ちえりパステルガァル!
⇨ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』
「そうですわ、ちえりさん。わたくし、さっき近所のコンビニにお買い物行こうと思っていたところでしたの。ちえりさんが一緒なら、ばあやも付いて来ないですわ。一緒に来て下さる? せっかくなんでご馳走しますわ!」
ばあやも付いて来ない。これはみつばが決してばあやという家政婦を毛嫌いしての発言ではないようだ。
みつばの父も母も海外出張でいない今、その保護者であり、責任はすべてこの家政婦が担っているようなものであるから、どこかへ出かけるという時でも、付き添いが必要なのだ。
いくら小学校6年生とはいえ、何かがあってからでは取り返しがつかない。その念には念を、という分部家の方針がみつばにしてみれば自由がないように感じ、ひたすら煩わしいのだった。
「そっか、ぶんぶん引っ越してきたばっかだから、道とかわかんないもんね。ちえりが教えてあげる」
ちえりとみつばは、近所のコンビニまで買い物に行くことにした。
買ってくるから、外で待っててと言われ、ちえりは、コンビニの外で待っていた。
ややあって、コンビニからみつばが出て来た。大量に買い込んだお菓子やジュースなどは、コンビニのビニール袋ではなく、みつばの手提げ袋に入っていた。
「はい。これ、ちえりさんの分ですわ」
そういって、お菓子を次々と渡して行く。
「あ、ありがと、わー! こんなに?」
持ちきれなくなったお菓子をちえりは背負っているカバンに入れ始めた。隠れている【ぱれっと】の上からお菓子やらジュースやらを詰め込むものだから、【ぱれっと】は圧死しそうになった。
「お好きなだけ持って行ってよろしくてよ」
パンパンになったバッグを重たそうに背負いながら、ふたりはコンビニから立ち去ろうとした。
と、後ろから店員らしき人がかけって来て、前に立ちはだかった。
どうやら店長のおじさんのようだ。表情がこわばっている。
「ちょっと! 君たちそのお菓子! お金払ってないよね?」
「え!?」
びっくりするちえり。バッグにパンパンに入れちゃいましたが。
混乱して、焦るちえりとは対照的に、みつばは、あっけらかんとした表情で店長に答える。
「払ってませんわよ。万引きですもの」
「えぇぇぇー!」
「二人とも!ちょっとこっちへ来てもらおうか!」
ふたりは店長にぐいっと手首を捕まれ、店内に連行される。
「見つかってしまいましたわね」
表情も変えず、みつばは言った。
空は限りなく青かったが、それ以上に、ちえりの顔色もこの時ばかりは真っ青だった。
裏の部屋に連れていかれたふたり。部屋の中では幾つもの監視カメラから映しだされているモニターが置いてある。
「ぅおら!」
何やら、気合とともにバーンと扉が開かれた。
「ちえり、お前ぇ何やらかした!」
「まっママ!」
ドーンとした勢いで入って来たのは、ちえりの母親であった。
だぶっとした赤いフード付きのトレーナーとこれまただぶっとした黒いスエットを履いた。髪を後ろで一つに縛り、茶髪。ある意味風格漂う、ヤンママって感じだった。ちなみにトレーナーの真ん中には何やら猫のキャラクターが描いてあった。
「お母さんですか?」
「店長さん、ごめん。先にしつけるから、ちょっと時間下さい」
母親のすごい眼力で店長は睨まれ、思わず「ハイ」といってしまった。
ちえりは、いつになくビビっている。
「えっとお。お友達のみつばちゃんがね、お菓子をお金払わないで、持ってきちゃって…」
オドオドと説明をはじめるちえりに。
「こぉの! ヘタレ児童がぁぁぁぁ!」
そう叫ぶといきなり、ちえりを持ち上げて、そのままバシンバシンとお尻を叩き出した。
「わーん、ゴメンなさい――――――!」
「なんでママがぶち切れたかわかったか!」
「うぃっ。お菓子とったからっ!」
ちえりは母親の怒りの火に油をそそいでしまったようで、更にシャウトした。
「ちがうわボケ――! アンタ今、この子のこと『友達』っていったくせに、全部この子のせいにしただろうが!」
その怒涛の修羅場な後継を見て、みつばは口を開けてあんぐりとしている。ドン引きする余裕すらない。
「あ――ん!」
「わかんないようだな、ちえり座れ」
そういって抱えたちえりをイスに座らせた。
「万引きうんぬんの前に、だよ」
ちえりの母親は、ハァっとため息をついて、ちえりを、そしてみつばの表情もチラリと見た。
「これから、アンタたちが大人になるまで、いっぱい間違いをするんだよ。
失敗もする、人にだって迷惑をかけるだろうよ。
…アンタのミスはママが謝って済むなら、いくらでも頭を下げる。それが大人の仕事だからね」
泣いていたちえりだったが、母親のその言葉に顔を上げた。
「ただ、友達は売るな!
絶対に裏切るなってことだよ。わかるか、ちえり。
なんで、この子をかばわなかった?
ママの顔色見て、全部の責任をこの子のせいにしようとしただろ。
ママはそういう奴が大っ嫌いなんだよ。
『友達だ』って、いうなら、やる前に止めろ。できなきゃ最後までかばえ。
それができないなら、『友達』を語るな。
気安く『友達』って言葉を使うな、わかるか?」
「うえっ、うん」
「友達が悪さしたり、人として間違ってると思ったら、空気を読まずに全力で止めるんだ。
嫌われて、絶交されてもだ。
それが、『友達』を語る『覚悟』だ。
判断が出来なかったら、大人を頼ればいい。わかったか!」
「うう、わかた…」
それを聞くと母親は満足そうに頷いた。
「じゃあ、まず、『友達』のこの子にちゃんと謝るんだよ」
ちえりは、コクリと頷いた。
「うう、ぶんぶんゴメン。ちえり全部ぶんぶんのせいにしちゃった」
「ち、ちえりさん…あの、その、こっちこそ、巻き込んでゴメンなさい」
「いいんだよ。巻き込んで巻き込まれてが友達でしょ」
ちえりの母親は、そう言ってみつばに笑った。さらに母親は口を開く。
「よーしよし、まあ、よく言ったよ、ふたりとも。あとは、店長さんにはママがちゃんと謝る。しっかり背中を見てるんだよ」
母親が、正座して土下座をしようとした。
「いや…お母さん、もう、大丈夫です。わかりました」
「そうはいかないです。本当に申し訳ありませんでした」
母親はなんのためらいもなく土下座をして謝った。
店長は思わず座っていた椅子から立ち上がり、ちえりの母親の前でしゃがんで、視線を合わせた。
「いや、お母さん、本当に大丈夫です。正直、体裁で謝る親御さんが多いんですよ。警察には言わないでとか、学校にはいわないでとか、お金払えばいいでしょうとか。あなたみたいに全身でぶつかってくるようなお母さんは初めてですよ」
店長は半ば感動したような表情でいった。
「コイツら、大人がズルするところ、しっかり見てるんですよ。で、絶対マネをするんです。あたしは頭良くないし、立派な人間じゃないけど、せめてコイツらの前ではまっすぐ生きる姿を見せたくてっていう、まあバカなんですけどね」
口は悪いが、ちえりにとって世界で一番恐ろしくて、何より誇れる母親であった。
「ほら、ちえり帰るよ」
そういって母親とちえりは一礼すると部屋を出た。
「あの子、最近引っ越して来た子だよね?」
「うん。ぶんぶん、どうなるんだろ。パパとママ遠くにいるから迎えに来れないんだよ」
「大丈夫だよ、保護者代わりの家政婦のばあやって人が迎えに来てくれるんだろ?」
「…うん、そうだけど…」
「まあ…心配だよな、今度、狭いウチに連れておいで。みつばちゃんだっけ?」
母親はそういってちえりの肩に手を置いた。
あたりはすっかり夕方になっていた。
バッグの中で忘れ去られている【ぱれっと】は、この一悶着を聞いているだけに、みつばが【パステルガァル!】だった場合、仲間にすることは難しいのではないかと、真剣に考えていた。