「あのね、うちのダンススタジオで、ヒップホップの体験レッスンするんだよ」

「ヒップホップの体験レッスン?」

 みつばがチラシを覗きこんだ。

「うん。タダで出来るんだって!」

 えっへん、とちえりが得意げに答えた、
 
 るりかは、イマイチピンと来てないメンバーどもに顔を近づけた。

「そう! これに参加するの! いーい? あたしらは4人揃ったと言えど、かあらたちが言う四天王のダークネスフォーには到底敵わないワケ! チームプレイを強化するために、ダンスで呼吸とかリズムとかを学ぶのよ!」

「だ、駄目だ! 出来るわけない!」

 るりかが喋り終わる前にあかねが完全拒否宣言。

「そ、そんな『ヨー!』とか『チェケラ!』とか言えない!」

 あかねは顔をバーミリアン色にして、必死に抵抗する。

「ファッ!?」

 るりかが思わず吹いた。

「あかねさん…。ダンスを何と勘違いしてるんですの?」

 みつばのツッコミに全員が大笑いした。

「え? 歌わないのか? でもな、ダンスなんて」

「あ~ら。ダンスを馬鹿にするの? まあ、あかねは空手やってるもんね。リズム感覚は抜群か」

 乗り気じゃなさそうなあかねを、るりかはどう転がすのか。

「そりゃあ、間というか、呼吸というか。空手は大事だから。ダンスくらい」

「そうよね。天下のあかねさんが、まさかビビってやらないってことは無いわよね」

「あ、あったりまえだ!」

 あっという間にムキになる穂ノ尾あかね。

「じゃあ、決まりね。グヘヘヘヘ…」

 瀬々良木るりかは気持ちの悪い笑い声をあげると、全員に背中を向け、一気に振り返った。

「いーい!? イマドキの変身(もしくは魔法)少女は、エンディングでダンス踊れるのが必須事項なのだ!」

 確かにプ*キュアとかエンディングソングで全員ダンシングしている。当たり前のように踊っているが、ちえりパステルガァル!はスキルもないのに突然踊れたりしない! プラクティスせよ、パステルガァル!

 るりかはゴホン、とひとつ咳払いをして、言い直した。

「アイコンタクトで互いに意思表示出来るくらいの仲にならないとね。とにかく、一緒に練習することが大事なのよ」

「こちらの呼吸と、相手の呼吸を知ることは、確かに大事だ」

 あかねも頷いた。

「ちえり、楽しみ! みんなとダンスの練習するの!」

 純粋にちえりはワクワクしていた。最もこの気持ちがみんなの根本に無いと続かないはずだ。

「そうですわね! わたくしも、ちえり様と一緒なら、楽しいですわ」

 もともとバレエを習っていたみつばもダンス自体には抵抗がなかった。

「ねー。おとまり会もたのしみだよねー」

 全員が同じ方向に向かっていることがわかったるりかの眼の奥が怪しく光った。

「ひひひひ、思惑通り。取りあえず、なし崩し的にみつばんちもOKになったしね」

 まったく、うちの部屋のクーラー壊れちゃって、この夏どうしようって悩んでたとこだったのよね。

 リーダーの悪意ある組織利用とは、正にこのことだった。

「あらあら、みつばちゃん、おともだちいっぱいでにぎやかねぇ」

「あ、翡翠森(ひすいもり)のおばさま、おじさま!」

 不意に庭越しの柵から顔を出したのは、隣の豪邸にすむ老夫婦だった。

 品の良い老夫婦が、笑顔でガァル!ズたちを見ている。確かにお金持ちなのだろうが、服装は至って質素。しかし、そこから醸し出すオーラは気品が漂っていた。

「こんにちは。ご機嫌いかがですか? 騒がしくて申し訳ございませんわ。すぐにお部屋に戻りますわ」

 みつばはきっとこのガァル!ズたちが騒いでいるので、注意されたかと思った。

 たしかに、庭先でこんなに騒ぐのは初めてだ。

「いやいや、大丈夫だよ、みつばちゃん。むしろみんなの元気な声が、聞きたくてね」

 翡翠森(ひすいもり)の老紳士はそう言った。

「ええ、まるで、そう、『かえで』もね、ちょうどあなたたちと同じくらいにですね…」

 夫人は遠い目をしながら、意味不明なことを口走っている。

「これ、よさないか、ほらもう時間だ」

 老紳士が夫人の話を遮ると、玄関に待たせている車の方へおばさまを誘導する。

 車はアメリカのリンカーン、コンチネンタルマーク∨。見るからに年代物で、相当お金をかけて手入れされていることが、少女たちの目にも分かった。
  
「それでは失礼するよ、みつばちゃん、お友達。気にしないで、おしゃべりしててくださいね」

 ぽかーんとする、他3人。

「となりの、お金持ちさん? ヒスイモリ?っていかにも金持ちって感じの苗字ね」

 るりかが移動するリンカーンを目で追いかけながら、そういった。

「ええ、そうですわ。でも、昔、子どもを交通事故でなくされたんですって。ばあやが言ってましたわ」

「そ、そうなのか…」

 あかねがぼそりといった。

「そうですの。ちょうどわたくしたちと同じくらいの年代で亡くなられたんですって。最近よくお話しするようになったんですけど、たまにお食事とか誘ってくださいますのよ」

「きっと、さみしいんだね。かわいそう」

 ちえりもほろりと言う。

「なんだか、しんみりしちゃったけど…合宿の間は、あのおじさん、おばさんに会ったら、元気に挨拶しようか!」

 はーい! と、みんな元気に返事をしたが。

「って、合宿をうちでやることは、決定なのですわね!? るりかさん!」

 オートマチックに合宿が決定になっていて、みつばはドン引きだ。

「えへ。みつば、よろぴくゥ(はぁと)」

 てへぺろしている、るりかの顔が、夏の暑さと相まって、スーパームカツク感じであった。

 しかし、こんなほのぼのとした雰囲気のガァル!ズたちを、冷ややかな目で物陰から見ている者がいた。

「パステルガァル!たち…強化訓練をするつもりなのね…」

 緑色の長い髪の女。ダークネスグリーン。全身真っ黒なレオタードよような出で立ちで、頭と背中から葉のようなものが2枚ずつ出ている。

 ちえりたちの敵。四天王(ダークネスフォー)の1人である

「だんす・すたじおとか言ってたわね…」

 夏の日差しも入り込まないような暗い場所で、彼女は何かを企んでいるようだった。