腹膜播種は特殊な転移です。

一般的な転移は血行性転移のことが多い。
これは、血液の中に漏れ出したがん細胞が、体内をぐるぐると血液に乗って回っている間に、肝臓や肺などがフィルターとなってそこに引っかかって、その場所でがん細胞が増殖することが一般的な肝転移、肺転移の機序です。

がんの転移がひとつあったら、急にステージが上がるのも
それは血液の中にすでに漏れ出して、見えていない他の臓器の転移がある可能性が高いからです。

一方、腹膜播種は違います。
もっとタチが悪い。
腹腔ってごぞんじですか?
人間のお腹を開くと、大きな空洞になっています(極論)
その中に、腸などの多数の腹部臓器が入っています。

腹膜播種は、血行性転移のように、血液などを媒介しません。
直接、がん細胞が、腹腔のどこかに転がり落ちて、そこで育ったり、はたまた、腹腔の中をがん細胞は血行性と違って自由自在に移動できますので、増殖しながら他の腹腔(器)の壁にくっ付きます。だから、播種の方が断然タチが悪い。

そのうえ、腹腔の中には上記のように多数の臓器が入っています。播種は腹腔の壁だけでなく、当然これら臓器にもくっついて育ちますので、これはもはや臓器転移のような状態にもなってしまいます。

一般的には、このように腹膜播種は自由自在に移動できることから、通常の転移以上に全身化のイメージが強い。
さらに、見えてないような小さながん細胞が、お腹の中に多数広がっている可能性がある。広がりやすいわけです。


このような病態ですので、がんカテ含めた一般的な局所治療の適応になることはほとんどありません。一部の施設で腹腔内化学療法というものをやっていることがありますが、その有用性にはまだ結論はついてないと思っています。
ですので、腹膜播種=全身薬物治療、これが基本です。
薬物治療なら、全身どこにあっても(脳は除く)薬剤は到達できますので。

ただ、一般的には悪制度が高く、その振る舞いも悪性であるのが播種です。胸腔であれ腹腔であれ、播種を併発した場合はかなり深刻な状態かと思ってください。

その中でも、婦人科癌や乳癌のようなケモセンシビティーの高い癌腫は、薬物治療が激効きすることがありますので、播種であっても完治に近いくらいまで消失減量することがありえます。


さて、当科の腹膜播種に対する適応は?

基本は、播種が起きたばかりの状態、広範囲に広がっている場合はカテの治療適応にはなりません。広範囲すぎて、栄養動脈を探し出すことが不可能だからです。

でも当院では、今もお二人の播種の患者さんの治療をしています。過去にも何度もやってきました。
これにはかなり厳格な制限があるのですが、運がよい方はたとえ腹膜播種でも治療をしています。


具体的な適応ですが、

1)腹水を伴っていない

 がん性腹水がある場合は、その腹水の中にがん細胞が
 浮いており、狙い撃ちは到底不可能です


2)限局化している

 腹膜播種の中にも、抗がん剤が効いてほとんどの播種が
 見えなくなった。しかし一部だけ腫瘤が残ってしまった。
 そんな方が少ないですがいらっしゃいます。
 小さなつぶつぶのタイプは難しいですが、
 塊をどんと作っているタイプは、周辺臓器から
 血液が供血されているので、その血管をみつけだして
 動注できることがあります。
 当院で具体的に実施している症例は、このような方々です。
 ダグラス、横隔膜下などは、孤立化して残りやすい場所で
 カテもしやすい場所ですので、
 現在も積極的に行なっています。
 ただし、孤立化していてもそれが複数ある場合は
 見えない小さな播種が飛び散っている場合がほとんどです
 ので、適応外のことが多いです。


具体的に、腹膜播種でカテの適応になることは、当院でも稀です。ただ、過去に何十例と実施してきたので、術前にCTを
撮影することで、できる可能性を示すことはできます。

基本、当科でも播種に対しては薬物療法を第一に推奨していますが、その薬物療法も使い切ってなくなった、ただ部分的に残ったところがありそこだけコントロールすればいい(オリゴ再発)、このような方が適応になる可能性があります。