ちえりパステルガァル!
ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』 


  次の日の放課後。

 外観がクリーム色を基調としたレトロなレンガの洋館。

 ちえりは、通学路や友好関係から、あまりこちらのテリトリーには縁がなく、侵入したことはなかった。この洋館の存在はなんとなく知っていた。ただ、人は住んでないとか、誰かの別荘だとかいう噂を少し聞いたことがあるくらいで。また、この洋館がそびえ立つ通りは、わりと豪邸風の家が軒を連ねていて、なんとなく来づらい所であった。

 そのクリーム色のお屋敷の前にちえりは立った。ちえりが背負うリュック型のバックからは【ぱれっと】が顔を出している。

 表札には「分部」と書いてある。

「おっきぃぃぃい! 見てよ【ぱれっと】。このおうち!」

 ちえりは大興奮であった。彼女は結構な家マニアで、家を改修するビフォー・アフター的な番組は毎回録画しては見ていた。

「これはぶんぶんちに上がらせてもらわないと!」

 とにかく間取りが見たい! ちえりはあからさまによだれを垂らした。

 【ぱれっと】はそんなちえりの無駄な興奮に一抹の不安を覚える。

「ちょっとちえりさん。今日はご挨拶だけれすよ。徐々にみつばさんと仲良くなって【パステルガァル!】なのかどうか、確かめるんれすからね」

ぴんぽーん! ぴんぽーん!

 ぱれっとの静止をよそに、ちえりは大きなモニターつきのインターホンを押す。押しまくる。

「ちょ、大胆すぎれす!」

『…はい、どちさまでしょうか?』

 インターホンごしから、年配の女性の声が聞こえた。

「はい! ぶんぶんのお友達です!」

「は? ぶん…? どちらさまで?」

「はなぶさちえりさまです!」

「はなぶささん? え~っと??」

 などと、一悶着していると、ちょうど、みつばが玄関先に出て来た。

「あら…どちら様? …あらら? あなたはクラスメイトの」

「そーそー! わかる? ぶんぶん! ちえりだよ! おうちおっきいね! 何畳?」

 ちえりは玄関の門にしがみつきながら、いった。まるで動物園のオリで餌を求める猿みたいだ。

「な…何畳?? えっと、ちえりさんですわね」

 ぶんぶんってなにかしら? 目の前のクラスメイトは異常に興奮していて、何を話しているのか良くわからない。

「うん、あ、そうだった! 【パステルガァル!】になりませんか!?」

「うは! ちょ!」

 ぱれっとがリュックの中でびびった。段取りが滅茶苦茶だ! しかもなぜドヤ顔なのれすか!?

 するとインターホン越しから、先ほどの中年女性の声が再び聞こえた。

「あら、お嬢様、もうお友達ができたんですか? 中で遊ばれてはいかがですか?」

「そうね。今、時間をもてあましていたところでしたの。お上がりになる?」

 みつばの微妙な上から目線の発言が鼻につくところだが。

「うん! いいよ!」

 まさかの上から目線な返事(カウンター)で、みつばがウッという表情をした。

 しかし、当のちえりはこの豪邸に上がれるのであれば、靴を舐めろと言われても平気で舐めるくらいの勢いだった。

 玄関に入ると床には赤い絨毯が敷き詰めていて、なんと靴を脱がずに、そのまま室内に入るようであった。見あげればキラキラと輝くシャンデリアがあり、二階へと登る幅の大きな階段がある。階段を登りきって、一番手前の部屋がみつばの部屋であった。

「やばーい。ぶんぶんの部屋すごーい」

 部屋に入るなり、ちえりはそういった。目が輝いている。大きな窓には薄い黄色のレースのカーテンがあり、絨毯はふかふか。一角にはぬいぐるみがたくさん並べられていて、おもちゃ屋さんのようだ。

「あら、たいしたことないですわ。アレクサンドリーネのお部屋には負けますわ。あ、アレクサンドリーネはフランスのお友達ですわ」

 ちえりの反応を見て、気分が良くなったみつばは、饒舌に語りだす。

「ベッドふかふかだね~! ヌイグルミもいっぱいある!」

 ちえりは全く聞いてない様子だったが。

「もう、聞いてますの?」

 いろいろ自慢話をしたいみつばだが、興奮しているちえりには全く届かなかった。

 精一杯の綺麗な言葉で表現すれば、「集中力」があるということであろう。

 と、ふと、ちえりは、薄汚れたセピア色のハンカチのような布をふんだ。

「なにこれ? ぞうきん? きたないよ」

「あ―――! それはダメですわ! 早く足をどけて下さい!」

 今まで、ちえりに翻弄されながらも、余裕ある態度を崩さなかったみつばが、急変した。

「ごめんね。なにそれ?」

 そういって、ちえりがその布から足をどけると、ものすごい勢いで奪いとった。

「お、教えませんわ! ぜ、絶対、バ、バカにしますわ!」

「? バカにしなよ。あ、大事なものなんだね!?」

 分部みつばの微妙な心の機微に反応した、ちえり。彼女はそういうところは絶対に逃さない。

 そのちえりの不思議な反応に、みつばは包まれたような感じになり、思わず話しだした。

「わたくしはこのハンカチがないと寝れないのです。これは、お母様のハンカチなのです」

「そうなんだ。ぜんぜんバカじゃないよ」

 そういってちえりはリュックのポケットからズモモモと、もっと汚い布を取り出した。

「これ見て! これちえりも寝るときこのシャツがないと落ち着かないの!」

 そういって汚れた布をみつばに見せた。幼少時に着ていた肌着らしく、もはや原型を留めていないくらいクタクタになって破れていた。

 思わず、ぎょっとするみつば。

「わかる? ここの縫い目のカサっとした部分。このカサカサっぷりがいいの。満たされるぅ。」

 布の縫い目の盛り上がった部分を触りながら、恍惚した表情のちえりを見て、思わずみつばは吹き出した。

「うふふ、ちえりさん、おかしいですわ!」

「ぶんぶんも同じだよ! ぬの仲間ー!!」

 いえーい! と、ちえりはハイタッチを求めた。釣られてみつばも思わずハイタッチした。

 ちょっと恥ずかしい、他人に言えない共通点を見つけたふたりは、すぐに友達になってしまったようだ。