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 色(しき)市立・唐古(からふる)中学校には、そこそこ立派な弓道場があった。

 利用者は中学生の部活メンバーに限らず、夜間は市外からも弓道を愛する団体が集まり、弓を引いていた。

 この時期になると弓道場の脇にあるムクゲの木が、白い花を咲かせる。

 ムクゲの花は早朝に咲き、夕方には萎(しぼ)んでしまうという。

 だから朝の早い今のこの時間、鑑賞するにはもってこいのチャンスなのだ。

 けれど、天神(あまがみ)そあらは目もくれず弓道場で弓を引いていた。

 もやもやとした気だるい暑さを、ダン、という音が引き裂き、程よい緊張感を与えてくれる。

 天神そあらは、中学2年生。この通り、部活は弓道部に所属していた。

 弓道は祖父の影響で小さい頃からたしなんでいたようだが、小学校3年生くらいのときにヒップホップダンスに魅了されてしまい、興味はだんだんとダンスに傾いてしまう。それでも小学生いっぱいはなんとか弓道を続けていた。

 しかし、中学に入ってからはダンスに明け暮れたいので弓道部活はいったん辞め、弓道部にも入らなかった。

 一方、弓道部は今年に入って受験シーズンを迎えると、3年生が一気に引退。部員は2年生ひとりと、1年生ひとりになってしまった。

 弓道の団体戦は3人いないと始まらない。

 2年生の新部長・生駒(いこま)凪月(なつき)は新部員獲得のために悩んだ。
 いや、むしろ悩まなかった。

「ね、そあら、お願い助けてよ~!」

 生駒凪月と天神そあらは幼なじみだった。同じ弓道の道場に通い、ともに切磋琢磨した中だ。だから新部員は彼女しかいないと、一切悩まなかったのだ。

「なっつん~、あたしダンスで忙しいのよ。知ってるでしょ。しかも今年は1のクラス受け持つことになっちゃったから、さらにテンパっちゃって」

 天神そあらは抵抗した。

「うー、そあらもったいないよ。あたしよりうまかったのに辞めちゃってさ。あの、とりあえず5月末の富士見との交流戦だけでも。もう3年生出ないっていうし、あと1人いれば団体戦できるしさ。とりあえずそれだけでも」

「と、とりあえず、数合わせぐらいのノリでいいっていうなら、まあその日空いてるし。その試合までだよ」

 そう答えて、天神そあらは後悔した。

 すっかり忘れていた、自分が暑苦しいくらい負けず嫌いであるということを。

 試合は見事に惨敗した。

 彼女は実力が発揮できず、相当悔しかったようだった。

 そして何より。やっぱり弓道も好きだということを思い出してしまったのだ。

 それからというもの、試合が終わった後でも、彼女は数合わせ要因ではあるものの、割とダンス教室の合間に部活に参加していた。

 自分を含めて3人しかいない気安さもあったのかもしれない。