「なんだい、クチばっかりであんまり強くないじゃないか」
その言葉は、あたしのトラウマであり、最大の賛嘆なのよ。
「ふん。もともと、あたしは才能なんて持ち合わせてないわ」
そういってもう一度大剣ラピスブレイドを水平に構え、剣先を敵に向ける。
「あれれ? 認めちゃうんだ。弱いってこと」
うっさい、ばーか! 濃ゆピンク!
「弱いなんて一言も言ってない。あたしの強さの秘訣をアンタに教えてあげただけ」
「才能がないってのが、キミの強さの秘訣?」
【ダークネスマジェンタ】はちょっとオーバーぎみにリアクションをした。あたしの言っている意味が理解できないって感じだ。
ムカつくと同時に、面白いとも思う。
人と同じ「心」、「感情」を持ったガーディアン。そう、彼らもあたしたち人間の心を理解しようとしているんだ。
「才能がないから、あたしは、その背中を追い続ける」
あたしは、もう一度ラピスブレイクを放つ。
大剣を地面と並行にもち、剣先を敵に向けて、大地を思い切り蹴る。その蹴った足からパステルパワーが放出され、通常の何倍もの速さで、相手との間合いを詰めることが出来る。
一閃。
そうやって一瞬だけ、瑠璃色のオーラをまとったあたしは、そのまま大剣で【ダークネスマジェンタ】を叩く。そう、大剣は「斬る」というより、「叩きつける」といった方が正しい。
【ダークネスマジェンタ】は刃が湾曲した剣―マジェンタシミター―であたしの突撃をギリギリで受け流した。
「何度やっても同じだよ」
「届かない背中をそれでも追い続ける!」
あたしは空(くう)を切った大剣を、そのまま地面に叩きつける。大剣からはさっき出した斬撃波、ラピスクレセントを放った。つまり地面におもいっきり、クレセントを叩きつけたのだ。
どごん。
砂利が飛び散り、砂が舞う。視界が一瞬、砂煙で霞む。
「どこだい、パステルラピス!」
あたしは反動で宙を舞う。つまり、あたしの居場所は空!
「あたしの心は、いつまでも満ちない三日月のよう、だから、あたしは強くなれる」
ラピス・クレセント・シャワー。
空中のあたしは、そのまま天高く大剣を放った。
大剣はその場で大地と水平に回転をはじめる。すると瑠璃色の光を放ちながらさらに、グルグルと高速回転。
そして! そこから無数の三日月状の瑠璃色斬撃波、ラピスクレセントが【ダークネスマジェンタ】へと襲いかかった。
現時点で、パステルラピスとしての最強の技。
特に強力な一撃必殺がないラピスにしては頑張ったほうなのよ。
かあらやぱれっとを交えて、【パステルパワー】の検証をしつつ、訓練し、改良に改良を重ねた技だ。
チェリーやバーミリアンのような一撃必殺はないし、ハニーのように回復は出来ない。
だったら通常の戦闘パフォーマンスでも、派手でトリッキーな動きをし、相手を撹乱して翻弄するしかない。
もっと簡単にいうと、ハッタリ技だ。
だから、「なんだい、クチばっかりであんまり強くないじゃないか」というアイツのセリフはごもっともなのだ。
撹乱し、混乱させ、相手のチカラを100%出せない状態にさせるんだ。
ラピスクレセントも、ひとつひとつは、そこまで攻撃力はない。でも四方八方から次々とランダムに襲い掛かれば。
「…!」
砂煙が徐々に消え、ダメージを受け横たわる【ダークネスマジェンタ】が。
いない!
いや、いた…。
あたしの後ろに!
「ボクは、幻影が得意なんだ」
「なっ」
「キミが攻撃していたのは、ボクの幻だよ。そんなんじゃ、ボクの背中は追えないよ」
ちがう、あんたじゃない。
あたしが追ってる背中は。
あんたみたいな、そんなちっぽけな背中じゃあない!
ギラッと。【ダークネスマジェンタ】のシミターが光った気がした。
それはまるでスローモーションのように、ゆっくりとあたしめがけて、刃がおりてくる。
コツ。
多分それは本当に瞬間的な出来事だった。
あたしが、ラピスクレセントシャワーを放った瞬間に【ダークネスマジェンタ】があたしの背後に移動してシミターを振り下ろす、というわずか数秒の動作。
だから、あたしも【ダークネスマジェンタ】もまだ空中にいる。
「るりかちゃん!」
すみれが、【ダークネスマジェンタ】に向かって石を投げたようだ。
それがコツンと、【ダークネスマジェンタ】の腕に当たった。
攻撃力ゼロ。【器】にダメージすら与えられない、最小の攻撃。だけど、敵は瞬間的にそっちに目をそらした。
これは、十分過ぎる最大のチャンスだ。
「はぁ!」
あたしは至近距離で、思い切りラピスクレセントを放った!
ドゴン!
「がっ」
あたしは、【ダークネスマジェンタ】をそのまま吹っ飛ばし、砂利の地面に叩きつけた。
「あんたじゃ役不足だわ。【ダークネスマジェンタ】!」
言ってやった。言ってやったわ!
「ぅぅ…、ふん、キミは運がいいだけだ…」
そういってヨロヨロと立ち上がった。
「わからないの? 【ダークネスマジェンタ】。あなたが運だと思っていることは、すべてあたしの想定内なのよ。つまり、このまま戦いが続けば、あなたにとっての不運が次々とおこるわ」
「そ、それはまさか…はじめっから、仕組んでいたのかい!?」
うっそでーす。なんも仕組んでません。だいたい千葉まで来て【ダークネスガーディアン】と戦うハメになるなんてこっちが想定外だっての。
「【ダークネスマジェンタ】…あなたが探していた【パステルオーブ】は見つからないんでしょ? なぜ見つからないんだと思う? そしてその代わりあたし、パステルラピスが待ち構えていたのはなぜだと思う…?」
これも、めっちゃハッタリです(笑)。よくよく思い返すと、こいつ、初めに「パステルオーブを持ってないか」って、聞いてきたでしょ。んで、そのあと「あれ? キミは瑠璃色?」って聞いて来た。
つまり、【ダークネスマジェンタ】は【パステルオーブ】を探している。それは瑠璃色じゃない、他の何か。
なぜかはわからないし、状況も良くわからないけど…ギリギリの状況下で駆け引きしてみせる。
「はかったな、【パステルラピス】」
むしろ今「はかっている」とこなんだけどね。
「そうね。【ダークネスマジェンタ】。あんたがほしい【パステルオーブ】はここにはない。そして、【パステルガァル!】は、あたし一人じゃない!」
「まさか、これから増援が来るのかい!? キミのその余裕の理由がわかったよ! 悔しいけど、一旦引くしかないようだね。【パステルオーブ】は違う機会に奪いに来るからね!」
3歩ほど後ろに引くと、【ダークネスマジェンタ】は苦々しい顔をして、消えた。
…勝てなかった…だけど、負けなかった。それはきっと、大切なことだ。
あたしは頭に刺してある瑠璃色のパステルオーブを抜き、変身を解いた。
「すみれ、ケガない?」
私服に戻ったあたしを見て、安心したのか、すみれが駆け寄って来た。
「るりかちゃん!」
「まあね、いろいろ抱えているよ、世界平和とかを」
これ以上心配させないように、あたしは笑顔でいった。と、あれ?
「でーれー、 オロロこぇーてまったげゃ !」
あれ、なんかすみれの反応が想像の
ベクトルと逆。興奮してね? つか、なんつった?
「うち、ちっちゃい頃、セーラームーン大好きだったがね!」
あ、セーラームーンとか言っちゃうんだ。そうね、あたしたちの世代は実写版よね。
そっちの反応か、すみれ。
気がつくと辺りには雨雲が広がっていた。雲はあったけど、さっきまで晴れていたのに。
しまいにはパラパラと雨が降ってきた。
なんかこー、雨と一緒に今あったことも、すべて洗い流せない? 的な。