降りだした雨は本当に通り雨で、すぐにやんでしまった。

 ただ、じっとりと湿度が高くなっただけというか。不快指数が、でら高い(すみれ風)。

 あたしたちは、とりあえず砂利の空き地からアウトレットパークに戻ることにした。

 あんまり長い時間席を外していると、お父さんもハリーもみんな心配するし。すみれもお母さんを待たせているみたいだし。

 とりあえず、みんなの所に戻ろうと思う。つまり、すみれとは、いったんお別れだ。

「じゃあ、また、今度遊ぼうね」

 あたしはそういってオトナの挨拶、いわゆる社交辞令をすみれにいった。

 漠然としか約束できないからだ。

 うん、仕方ないけどこれでいい。忙しくて約束出来ないくらい、あなたはアイドルとして女優として活躍するのよ、すみれ。

「るりかちゃん! うち東京に引っ越してくるよ。東京か、近い彩玉かもしれない」

「ぅほ! マジか?」

 今度はすみれからサプライズ。名古屋から引っ越してくるなんて、また思い切った…

「本格的に活動するの。お母ちゃんがいいって。だからお母ちゃんも、一緒に来てくれるんだ」

 そうか、そういうことか。すみれってば色々迷っているように見えたから、心配になったけど、ちゃんと将来のこと考えてえいるんだ。

 あたしが心配するまでもなかったのね。

「…ねえ、るりかちゃん、さっきの意味教えてよ」

 ちょっと口の先を尖らせて、すみれが甘えるように言ってきた。なんだ、この唐突な萌え攻撃は。鼻血出るわ。

「意味って? 【パステルガァル!】のこと?」

 さっきあんだけ興奮してたからね。ところが、すみれは首を横にふった。違うらしい。

「そのことも、もっと知りたいけど…。それより『才能が無いことが、強さの秘訣』っていう意味…」

 つい、あたしは目を丸くしてしまった。言ったことのは覚えていたけど、なんつーか、ムキになってたっつーか。そんなセリフが気になっていたのね。

 うーん、あの時は絶対に【ダークネスマジェンタ】に負けたくなくってさ。

「ああ、あれねー。うん、おまえのせいだ、この」

 そう言って、あたしはすみれに軽くデコピンした。

「え?」

 そういって、すみれはデコピンされたおでこをおさえる。

「あたしは、すみれに出会うまで、自己満足だったの。演技とか、役作りとかさ。まあ、シロウトだから仕方ないっちゃしかたないかもしれないけど。オーディションでガチなすみれに出会っちゃったもんだから、次元が違うことをこれでもかって見せつけられちゃったのよ」

「そ、そんなことない」

 すみれは両手を振って、全力否定をするけど。

「そんなことあんの。…でも、だからさ、あたしは苦しいよ。あまりにも差がありすぎるから。だけど、苦しいし、悩むし、追えない背中、届かない背中だけど、あたしは追い続ける。それが、あたしを成長させる原動力になるから。到達したことのない高みヘ、あたしを連れて行ってくれるから」

「るりかちゃん…」

 あたしは声を張った。

「だからこそ、すみれがもったいない! とも思う」

 ビシッとすみれに向かって、指をさす。

「あたしがすみれだったら、もっとこう言う風に演じるのに…とか、こうしたらファンは喜ぶのに、とかね。あたしは、わかる。チカラが無いから、才能が無いからこそ、見えてくるものってある」

「…」

 すみれは無言であたしを見つめている。

「だから、あたしはどんなチャンスも見逃さない。どんなこぼれ球でも拾うわ。この感覚、わからないでしょ?」

 ちょっと、言い方いじわるだったかな。

「うん、あまり、わからない」

 すみれはそれでも、素直にストレートに、でもちゃんと答えてくれた。

「それは、才能があるって証なんだよ。まあ、いいわ。見てなさいすみれ。必ず追いつくわ!」

 あたしは、あえてすみれを煽った。

「う、うちだって負けないんだから!」

 すみれはちょっと頬を紅潮させて、鼻息荒く言ってきた。

「その意気よ。まあ、手始めにあたしはこの演技力で世界でも救っちゃうかなあ~」

 そういってあたしはポケットに手を忍ばせ、あるものを掴んですみれに渡す。

「これ、お土産で買ったストラップ」

 大きさはお父さんの親指くらい。バームクーヘンの切り身みたいな形をした、虹を模した可愛らしいストラップ。

「すみれはクレヨンで、あたしはパステルで。だからカラフルな虹のストラップ。にゃは。あたしと、おそろい。お互いに頑張ろうねってことで」

「かわいい! ありがとう!」

 まあ、そんときのすみれの笑顔といったら。

「さっきは弱音吐いたけど、うちも頑張る。でもるりかちゃんの【パステルガァル!】は本当にカッコ良かったよ。世界を背負っている変身ヒロインなんだね!」

 うひひ、うひょひょひょ。こんなに【パステルガァル!】やってて良かったなんて思ったことなかったかもね。

 こうして。

 あたしたちは、再開を誓いあった。

 アテはないけど、でも絶対また会おうってね。

 次の日は、例年のお盆渋滞に鑑みて早朝に千葉を出発することになった。

 朝から快晴で、うん、確実に日中は真夏日になるね、こりゃ。

 おばあちゃんに、また来るねという挨拶をして、外で待つ車まで向かう。

「ハリー。思い出したよ」

 早朝にも関わらず、見送りに外に出てくれたハリーを見つけると、あたしは小さな袋を出した。

  「おお? なんだよ」

 その袋を、ハリーに投げた。ハリーは恐る恐る開ける。爆弾とか入ってないから。

「…ストラップ…!?」

 ハリーは驚いた。そう、ハリーに投げたのは、すみれにも渡したものと同じ虹のストラップだった。

「くれんの…か?」

「約束、思い出した。あたしが携帯買ったら、一緒のストラップつけようって約束したんだよね」

「おまおまえ、思い出したのか。あああ…そ、そうだよ」

 突然だったのが、えらく動揺してるなハリー。まあ、サプライズだからね。ナイスリアクションだよ。

「でももう、3年くらい前? あたしまだ小学生のときだよね」

「そ、そそうだなよな…」

「あのさ、昨日はありがと。ハリーが背中押してくれなかったら、友達に会えなかったから」

 あたしはハリーにピースした。

「おう。会えてよかったな」

 そのかわり、【ダークネスマジェンタ】とかいう、変なヤツと戦うハメになっちゃったけどね。

 思わずあたしは苦笑した。

「あたし、アイドルっていうか、女優めざしてるんだ」

 突然そんなこと言ってみたら、ハリーはびっくりした表情をした。

「…そ、そうなんだ。頑張れよ」

「うん。頑張る。絶対有名になってみせるわ」

「…ああ、じゃあそしたら、俺はファン一号だな」

 お、気の利いたこと言えるようになった? 男子高校生。

「ファンレターよろしくね」

 んじゃっ! というと、あたしはみんなが待っている車に乗ろうとした。

「…ちょっと、るりか! あのさ…」

 ハリーが急に呼び止めて来た。なんぞ?

「あのさ…えーと、あのー頑張れよ! …えっと、俺は…大学受験頑張る」

 なんか、決意に満ちた顔でそんなこと言ってきた。

「そうなの!? 頑張ってね。じゃあね」

「…うん、じゃあな!」

 今年の夏は、久しぶりに、ちゃんとハリーと話せた気がした。そうか、ハリーは大学受験するのか。

 あたしはクーラーの効いた車に乗り込んだ。

 なかなか内容の濃い、お盆だった。すみれと会えて、【ダークネスガーディアン】と戦って。

 すみれ、あの子に久々にあって、やっぱりあたしはコテンパンに打ちのめされた。

 でも、それでいいんだ。そうじゃなきゃ困るんだ。

 あたしは、邑咲蓮音推しで、そして目標、ライバルだからね。

 そういえば、彩玉県に引っ越すかもって! なんだか近いうちにまた会える気がするわ。

 …あたしは、気づいていた。きっとこんなに充実した休みがあるのはこれで最後だろう。

 来るべき【ダークネスキング】率いる軍団との決戦が、きっと近い。

 そういえば【ダークネスマジェンタ】が、【パステルオーブ】を探していると言っていた。いろいろハッタリをかましていたから、なんかよくわかんなくなっちゃったけど。

 パステルオーブが、まだ他にあるってことなのかな。

 帰ったら【かあら】に聞いてみよ。

 車中、クーラーをガンガンにかけているのに汗が吹き出してくる。

 太陽は憎らしい程、暑い。

 いつもうるさい、弟のさんごも助手席でへばっている。

 夏は、まだまだ終わらない。