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ドメニコ・スカルラッティはバッハと同じ、1685年に生まれたイタリア人作曲家です。非常に優れた作曲家なのですが、バッハの陰に隠れがちで、その魅力は広く知られているとは言えません。



スカルラッティは生前、555曲ものチェンバロソナタを作曲しています。その殆んどは3分前後の短いもので、生き生きとした、輝く魅力に溢れています。



私は、バッハも好きですが、スカルラッティはもっと好き!時間の制約や、プログラムに注文の無いコンサートの始まりはスカルラッティ、と決めているほどです。練習を始める時も殆んどスカルラッティのソナタから。



日本のピアノ教育ではバッハばかりが取り上げられ、コンクールや音大受験でも常にバッハ。小学生の頃からバッハを弾かない日は無いって言うぐらい練習したものです。それでもバッハを嫌いになった事は無く、結構得意だったのですが、留学してからはスカルラッティにハマりました。



フランスでは、試験やコンクールでも、バッハかスカルラッティのどちらか、と選べる場合が多く、弾く機会も聴く機会もグンと増えました。



スカルラッティは短くてシンプルなのですが、明るさや物悲しさがたっぷりと含まれていて、なかなかこれを豊かに伝える演奏は難しく、意外にいい演奏が少ないのです。



そんな中で私が特に気に入っている一枚が、写真のCD。ホロヴィッツのオールスカルラッティ。ホロヴィッツは超絶技巧ばかりが取り沙汰され、ガンガン弾くだけだと勘違いされている方も多いと思うのですが、本当のホロヴィッツの魅力は、磨き抜かれた美しい音色、豊かで純粋な感情表現にあると思います。



私はホロヴィッツが好きなので、アクロバティックな演奏、と誤解をされがちなのが残念です。ホロヴィッツは非常にナイーブな人だった為、神経衰弱に陥ったりして、何度も演奏活動が中断されています。ピアノも常に、自分専用のスタインウェイを演奏会場に運び、専属の調律師に調律を頼んでいたほど、こだわりと繊細さを持っていました。祖国ロシアからアメリカへ渡り、愛娘を事故で失うなど、その人生は華やかさだけでは無いものでした。あの時代、ロシア人でありながら、アメリカ万歳と言わなければならなかったホロヴィッツ。市民権を得て、アメリカ人らしく陽気に振る舞わなければならなかったホロヴィッツ。
きっと悲しみと苦労は常にあった事と思います。見かけとは違った奥深さや感情の吐露が、多くの演奏の中では感じられて思わず涙が出る事もあります。




確かに、そのテクニックは目を見張る様なものもあります。しかし、このスカルラッティでは、テクニックがある故に可能となる、コントロールされ尽くした音色の絶妙な変化や、喜ばしさに満ちた表情が出されています。



ロマン派やロシア物の様な、強い感情表現とはまた違う。キラキラした優美な魅力で聴く者を誘い、明るいイタリアの景色の中に、時々ハッとする様な悲しさがある。



スカルラッティは若い頃からイタリアでも活躍していましたが、運命のいたずらで盛栄の過ぎ去ったスペインへ赴きました。思う様な音楽活動が出来なかったスカルラッティ。
そんな中、幼い王女マリア・バルバラのチェンバロ教育の為に書かれたのが555曲ものソナタ。当初は彼の作曲の才能のはけ口的な仕事だったそうですが、次第に王女へ敬愛の念は深まり、王女がスペイン皇太子と結婚してからも、彼女に従ってマドリードに移ったそうです。



こう言う中で出来た珠玉のチェンバロソナタ達。ホロヴィッツ自身がスカルラッティ解釈の指針とした言葉を引用してみます。
「この音楽は、宮廷的なものから粗野なものまで、甘い優美さから苦い厳しさまでを含んでいる。その陽気さは、一抹の悲劇的な気分の底流のために一層激しいものになる。…中略 …とくに特徴的なのは、彼がスペインで過ごした生活の反映である。…中略… 彼はカスタネットのはじける音を、ギターの響きを、押さえた太鼓の鈍い響きを、ジプシーの嘆きの歌の鋭い金切り声を、村の楽師のとてつもない賑やかさを、特にスペイン民謡舞踊の情熱的な緊張感を捉えている。…」
(SONYホロヴィッツPLAYSスカルラッティのCDのライナーノートより)



さぁ、聴いてみたくなって来たでしょう?
興味を持たれた方の為にホロヴィッツの弾くスカルラッティの入ったCDを2枚紹介します。

◆スカルラッティ・ソナタ集
ピアノ:ウラディミール・ホロヴィッツ
SONY SICC375
ベストクラシック100


◆ホロヴィッツ・コンサート 1967-1968
CBS SONY

2枚目の方は、最初の2曲がスカルラッティです。スカルラッティは2曲しか入っていないのですが、どちらも優美な魅力があるだけでなく、2曲目の方はこの時代の作曲としては大胆な転調が見事にされる、ユニークな作品です。



是非、スカルラッティの世界を楽しんで下さいo(^-^)o