ちえりパステルガァル!
⇨ライトノベル版ダイジェスト
⇨特別版『ふたりはプリキュアMilkyWay&ちえりパステルガァル!スペシャル・ハーモニック』
彩鳥通町(いろどりどおりちょう)は駅の周辺こそ栄えてはいるが、大通りの一歩向こう側は、住宅街が軒を連ねていた。さらにちょっとでも道を外れれば、すぐに畑が出てくる。そこではゆったりした時間が流れているような気になった。
夕方にでもなればカラスがかぁかぁと鳴き、近所に流れる八瀬奈川(やせながわ)の土手を歩いていると、8月の粘っこい暑さも心なしか涼しく感じる。
そんなカラスの鳴き声を背に、瀬々良木るりかは相棒【かあら】を抱えながら歩いていた。
「んじゃ、【かあら】をよろしくね、みつば」
どうやらるりかは、みつば邸に向かっていたようだ。インターホンを押して、屋敷から出てきたみつばを見るなり、抱えていた【かあら】を手渡した。
「わかりましたわ。【かあら】しばらくの間よろしくですの」
「みつばちゃん、よろしくカラ」
「二泊三日だから…お迎えはしあさってね。…その間何もないといいけど」
瀬々良木るりかはお盆の期間を使って、家族で田舎に帰ることになっていた。
彼女は【かあら】を連れていくか悩んだが、二泊三日の間、【かあら】にじっとしてもらい、ぬいぐるみの役を続けてもらうのはかわいそうだと思い、みつばに預かってもらうことにしたのだ。
「グリーンの件で、ダークネス一派もパワーバランスが一気に崩れましたカラ。立て直すのに時間がかかるカラ」
田舎に帰っているあいだに、敵に動きがあった場合のことを危惧してるりかは言ったが、【かあら】は気を使ってか、楽観的思考でそう返した。いつもは空気を読まずに現実的な発言しかしないのに。
「焦ってるから逆に連続で仕掛けてくる可能性もあるわ、展開的に残ったほうがよさそうかな?」
「大丈夫ですわ。るりかさんのひとりやふたり、いなくなってもなんら支障は出ないですわ!」
ふん、と鼻を鳴らせて、みつばはそんな憎まれ口をたたく。
「ちょいちょい! パステル・ラピスを完全否定かい!」
「否定してないですの。肯定した上での『不要』ですわ。さあ、とっとと田舎に帰るがよろしくてよ!」
「…やだわ、みつばちゃん。素直に行ってらっしゃいって言えばいいのに…もうツンツンなんだから」
「おみやげ、期待しておりますわ」
「…今回は無理だけど、秋にでもチームPGで紅葉狩りいこうね」
「いってもよろしくてよ。ぜひ、よろしくお願い致しますわ」
「るりちゃん、【かあら】にもおみやげ買ってくるカラよ!」
「あいよー」
「ちょっと感じ悪い言い方になってしまいましたわ。それもこれもいったんお盆に帰ると言ったお父様お母様が、また仕事で帰れなくなったのが悪いんですわ!」
みつばは、るりかが帰ったあと不意に【かあら】に胸の内を吐き出した。
るりかもそういった経緯を理解した上で、【かあら】をみつばに託したのだろう。
わりとキツめに突っかかってくるみつばに対して、秋に紅葉狩り行こうと誘うオトナな対応っぷりは秀逸であった。
「ずいぶんと荒れてるカラね…」
「【かあら】が頼みの綱ですわ。お話に付き合って下さいますか? 12時間ぐらい」
なんだかんだで結果、みつばの表情は明るくなっていた。
それから、ちょうど24時間後くらいの夕方。
ここはピアノ教室。生徒はお盆ということもあり、みつばしかいなかった。
もともとみつばの担当の先生は、個人でやっているところをお手伝いしてる音大生なので、融通が効く。
当初、みつば邸に来てレッスンしてもらう予定であったが、みつばは引っ越してきてから、新しい学校になかなか行こうとしなかった。
心配したばあやが、みつばの両親に相談して少しでも外の空気にふれ、ピアノ教室の生徒たちと交流をもつようにという願いをこめて、通いで習うことにしたのだ。
「これで終わる。今日はこのあと授業ないから一緒に帰る?」
ちょっと個性的な喋り方のお姉さんは、ピアノ教室の先生、松井さき20歳。
「ありがとうございました、先生。ご一緒しますわ」
「…今日みつばちゃんは集中力がなかった気がする」
松井さきの特徴といえば、黒髪・ロング・ストレート・色白・スレンダーとキャラクター視覚的には完成度が高すぎる現役音大生だが、奇妙な言い回しの喋り方がキャンセラーとして働き、美貌をダイナシにしていた。
「あら、お見通しですわね。そういう先生も最近恋人とはうまくいっているようですわね」
「ちょ…なぜそんなことをいう?」
「雰囲気が明るいですわ」
「なぜ、そこまで深読みをする?」
みつばは松井さきの喋り方が変なロボットっぽいので、ロボマツと陰日向なくあだ名で読んでいる。
「大学生は多感な時期ですわ」
「児童に言われた。それで、みつばちゃんはなぜ気分が浮かないという?」
「海外でお仕事してるお父様お母様がお盆も帰ってこないんですわ」
「それは気分が浮けないと思う」
「沈みますわ」
「…みつばちゃん、明日先生の家にあそびに来てみたいと思う?」
「ええ?」
「明後日デートなのだけれど、手作りのクッキーをつくろうかと思っている。手伝ってくれない?」
「みつばは、失敗した時の言い訳ってことですわね? 児童も一緒に作ったから失敗しちゃってテヘペロって魂胆ですわね」
ははーん、と意地悪い顔をするセレブお嬢。
「松井は純粋な気持ちで誘っているのに、なぜひどいことをいう? その根性、ペースト状にしてオーブンで焼きあげる」
喋り方は変だが、るりかとちがって反応がまともに返ってくるのでロボマツは、からかいがいがある。
「みつばクッキーは、はちみつの味がしますわ。ロボマツ先生、誘ってくれて、嬉しいですわ」
「明日、朝、松井はお屋敷まで迎えに来ると思う」
「ありがとうございます。楽しみですわ。それではさようなら、先生」
そういってみつばは松井さきと別れた。両親が帰ってこなくて寂しいが、こんな自分でも気を使ってくれる人たちがいると嬉しかった。
角を曲がって姿を消すロボマツを見送ったみつばに、突然。
「キャ――――――――!」
ロボマツの叫び声が聞こえてきた。
