2時間ほど経って体験ダンスレッスンは終了した。
「いい汗をかきましたわ」
「おう、ほんとだな。なんか普段使わない筋肉が刺激されて良い感じだ」
みつばもあかねも初めてのヒップホップダンスだったが、ご満悦のようだ。
終わったあと、玄関前の自販機付近でジュースを飲みながら、各々感想を述べていた。
「あれ? おねーさんはジュース飲まないの?」
ふと見ると、ダークネスグリーンは自動販売機の脇で、ぼーっと立っていた。
ちえりが思わず話しかける。
「え? 飲み物?」
ポカンとするダークネスグリーン。
「飲まないと、ネッショウチュウになるのです」
ちえりがさも恐ろしそうな顔でダークネスグリーンに忠告した。
「そうそう、暑さで頭がおかしくなって思わず歌っちゃう。まさに熱唱中って、違うわ! それを言うなら熱中症でしょうが」
と、瀬々良木るりかは言いながら「どう? 今の王道なツッコミ。逆に清々しくて、美しくない? 洗練されてるってゆーか」と皆からの称賛を促した。
ノリ→ツッコミ→ボケの見事なコンボだったが、全員称賛はせず、スーパームカツクモードだった。
「じゃあ、はい、ちえりのをどーぞ」
ちえりはダークネスグリーンに自分のジュースを手渡した。
彼女は恐る恐る口をつける。
「つ、つめたっ!」
「ちべたいよね。凍らせて持ってきたの。おいしいよね~?」
「…そ、そうね。…冷たくて、おいしい」
なんなのだろう…この感覚は。
ダークネスグリーンは、何かモヤモヤとしていた。
先ほどの凄まじいフラッシュバックのような変な感覚も、確かに戸惑った。しかし、それとはまた別の、不思議な感覚。
そう、さっきまでのダンスレッスンでも、なかなかリズムを取ることが出来なかった。ただ、ちえりの呼吸に合わせると、すんなりとリズムがあった。
その感覚が、なんだかこそばゆかった。調子が狂うというか。しかし調子が狂うなら、気持ちが悪いはずだ。
ダークネスグリーンは、心地良い不思議な感覚に戸惑うしかなかった。
「そろそろ帰りましょうか。ばぁやも夕食を作って待ってますわ」
ペットボトルのフタをしめると、みつばが皆を促した。
「つかそのまえにシャワーよね。汗だく」
るりかが首にかけたタオルで汗を吹きながら言った。
「おねーさんは?」
ちえりは不意にダークネスグリーンに聞いた。
「え? わたし? え~っと、みんなで合宿やってるの?」
「そうだ。秘密の強化訓練だ」
あかねが拳を突き出した。
「コラコラ。軽々しく口外している時点で秘密じゃないし」
るりかが苦笑いしながら言う。
「ねー、おねーさんも一緒にあそぼう! ちょっとだけ、ぶんぶんちで!」
屈託の無い笑顔でちえりはダークネスグリーンを誘った。
「コラコラ。ちえり、いきなり遊ぼうは無いでしょ。おねーさんも予定あるのよ…ってさくらんぼう! アンタね、強化訓練でしょ。一緒にあそぼーじゃないっての!」
るりかは、ちえりを小突いた。今日はツッコミ作業に精が出るなとるりかは思った。
「まあ、とは言っても訓練なんて表向きですわ」
みつばが茶化す。
「いや、昨日の神経衰弱は、本当に衰弱したけどな」
あかねが頭を抑えていった。
「要領がわるいのよ、あかねは。あんたホント、バカなんだか鋭いんだかよく分からないわよね」
などと、また話が脱線し始めた頃、俯いていたダークネスグリーンが、顔を上げた。
「あの、じゃあ、少しだけ、私も遊びに行っていい?」
「え、本当に?」
るりかが面食らった。なんだ、まんざらでもないのか。
るりかからすれば、無理なお願いに女性が断りきれず困っているのかと思っていた。
「わーい! ぶんぶん、大丈夫だよね!?」
「ええ、少しだけなら、大丈夫ですわ。…いまさら4人も5人も迷惑なことには変わりませんわ!」
みつばは躊躇なく笑顔でどくをはいた!
ちえりはかわした!
るりかはかわした!
あかねはどくにおかされた!
「…みつば、やはり大変ご迷惑を…」
神妙な面持ちであかねが謝罪する。
「冗談ですわ。あかねさんたら」
「じゃあ一緒に行こう、おねーさんも行こう」
ちえりはマイペースにダークネスグリーンの手を引いて歩き出した。
「あらら。あのおねーさん、ちえりに気に入られちゃってるわね」
るりかが前を歩くふたりを見て言う。
「なんか、あの人の頼りない感じが、ちえりのおもちゃになっちゃってんじゃないか?」
あかねも頭の後ろに両手を組みながら、苦笑した。
「ちょっと、ちえり様! みつばの手もつないで下さい!」
ふたりをみつばが追う。
「こらー! 公道は横に広がって歩いちゃだめだよ~!」
声の主をふりかえると、そこにはそあらがいた。
「あ、そあら先生! 今日はありがとうです。また明日もよろしくね」
「うん、るりかちゃん、また明日。あかねちゃんも!」
そあらは笑顔で手をふった。
「ありがとうございました!」
あかねもそあら先生には丁寧に挨拶をした。
スタジオに入るそあらの背中を見ながら、しんみりとるりかが言った。
「そあら先生ってあたしとタメなのにしっかりしてて、なおかつ、なんつーか、爽やかよね」
「あん? まーそうだな。るりねーとは正反対って感じだな」
あかねがニヤリとした。
「正反対っていうことは…しっかりしてなくて、なおかつ、むさっくるしいってことか!」
おのれ! くきゃー! と奇声を上げると、るりかはうしろからあかねを羽交い絞めにした。
「しっかし、性格もさることながら名前がアヤシイわね…。あかねほら、あれは、ちょい役の名前じゃないわ!『天神(あまがみ)そあら』って! なにこれ伏線? 伏線なの?」
ぐへっへへとるりかがよだれを垂らした。
不意にるりかが背負ったカバンから、使者のかあらが顔を出した。
「まーた、るりちゃんは、変なこといってるカラ!」
確かに、色彩元珠(パステルオーブ)も4つしかなく、仲間も4人揃っていたから、これ以上、主役は増えようがないのだ。