猫のリンパ腫に用いる抗がん剤は化学療法の範疇に入り、週1回、毎回異なる抗がん剤を投与して、さまざまな角度からがん細胞を攻撃するという方法が一般的です。
よく使われる抗がん剤に、シクロフォスファミドというものがあります。もちろん、人間の抗がん剤治療でも良く使われるものです。シクロフォスファミドが、どのようにして細胞増殖を抑制するのかについて説明しようと思います。
と、その前にまずは、細胞が増える仕組みについてのお話しをしなければなりません。
一つの細胞の中には、遺伝情報が書かれた遺伝子の鎖として、全く同じものが2本入っています。つまり、1対入っているのですね。
細胞増殖しない時は、この2本の鎖は束ねて捻られて収納されています。細胞が増殖する前になると、その鎖が解けてバラバラになり、それぞれ一本になった鎖が今度は自分を複製して、2対になったところで細胞自体も1つから2つになります(図)。
シクロフォスファミドは、その遺伝情報の鎖が複製されるときに、鎖をめちゃくちゃに結んでしまう、あるいは鎖を引きちぎってしまう…というイメージです。鎖がめちゃくちゃになると、その細胞は増殖できずに死んでしまうこともあるでしょう。一方で、遺伝情報がおかしくなったまま(突然変異)、その細胞が異常増殖してしまうということもあり得ます。これは細胞が『がん化』したということです。
つまり、抗がん剤には発がん性があるということなのです。がんをやっつける薬に発がん性があるなんて!なんだか変な話ですが、そういうことです。
化学療法に使われる薬物は上述のように、細胞が分裂増殖するときに作用します。ある程度成長した動物の体内では、細胞が分裂して増殖する頻度は非常に低いです。一方で、がん細胞は恐ろしいほどのスピードで細胞の分裂増殖を繰り返します。
がん以外の組織では細胞分裂があまり起こらないため、化学療法に使われる薬物による影響は、非常に少ないと考えられています。一方のがん細胞は細胞の分裂増殖を頻繁に繰り返しているので、化学療法に使われる薬物によって、かなりのダメージを受けます。
ちなみに、動物の身体の中で比較的、細胞の分裂と増殖が盛んな場所は、皮膚、毛根、腸粘膜、骨髄などです。人間で抗がん剤の治療をすると、副作用として髪の毛が抜け落ちることがあるのはそのためです。
シクロフォスファミドの元になった化学物質は、マスタードガスと言います。マスタードという名前ですが、辛子とはなんの関係もなく、美味しくも辛くもありません(と思います。)これは、毒ガス兵器であり、実際、20世紀初頭の戦争時に使われました。この毒ガスには、細胞の分裂増殖を抑制してしまう作用があることがわかりました。
マスタードガスのこの作用に目をつけて研究改良され、世界で初めて抗がん剤としてナイロジェンマスタードという薬剤ができました。
そして、このナイロジェンマスタードより副作用が軽くなるように改良されたのが、シクロフォスファミドです。
(参考、出典:役に立つ薬の情報〜専門薬学 サイト)
