夜が明ける

西 加奈子


読むといつも難しい課題を提示されたような気持ちになる西さんの作品。


今回も、シングルマザー家庭の貧困、ヤングケアラー、闇に近い過酷な労働環境など、今の日本が抱える問題が詰まっていました。


高校時代に出会い、互いの存在に救われた俺とアキ。卒業後それぞれの道を歩き始めた二人は、自分の思いとはかけ離れた、重苦しく、やっと呼吸だけしているような日々を送ります。


読み進める度にその状態はさらにひどくなり、わたしまで息苦しく重い気持ちになりました。


現実の社会でも、仕事や人間関係で苦しい状態に追い込まれている人はたくさんいて、死や犯罪に手を出す人もたくさん。助けてと声をあげることさえできない人もいます。


「助けを求めてください」

という職場の後輩、森の言葉は、そのまま作者の強い願いですね。きっと手を差し伸べてくれる人がいるからと。


アキのことが心配でしたが、手を差し伸べてくれた人がいて、その手に素直につかまったことで幸せな最期を迎えることができました。そこは日本から遠く離れたフィンランド。


森の言葉とアキの幸せな最期が、俺にも夜明けが来るかもしれないと思わせてくれたのでしょう。

「助けてほしい。」

そう言って次の道へと歩き始めるところで物語は終わります。


俺の声が、同じ苦しみを持つ人に届きますように。




ボタニストの殺人 上

М・W クレイヴン


すっかりはまっている刑事ワシントン・ポーシリーズ5作目。前作は文庫本と思えない分厚さでしたが、今回はついに上下2冊になりました。事件がそれだけ複雑になったということでしょうか。


ポーの暴走ぶりは相変わらずで、上司のフリン、相棒のティリーとの信頼関係も変わりません。この関係の心地良さがはまっている理由の一つです。


ただ、犯罪はますます高度?で難解になり、警察が保護した人物が二人も殺害されてしまいます。死因はわかっても殺害方法はまったくわからず、そのうえ、ポーがマスコミの標的になり、捜査放棄、捜査妨害をしたと新聞で叩かれます。二重三重の不可解さにドキドキしながら下巻へ。




ボタニストの殺人 下

M・W   クレイヴン


毎回思うことですが、犯罪の方法がどんどん悍ましくなっていきます。今回の方法も、フィクションとはいえ、世に知らしめていいものかと思うほど恐ろしいものでした。その分おもしろくてのめり込んでしまいましたが。


解決に導いたのは、いつも通りポーの鋭い洞察力と行動力。そして分析官ティリーや上司フリンとの信頼関係。そこに解剖医ドイルの知識が加わって最強のチームワークでした。


もう一つの事件。ポーとドイルがお互いの気持ちに素直になり、エドガーと3人の生活が始まりました。さらにパワーアップしたチームの活躍が楽しみです。ちなみにポー以外のメンバーはみな女性。女性管理職が当たり前の社会ということでしょうか。




探花一隠蔽捜査9一 

今野 敏

書店に並ぶとつい手にとってしまうシリーズ。犯罪の目的や手口より、竜崎を中心とする警察組織の人間関係、竜崎の考え方や言葉がおもしろくて毎回一気読みです。

相手が米軍基地の幹部でも国会議員でも、事件解決のために行動する竜崎の正義感がひるむことはありません。

今回も日米地位協定の前でも怯むことなく自分の考えや捜査を貫こうとします。


人をつぶすのではなく、人を大切にする。そんな竜崎に感化されていく警察官や、口は軽い(悪い?)けど竜崎を認めて協力する伊丹もこのシリーズには欠かせない存在です。


毎回思いますが、このシリーズ、全国の警察署に揃えてもらえないでしょうか😅。


北欧のミステリー小説にあたりまえのように登場する女性幹部はもちろん、刑事にも女性は登場せず、完全な男社会でした。



駐輪場のねこ

島津 輝


帯に「こんな幸せな小説、ほかには見つからない!」とありました。幸せな気持ちになれることを期待して手に取った短編集。


1話目の「ラインのふたり」でどんな幸せなんだろうと不安になりましたが、最後の場面で何とも言えない温かい風が吹き、そこだけ2回読み返してしまいました。


あとの話も、多少癖のある人は登場しても、悪意のないやさしい日常が描かれています。

どう受けとめたらいいのかわからない場面もありましたが、悪意のない人々の、自分の思いを大切にした生き方に、確かに小さな幸せをもらいました。ほかの作品も読んでみます。




団地のふたり

藤野 千


女ふたり、同じ団地で子どもの頃から仲良しの50代。どちらも独身で、それぞれに悩みはあるけど、いっしょにおいしいご飯を食べて、たまにケンカもして、近所の高齢女性からの頼まれごとを引き受けて、多分このまま60代へと向かうのでしょうね

ちょっとだけトゲもあるけど、飾りのないゆったりとした会話が楽しくて、老後は女だけでルームシェアして暮らしたいと、友人たちと話した昔を思い出しました。ふたりが幼いときに亡くなった友だち、空ちゃんをずっと忘れないのもいいですね。ドラマ化されたのは知っていましたが、読み終えて調べたらキャストがわたしの思っていたのと反対でした。読んでいる間、料理をしているのはずっと小泉今日子さんでした。



始まりの木
夏川 草介

「藤崎、旅の準備をしたまえ。」
その言葉だけでフィールドワークに出かける民俗学者の古屋と、荷物持ちを兼ねてついて行く院生の藤崎。2人のやりとりが愉快で、辛辣だけど温かく、軽く思える言葉の中に深い考えがこめられていて、楽しい読書でした。

とくに心惹かれたのが、遥か古代からこの国にあった自然崇拝、自然の神々への謙虚な信仰について語られる場面です。巨木や岩など自然の様々な場所に神々が宿っているという考えは、八百万の神を信じるわたしの宗教観(そんな大げさなものではありませんが)と同じで、うなずきながら読みました。

古谷の言動は現実では完全にハラスメントでアウトですが、負けてない藤崎がえらい!
二人や周りの人々の存在もおもしろかったけど、民俗学を考えるきっかけになるいい作品でした。



コロナと潜水服
奥田 英朗

5話の短編集。どの話にも《不思議な存在、不思議なできごと》が登場します。不思議だけど温かく、家族や生きることが愛おしくなる物語でした。

ギスギスした気持ちになることが多い世の中。とくにコロナ禍が始まった頃は、疑心暗鬼にかられたりして辛いことが多かったけど、こんなふうにゆったりとかまえていたらみんな生きやすかったのにと、あの頃の閉塞感を思い出してしまいました。

子どもにお昼ごはんを用意する父親の言葉
「日本人の昼食は素麺と国会で決まりました。」
いいですね。
夫婦の問題で父親に味方する娘、左遷された夫を気遣う妻、コロナに振り回されない妻。いいですね〜。



ちょっと早いけど
来年のカレンダーを購入
毎年ムーミンファミリーです

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拙い感想を読んでくださり
ありがとうございました☕