ちえりパステルガァル!
ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』 


  ちょうど同じ時刻の違う場所。

 色(しき)駅前の大きな百貨店の中で、老夫婦と、若い娘が買い物をしていた。

 華やかな服が並ぶブランドショップで、老婆が娘に試着するように勧めているようだ。

「こんな素敵な服…、に、似合うかしら…」

 長髪の娘は自信なさそうに、そんな言葉をもらした。

「かえで、お似合いですよ」

「でも」

店内で戸惑っているかえでという娘を外で見ていた老紳士が、思わず店内に入っていくる。

「気を使わなくていいんだよ。かえで。どのみち当分の間の服は必要なんだ。…大丈夫。年寄りの金の使い道なんてろくなもんじゃない。こういうことに使えるのは、むしろ嬉しいんだよ」

 どう考えても、嬉しいのはこっちだ。
 
 ダークネスガーディアンとしての洗脳がとけ、新たにプリンセスホワイトの加護で人間世界に舞い降りた緑色のガーディアン。

 それを何も聞かず受け入れてくれたのが、今目の前にいる翡翠森(ヒスイモリ)老夫婦であった。
 
 ただ、彼女の容姿が昔事故で無くした娘に似ているという理由だけで。

 でも、彼女は、知っていた。

 この平穏な日々が、いつまでも続かないということを。

「分かってるよ。私も、おばあさんも」

 そいうと、老紳士は店内のソファーに深く腰掛けた。

「わたしたちは、もう十分に生きた。最後のご褒美だと思っているんだ。だから一瞬一瞬を大切にしたい」

 すべて、理解されて。すべて受け入れてくれた上で、老夫婦は受け入れてくれているというのか?

 すこしの間のあと、かえでという娘はコクリと頷いた。
 
「ありがとう。わたしも、大切にしたいです」

 そしていずれ直面する、免れることのできない戦いのことを思った。

 負けたくない、いや負けられない理由ができた。

 それは昔のような、違和感のあるプレッシャーの中ではなく。

 強制的な押し付けられたような命令や責任感とは明らかに違う。

 自分の中から。心の底から。本当に勝ちたいと思った。

 誰かに言われて、何かを植えつけられたような作られた感情ではない。

 これが、人の心の強さなのだろうか。

 それは時には力強いが、時に儚く、もろい。

 漠然とした「いつか来る別れ」に対して、不安というものが押し寄せてくる。

 そして、それは、行動を鈍らせ、決意を弱める。

「わかってる。人は一人じゃ弱いから、寄り添う仲間や家族がいるのかもしれない」

 誰にも聞こえないようにそうつぶやくと、デパートの窓から四角く切り取られた小さな黒い空を見つめた。

 あいにく曇っていて、星も月も見えない。

 …もっともこんな狭い範囲しか見えない空だ。また、晴れていたとしても街の明かりで星すら見るのは難しいだろう。

「ちえりちゃん、あなたにはやく会いたい」

 英ちえりは、出会ってから、今日まで自分に対する態度を一切変えなかった。

 【ダークネスグリーン】であるときも、「かえで」であるときも。

 彼女と話すと、自分のすべてが肯定されている気がした。許してもらえる気がした。

 ちえりは、今の「翡翠森(ひすいもり)かえで」を受け入れてくれるだろうか。

「さあ、会計がおわったわ。ご飯にしましょう。8Fがレストランだから、そこで食べましょ、かえで」

 老婆が、思いにふけっているかえでの手を握って、そういった。

「何が食べたい?」

「…サラダ。グリンピース」

 かえでは少し照れくさそうに、そして無邪気に答えた。