その後、あたしはお父さんと、さんごと、ハリーと合流した。
どうやらあたしが「クレヨンドォル!12」のインディーズデビュー記念関東行脚ミニライブに参加したことはバレなかったよう
「るりか、さっきアイドルイベントに一番前で座っていたろ!」
うほほ、ハリーにバレてんですけど…。
あたしたちは、お昼ごはんを食べることになってフードコートへ来た。
それぞれ目当ての食べ物を注文しようと散り散りになったわけだけと、あたしとハリーは松戸富田製麺というラーメン屋さんに並んでいた。
つけ麺の濃厚なスープと太麺がおいしいらしく、ラッシュするお昼の時間を回避したにも関わらずひどい混みようだった。なおさらブランド力が増し、ぜひとも食べたいとハリーと並んだわけなんだけど。
「見てたの? いやあね。覗き見?」
「ちょっと、覗いてたわけじゃねぇよ! いや、るりかがアイドル好きとは意外だなって思ってさ」
「まあ…いろいろあんのよ」
ここで、ハリーにすみれとの関係だの、自分の信念だのを話す気も、弁解する気もなかった。
話が長くなりそうだし、なんだか心のウチを話すのは気恥ずかしいし、それにハリーとはバカやる間柄だったから、マジメな話をするのもなんだか気が引ける。
あ、それでね、あたしは結局そのあとのCD直売り+握手会には参加しなかった。なぜって?
涙がバレたくなかったから。そんなわけのわからない表情したら、すみれも戸惑う…いや、ウソ。
それは、ウソ。本当は、すみれと顔を合わせたときに、どんな表情をされるのか怖かった。
だからあとでメールすればいいと思った。メアドは知ってんのよ。オーディション終わった夜に一度しかしてないけど。
来たよ、たまたま、偶然! って、軽い感じでメールすればいい。
「るりかもやればいいじゃん」
そんな悲壮感漂う妄想中に土足で踏み込んでくる高2のヤロウ、ハリー。
「は?」
「いや、だからその、アイドル。るりかもやってみればいいじゃん。興味あるなら」
「あたしが?」
だから! それで落ちたんだよ! なんなのこのデリカシーの無さ。
いや、んなこといってもハリーは知らないから怒ってもしょうがないんだけど。でもムカつく。
「なにいってんの? バカ!」
「っは~? なんで急にキレてんの?」
ついバカって言っちゃった。親戚とはいえ、3つも先輩なのに。申し訳ない。でも、引っ込みがつかない。
「だからぁ…」
こうなったら、端的に理由を言おう。うん、しゃあない。
「あたし、あれのオーディション受けて落ちたの。かっこわるいでしょ。未練タラタラって感じで席に座って応援してて…」
「え? マジか…すげぇじゃん!」
「すごくないでしょ! オーディションなんか誰だって受けられるし」
「そーなのか?」
何にも知らないのに、口を挟んでくるなんて、なんなの! もう、なんなの!
「はじめ写真とか送るんじゃないのか?」
「あ――。まあ、一次審査はうかったけど…」
「ほら、うかったんじゃん! るりかがかわいいって世間的に認められたじゃん!」
ちょっと。
お兄さん。
前後左右に人がごったがえす松戸富田製麺の行列の中で、何を叫ぶ?
「…そ、そうね。あたしのかわいさは、世間的に認められてるってワケ」
「そうだ、そういうことだよ。けっこう可愛いんだよ。…て、違うぞ、これは俺が言ってるわけじゃないからな! あくまで一般的な見解だからな!」
「なに急に焦ってんの? しかも…見解とか、らしからぬ難しい言葉つかって。ウケる」
あたしは落ちたテンションを取り戻すことが出来た。そうか。ハリーはあたしを可愛いと思ってんだ。ウケる。調子に乗るつもりは無いけど、可愛いと思われてイヤな女子なんかいない。たとえ表面上は平然としていてもね。
ヴ―――。
と、そこへ、あたしの携帯が震えた。メールを受信したようだ。
〈るりかちゃん いたよね? イベント終わったんで現地解散でオフになりよったよ。今どこ? まだおる?>
メールの本文にはそう書かれてあり、Fromには「音雨すみれ」と書いてあった。
そう、アイドル「邑咲蓮音」を演じる、女優・音雨すみれ本人からだった。
「どうした?」
あたしが、「わおふ!」といった表情をしたので、怪訝な顔をしてハリーが聞いてきた。
「あの、さっきのアイドルの子からメールが…」
「え? は? なにそれ、るりか友達なのか?」
「…うん、ひとり、一応。まだいるか?って」
「あ、じゃあ松戸富田製麺どころじゃないじゃん。いってくれば?」
「そ、そうだよね。アイドルに求められてるわけだしね。ウフフ…」
強がったがあたしの目は泳いでいるはずだ。
「あーうらやましいが、ここで俺がついて行ったら空気読めねー痛いヤツになるから、やめとく」
うーん。さっきから、というか湊に来てから変だとおもったんだけど、なんか、ハリーってムダにあたしに気を使ってない? でも、今回ばかりは、それがありがたかったけど。
「ありがと、ハリー」
あたしはそういって、松戸富田製麺の行列から抜けだした。
「おじさんとさんごには、うまく言っとくよ」
あたしの背中に向かってハリーはそう言ってくれた。
「頼むわ!」
とりあえず、ハリーがあたしの背中を押したせいで、彼女に会うという選択を選ばざるを得ない状況になった。素直にありがたいって思うんだけど…
うん、あたし今、勢いで走ってる。
どんな顔で、どんな気持ちで、どんな言葉をかければいいんだろ。
音雨すみれに。
意識すればするほど、頭の中がグチャグチャになってしまった。