ちえりパステルガァル!
⇨ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』
「ちえりさん、侵入したものの、どうするんれすか?」
【ぱれっと】がもっともなことを言った。
みつば邸の入口の門を突破したものの、正面きって入口から入るわけにはいかない。いかないと言うか、いけない。捕まっちゃう。
「わかんない!」
「さすがちえりさん! 見事なノープランっぷり」
【ぱれっと】は凹まなかった。さすが、3話目となるとだんだん理解してくるのか。免疫力がついたのか。それともそうだと思ったから、あえて付いて来たのかもしれない。
「ボクがみつばさんの部屋の窓を叩いて、みつばさんを呼びまつ!」
「そっか、【ぱれっと】飛べるもんね」
早速、ぱれっとは浮遊すると、2階にあるみつばの部屋の窓をたたいた。
分部みつばは、ぬいぐるみを抱きしめながら、ベッドで横になっていた。寝てはいなかった。うつろな表情で天井を眺めていた。
コンコンコン。
と、突然、窓を叩く音がした。気のせいか、空耳だと思ったみつばは、一応体を起こしたが、窓までは動かなかった。
コンコンコンコン。
「な、なんですの?」
さすがに、この音は誰かが叩いた音だ。でもこの場所は二階。窓の外の高さは、手を伸ばしても人が叩けるような高さではない。
泥棒か、はたまたお化けか?
みつばは、恐る恐るカーテンを掴んで、隙間から窓の外を見る。
が、誰もいない。
「??」
思い切って、カーテンを全開し、窓の扉を開け放つ。
「ぶんぶん!」
声があった下の方を覗くと、そこにはクラスメイトの英ちえりが立っていた。
先日の事件に巻き込んでしまった子だ。
「ち、ちえりさん! どうやって入ったんですの?」
「ふほーしんにゅー!」
他人様の庭先に勝手に上がりこみ威風堂々「不法侵入」と叫ぶ、当作品のヒロイン。
みつばは、ばあやに庭で遊ぶと言って降りてきた。
庭のベンチに座るふたり。ちえりは黙っていたが、みつばがその沈黙に耐え切れないようで、自分から口を開いた。
「も、文句でも言いに来られたんですわよね? あんなことに巻き込んでしまったんですもの。ちえりさんのおばさまも、激怒されてらっしゃいましたし…」
ツンとした顔でみつばは言ったが、喋り方はいっぱいいっぱいだ。
「よし、よし」
突然ちえりが、何の脈略もなくみつばの頭を撫で始めた。
「は? 何のマネですの?」
まるで赤ん坊を扱うような表情で、自分の頭を撫でてくる。
「よし、よーし」
ちえりはやめない。さらに、頭をなで続けた。
「ちょ、ちょっと! 馬鹿にしてるのですか?」
みつばは、ちえりがなでるその手を、自分の手でバシンと弾き返した。
みつばの部屋の窓を叩くという大役を果たした【ぱれっと】は、その後、木の陰から二人のやり取りをじっと見ていた。
そして、手にしているはちみつ色の【パステルオーブ】が鮮明に点滅しているのを確認する。
「はちみつ色のパステルガァル!は、みつばさんに間違いないれすが、でも…」
【ぱれっと】はそのまま、見守り続けるしかなかった。
「…」
手を叩かれたちえりは、驚いた顔をみつばに向けた。そして、これ以上ない悲しい顔になったかと思うと。
「わ――――――――――ん!」
口を大きく開け、大きな声で、めいいっぱい泣きだした。
「ち、ちえりさん? ちょっと、そんなに痛かったですか?」
ちょっとくらいは痛がると思ったが、まさかそこまで全力で泣かれるとは思わなかった。
「あ――――――――――ん!」
ちえりは泣き止まない。
みつばは、しばらくその状況に唖然としていたが、なんだかだんだんと自分も悲しくなってきた。
なんでだろう、ちえりに吸い寄せられるように、引き込まれるように、悲しみが止まらなくなった。
それは、みつばが心の奥底に閉じ込めていたもの。
カッコ悪いと思って、必要ないと思って、誰も理解してくれないと思って、ないがしろにしていた小さな箱みたいなものかもしれない。
そのフタが、パカっと開いてしまった。
照れも、恥も外聞もなく、なりふり構わずに、他人の前で気持ちいいくらいの大きな声で、おもいっきり泣くちえりを見たからなのか。
「え――――――――――ん!」
ついに、糸が切れたようにみつばも声をあげて泣き出した。
「うぐ、ひっく、よしよし、よしよし」
ちえりは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のまま、みつばの頭を撫で続けた。
「え――――――――――ん!」
ダムが崩落したように、溜め込んでいたものが、吹き出したような。
みつばは涙が止まらなった。
「よしよし、よしよし」
そう言って英ちえりは抱きしめるように、みつばの頭をなでた。
二人はただひたすら涙が枯れ果てるまで泣きじゃくった。
「はー、うぃっく。…ねえ、ぶんぶん。ふたりして泣いたことは秘密だよ」
「秘密? ふたりだけの?」
「そうだよ。あと『布仲間』ってこともね」
その言葉を聞いてみつばはぷーっと吹き出した。
「あはは! そうでしたわね」
そういって、みつばは立ち上がると、空を見上げた。
「あー、すっきりした! すっきりしましたわ! 泣くのってこんなに気持ちがいいんですわね」
「ね!」
ちえりは笑顔になってVサインをした。
「あの、ちえりさん。いいえ、ちえり様! 本当にありがとうございます!」
「どんまい!」
どんまいをつかう場面ではなかった。
そして、みつばは大切にしている例のハンカチをポケットから取り出した。が。
「!」
ハンカチを見るなり、みつばは「ひゃっ」と悲鳴をあげた。
「ああ、お母様のハンカチが真っ黒に!」
「え!」
ちえりが驚くと同時に、今まで木陰にいた【ぱれっと】が、飛び出してきた。
「ちえりさん、侵色れす!! 【セピア色】が【侵色】されていまつ!」
「ひゃ! ぬ、ぬいぐるみがしゃっべっ…」
分部みつばは、当然驚いた反応だった。
「あ、だいじょぶ。【ぱれっと】は喋れたり、飛べるブタのぬいぐるみなの!」
「ちょ、ブタベースじゃありまてん!」
とんこつスープの話か。
ちえりはみつばの両手をぐっと強く握りしめた。
「ちえりね、このハンカチ真っ黒にした敵、知ってるよ。ぶんぶん一緒に倒そう!」
「え? どうゆうことですの?」
話を聞けば聞くほど、謎が解けるどころか、深まるばかりだった。
「みつばさん! このハンカチが元の色に戻るのであれば、戦いまつか?」
【ぱれっと】の問いに、戸惑ったみつばであったが、ちえりに視線を合わせると、ちえりは大きく頷いた。
みつばは、戸惑いながらもウンと頷いた。