「るりねー、この本知ってるか?」

 あかねがリュックから一冊の本を取り出した。

 みな、シャワーを浴び、夕食を済ませ、みつばの部屋へと移動し、まったりしはじめていた。

 みつばの部屋は、一般家庭に比べれば非常に大きかった。ちえりはふかふかのじゅうたんが敷いてあるフローリングを舐めるように見て、ちょっと目を細めながら「20畳はある」とざっくりとした目分量で、そう呟いたらしい。

 今、ちえりとみつばは、ぬいぐるみ…使者のぱれっと及びかあらで遊んでいて、何故かかえで(仮)も巻き込まれていた。

 ぱれっと及びかあらは、第三者がいるためにぬいぐるみを演じているわけだ。

 ちえりとみつばは、ぱれっと及びかあらが動けないのをいいことに、傍若無人に振り回している。そう文字通り、手足を掴んで振り回している。ローリングである。

 ところが、かえで(仮)は、ダークネスグリーンであるのだから、彼らが使者であることはよく知っていた。

「あ、あんまり振り回しちゃかわいそうよ…」

 ぶいんぶいんと、手足を持って引っ張っているふたりを見て、かえで(仮)は引き気味にふたりを制した。

 なんだか、敵の吐くセリフではない。

「大丈夫ですわ! ただのぬいぐるみですから! お気遣いなく!」

 みつばはかあらに「ジェット☆コースターァァ」という技を御披露目した。

「あはは。ぱれっと楽しいねえ!」

 ちえりはぱれっとに「マッハ☆メリーゴゥランドォォ」と言う技を。

 2匹はぶぉぉんと吹き飛ばされ、目を回しながらベッドに頭から着地した。そして、彼女らへの復讐をストロングに誓った。

 話は戻るが。

「なになに、なによ、この本。えーっと『色彩診断』?」

 るりかはあかねから本を奪うとパラパラとページを捲(めく)った。

「ふーん、なるほど。『色』自体に、イメージや性格みたいのがあるってことね。好みの色はその人の性格とか性質を写し出します、ふんふん、なるほど」

「面白そうだったから、買ってみたんだ」

 なんか、こう、パステルガァルの世界観にどっぷり浸かっている感じのあかねは可愛かった。

「あ、恋愛のことも書いてある。お? あかねってば、ラブな男子いるの!?」

 あかねは顔色を朱色(バーミリアン)というか緋色(スカーレット)にして反論する。 

「ちがう! そそそそんなわけない!」

「『そ』が多いわね。なんでムキになってんよ」

 おもしれー、あかねおもしれーと言った表情でるりかが嗤った。

 ふたりが騒いでいるので、みんな近寄って来る。

「この本、好きな色で性格とか診断出来るみたいだから、みんなでやろう」

 みんなるりかを囲んで座った。

「ちえりは、さくら色!」

「チェリーだしね、そりゃあ好きよね」

 その色のパステルガァル!になるくらいだから、やはり本能的にその色が好きだと言ってしまうのだろう。

 るりかはペラペラとページを捲(めく)った。

「ああ、あったわ、さくら色。この色が好きな人は、豊かな人間関係が築けるって。素敵な恋愛もできそうよ」

 へぇ~、と、一同は感心した。

「ちえりは、ぶんぶんも、るりかちゃんも、あかねちゃんも仲間だし、かえでちゃんもお友達だし、つぐみちゃんとか、他にもいっぱいいるからねー。ゆかた、ゆかた。あれ、ゆ・か・た?」

「ゆかたじゃなく、ゆたかですわ、ちえり様」

 確かにちえり人脈は個性派揃いで十分に豊かと言える。

「る、るりねー、あたしは? 朱色! あかねの朱色!」

「なんぞ? まだ見てないのかえ?」

「な、何となく、読みづらくって…」

「朱色なんて項目あるかな? …えっと、攻撃的、直情的、情熱的、自信家…まんまだね」

「あかねさんたら情熱的なんですわね! みつばはクールな人だと思ってましたわ」

「クールだ! どこまでもクールだ!」

 あかねは、私は冷静だと、感情的に言っている。

「あの、私も…いいかしら?」

 かえで(仮)は興味深そうにその本を覗き込みながら、恐る恐る、るりかに話しかけた。

「えっと、み、緑色…」

 もともとは、緑色の色彩元珠(パステルオーブ)を守護する色彩の精霊。いわゆる色彩元珠精(パステルガーディアン)なのだ。

 色を守護するガーディアンの立場から見れば、人間層(レイヤー)の人間が勝手に判断した緑色のイメージなわけで。

 それを緑のガーディアンが逆に聞くのもおかしな話だった。

「え~と、ねーさんは緑っすね…」

 るりかが再びページを捲り、該当する項目を探し、読む。

「緑を好む人は、自然派。協調を重んじ、平和を愛し、安らぎを与える…だって」

 かえで(仮)は咄嗟にその意味を把握できず、首をかしげた。

「つまり、みんなで仲良くするのが好きで、争いが嫌い。そんでもって癒し系ってことっすね!」

 その言葉に、かえで(仮)は大きく目を見開いた。
 
「仲良くするのが好き…? わたしが」

 かえで(仮)は、動揺しているというより、驚いていると言う表現がより的確な、そんな顔をしている。
 

「かえでちゃん、本当はケンカ嫌いなんだね」

 なんて言うちえりに、るりかは「ねえさんが、そんな喧嘩っ早そうには見えないでしょ」と、また素っ頓狂な事を言うなぁと思った。この時は。

「あかねさんとは真逆ですわ!」

「こら、みつばぁ!」

「赤と緑は確かに反対色だから、確かに真逆かもね。これマメな」

 るりかがみつばの挑発をさらに調子づかせる。

「つまり、あかねさんは、協調性を軽んじ、平和を憎み、恐怖を与える…ってことですわね!」

「それじゃ、わたしはまるで大魔王じゃないかー!」

「きゃー、朱色は攻撃的、直情的ですこと! って、痛いですわ!」

「この、こうだ! みつばのほっぺでたこ焼き2個作ってやる!」

 パステルガァル!ズたちは、各論的にはいろいろあるとして、総論的には平和な夜を過ごしていた。

 ちなみに、ぬいぐるみのフリをしたまま固まっている、使者のぱれっと及びかあらは、色の話で盛り上がっているパステルガァル!ズたちの輪に加わりたかったみたいで、彼らのまわりには、なんだか哀愁が漂っていた。