、全身の力を抜いて
身体をわたしに預けました。


そこで、ノアは

ふんっ

と大きな鼻息ひとつ。


お尻をトントンと軽く叩きながら、


ノンちゃんがノンちゃんで
ノンちゃんがノンちゃんで


と病気の年寄りの犬に

でたらめの子守唄を

真夜中のリビングで唄いました。




わたしの誕生日の真夜中です。


ママのお誕生日に

具合が悪くなるなんて

勘弁してよ、ノア



抱っこしながら

揺れながら年寄りの犬に話しかける。


真夜中のリビングで。

ランプの薄明かりのなか

寄り添う

仔犬のような

病気の年寄りの犬と

眠いわたし。


聞こえてくるのは

ハウスで眠るクレールのいびきの音だけ。

わたしは、しばらく抱っこをしてから
ノアを毛布の上に下ろし

その晩は、リビングのソファーでやすみました。


その夜、そのあとは何事もなく

翌朝、ノアはいつも通りクレールと朝ごはんを食べ

一日、いつものお気に入りの毛布の上でウトウトして過ごしました。





今も、真夜中に目が覚めると耳を澄ましてしまうことがあります。



テチテチテチ


わたしを探して歩くノアの足音。


聞こえるのではないかと期待してしまう。


唯一無比の足音。


それはノアからの

バースデープレゼントでした。



脛に当たる湿った鼻

揺れるしっぽ

抱き上げたノアの身体の重みと

温もり。

犬のにおい。

爪が床に当たる音。

クレールの寝息。


時が止まった静かな夜。


わたしは犬にバースデープレゼントをもらいました。


何も持たない犬から
形はないけれど

大きな大きなバースデープレゼントを。



それは

ノアの愛の証。


暖かく優しい愛の重み。


今更ながら
なんてわたしは幸せだったのだろう。





いつかわたしの命が尽きたとき

ちぎれんばかりに

しっぽを振っているノアが先頭になって

走って迎えに来てくれる。


そうわたしは信じてる。


ノアは初めてのわたしの犬だもの。