「緑(グリーン)鞭(ウィップ)…」

 ダークネスグリーンは、無数にトゲのついた緑色の鞭(むち)を、目の前で立っているちえりに対して構えた。

 ちえりの瞳はじっと、とダークネスグリーンを見つめていた。真っ黒な眼が、ダークネスグリーンの胸の奥をズキンと貫いた。

 目の前の少女の瞳は真っ黒だというのに。黒なのだから、暗黒王(ダークネスキング)の加護はないのであろうか。なぜ、胸が痛むのか。

 ダークネスグリーンは、以前にちえりから感じた、不思議な感覚を思い出した。

 手を握ったとたんにフェードアウトしてしまいそうな体全体に走った不可解な衝撃や、それとはまた別に感じた、心のモヤモヤ。

 私はただ、純粋に侵色(しんしょく)をすれば良いのだ。

 それは、暗黒王(ダークネスキング)様から、与えられた、自分の使命。

 その使命は、いつから与えられたものだろうか。

 彼女は気がついた時、暗黒王城(ダークネスキャッスル)に在った。そう、緑色の暗黒元珠精(ダークネスガーディアン)として、存在していた。

 いや、私たち色は、宇宙創生依頼、光とともにずっと存在している。

 いいえ、そういう時間軸の概念じゃない。色彩層(パステルワールド)という層(レイヤー)は無始無終なのだ。

 だから正確には、自分の存在を認識したのが、最近ということなのだ。もともと私は緑を守る精(ガーディアン)として、無始無終で存在している。後も先もなく。

 それが、人間の層(レイヤー)の世界(ルール)にリンクされてしまい、私はこの世界(ルール)に従わなければならなくなった。

 つまり、この層(レイヤー)で精(ガーディアン)として存在するために、肉体を与えられ、同時に魂(こころ)を宿した。

 そして、この人間の層(レイヤー)の世界(ルール)に縛られる代わりに、色彩層(パステルワールド)では出来ないことが、出来るようになったのだ。

 それが「侵色」。

 この世界を暗黒一色にすること。私の使命。すべてを闇に帰す。ひとつの色にして、この世界から色の差位をなくすのよ。

 すべてが、平等。すべてをひとつに。

 …なのに。目の前の少女の瞳は、なぜこうも私の動きを止めてしまうのか。

「わ…悪く思わないでね」

 ダークネスグリーンはたまらず、喋り出した。

「私は、あなたを騙(だま)したのよ。私はかえでじゃなくて、ダークネスグリーンなの。あなたの敵。だから…私はあなたを倒すの!」

 ダークネスグリーンのは息を荒くして言った。

「ちえり様!」

 パステルハニーは、鞭を構えたダークネスグリーンに、今にも蜂蜜流星鎚(ハニースター)で応戦しようとしている。

「くそ、今、行くぞ!」

 パステルバーミリアンも飛びかかろうと、姿勢を変えた。

「待って! ちょっと、まだ待って」

 パステルラピスが咄嗟(とっさ)に2人を制した。

 パステルラピスの視線の先には、緊迫して対峙するダークネスグリーンとちえりがいた。この状況でも動かずに見守れと言うのか。パステルハニーもパステルバーミリアンもじっとしていられない。

 そこへ、ちえりが口を開いた。

「うん。知ってたよ!」

 ダークネスグリーンは思わず、ぽかんとした口で「知ってた?」と答えた。

「みどりのおねーさんが、かえでちゃんでしょ? そんなのはじめから、ちえり知ってたよ」

「ち、ちえりさん…」

 ぱれっとも、かあらもびっくりしている表情だった。

「…うふふ! 嘘言わないで! だったら敵である私に、桜色の色彩元珠(パステルオーブ)をなぜ渡したの!?」

「かえでちゃんは敵だけど、おともだちだよ」

 ちえりはそのままダークネスグリーンに一歩近付くと、満面の笑みを浮かべて、そう答えた。

「知っていた…のに、私を受け入れたの? 知っていたのに、ずっと私を友達だというの? 知っていたのに、色彩元珠(パステルオーブ)を渡したの?」 

 ダークネスグリーンの表情がみるみるうちに崩れていく。

「『緑』は仲良しの色だよね。だから本当はかえでちゃんはみんなと仲良くしたいんだよね」

 ぱれっとは昨夜一緒に「色・判断」を読んでいた、ちえりやかえでを思い出した。

 ダークネスグリーンは武器である鞭(むち)を地面に落とすと、そのまま崩れ落ちるように尻餅をついた。

「なるほどこれか、パステルラピスが言った『チェリーが秘密兵器』たる意味は。暗黒力(ダークネスパワー)を無効化するチカラとは!」

 ならば、と、彼は手に持った赤黒い槍の先をちえりに向ける。

「ダークネスレッドまで一気に行くわよ!」

 パステルラピスが叫び、パステルガァル!たちは電光石火で動いた。