ちえりパステルガァル!
ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』 


   闇夜に白地の立て看板が浮かび上がっている。看板には、緑の文字で「国立彩玉病院」と書いてあった。

 その病院の一室から、青年が出てきた。

 悲壮感漂う表情で、眉間にシワを寄せ、顔色は青白かった。

 彼は病棟の廊下の壁際にある白い長椅子に持たれるように腰掛け、

「サキさん…」

 そう、声を漏らした。

 昨日まで元気に話していた彼女が…。

「あの」

 青年に声をかけたのは小さな少女であった。くるくると巻き髪で瞳も大きく、どこか気品が漂う、お嬢様風のいでたちだ。

「彼氏さん…でございますか? わたくし、松井先生のピアノ教室の生徒、分部みつばと申します」

 ああ、なるほど。彼は思わず顔を上げた。

「…サキさんの生徒。…そうか…君は無事だったんだ。何があったか、教えてもらえるかな?」

「そ…それは…、えっと、わたくしが駆けつけた時にはすでに、先生は倒れていたので、それ以上は…」

 みつばは、思わずウソをついた。いや、もともとウソをつく準備は出来ていた。まともな大人に【ダークネスガーディアン】だ、【侵色】だ、などと言っても通じないだろう。余計に事態を混乱させるだけだ。だったら今回の件は、何も知らぬ存ぜぬを通したほうが良い。あかねとみつばは話しあって、そう決めたのだった。

「そうか…。サキさん、命には別状ないみたいだよ」

「よ、良かった…」

 正直ほっとした。これで死んでしまったら、悔やんでも悔やみきれない。

「でも…」

 青年の青白い顔に、更に影がかかる。

「でも?」

「意識はあるんだ。受け答えはするし、会話もできないことはない。でも、まるで…心を無くしちゃったみたいなんだ」

「心を無くす…?」

「すべてに関心がないというか、無機質みたいな…ゴメン、こんなこといっても難しいよね。お医者さんはね、脳がショック状態なんじゃないかって言ってた。転んで頭を打ったか、何かした衝撃で。一応検査で一週間は入院するって」

 病院の外にでると、あかねと【かあら】が待っていた。

「たぶん、頭を打った衝撃で…なんて理由じゃないですわ…」

「【ダークネスブルー】、あいつら、一般人巻き込んで何をやったんだ!」

 許せん! と居ても立っても居られない様子の穂ノ尾あかねだ。

「ああーん、もう、るりちゃんがいないときに最悪の事態になったカラ」

 想定外カラ! と若干ヒステリックになる【かあら】。

「…リーダー不在か…うちらでなんとかするしかない。ちえりも呼んで作戦会議しよう。みつば泣くな」

 ハッとした表情になり、あかねは自分を落ち着かせるようにそういった。るりかが居ない今、最年長者は自分。

「うううう。先生どうなってしまうんですの??」

 今までもいろいろピンチを切り抜けてきたが、それはあくまで自分に襲いかかった困難や障害に対してだ。第三者の人様が巻き込まれるなんて想定もしなかった。分部みつばは、一気に不安に襲われてしまった。

「そういえば、ちえりも、かえで姉の一件以来、元気ないんだよな。あたしが、しっかりしなくちゃ」
 泣き崩れそうなみつばの頭を撫でると小さな声で、そうあかねは決意した。

「【かあら】、とりあえずみつばのそばにいてくれ。【ぱれっと】とちえりにはあたしから話しておく。今日は休もう」

 ふと見ると、彼女たちの近くにみつばの家のばあやがタクシーで迎えに来ていた。あかねは強化合宿の一件以来、ばあやとは顔見知りなので、軽く会釈するとみつばを渡す。

「目の前で先生が倒れちゃったもんだから、みつばびっくりしちゃって。はい、みつば自体は元気ですから」

 そういって、ばあやに受け渡した。

「あかねちゃん、わかったカラ。みつばちゃんは任せてカラ!」

 ばあやがいたので、それを口に出さなかったが、みつばのカバンの間から【かあら】は顔を出し、そんなニュアンスの表情であかねに目配せをした。