中学校時代の僕は、女のヤンキーにもシメられるぐらい

壮絶にヘタレな男だったため、3年間ずっと好きだった

トモコちゃんという女のコには、告白はおろか、

一度も話すことさえできなかったんですよね。


一回、あまりにもヤンキーにシメられまくるので、

どうしたら殴られずに済むかって本気で考えて、

霊感があるフリをしたことがあるんですよ。


常に幽霊が見え、幽霊の呪いと戦っている僕のことを

イジメたら、ヤンキーの皆さんにも幽霊の呪いが

降りかかることになりますよ、と。


パンチやキックでは負けてしまうので、この際もう、

目には見えないもので対抗しようと思ったんですよね。


でも、ヤンキーに直接言うと、明らかにウソっぽいので、

まずは、常に幽霊と戦っているところをヤンキーたちに

見せなければならない。


だから、授業中に突然、「幽霊の呪いが!」とか言い出して

苦しみ出してみたりとか。いきなり教室の隅を見ながら、

怖がってみせたりとか。


いや、もう普通に考えて、ヤバいヤツですよ。

ヤンキーじゃなくたって、そんなヤツに近づきたくありません。

常に悪霊に憑りつかれているって、絶対におかしいですもん!


しかし、どんなにヤバいヤツだと思われようと、

もともとクラスメイトからもキモがられていたわけですし、

これでイジメから解放されるなら、エニシングOK!


実際、ヤンキーの間でも、「アイツ、ヤバくね?」みたいになり、

それから数週間は、まったくイジメられなくなったんです。

僕のアイディア、大成功!


しかし、しばらく経って、この異常な行動を取っている僕に

意外な人たちが食いつき始めるという誤算が生じました。


それは、ヤンキーではなく、クラスの女子たち!


中学生ぐらいの女子って、占いとか幽霊みたいなヤツに、

ちょうど興味のあるお年頃じゃないですか。「こっくりさん」が

流行ったりして、社会問題になったりしてね。


僕に幽霊が見えるなら、守護霊とか、将来の運勢とか

見てもらっちゃおうよ!っていう女子が現れ始めたんです。

教室の隅っこを見て発狂している、この僕にです。


今まで一度も女子から注目されたことがなかったヘタレ男に

突然、自分がアイドルなんじゃないかって錯覚するほどの

女子たちが殺到し始めたんです。しかも、休み時間ごとに。


「ねえ、私の守護霊って、何?」

「ねえ、今、好きな人がいるんだけど、うまく行きそう?」

「ねえ、私の友達の家にオバケが出るらしいんだけど、

どうしたらいいと思う?」


女子たちにとっては、気軽に話せる江原さんが

目の前にいるみたいな感じですからね。そりゃあもう

興味津々で、いっぱいいろんな質問しちゃいますよ。


しかし、残念なことは、さっきも書きましたけれども、

僕、江原さんと違って、まったく霊感がないんですよ。

教室の隅っこを見て発狂してるのだって、ヤンキーから

イジメられないようにするための演技ですから!


なんなら、そこらへんのお地蔵さんに向かって

ションベンができるほど霊感がない僕なのに、

そんな難しい話、答えられるわけがないんです。


どうして、あの時、「幽霊から聞いたことを現世の人間に

話してはいけないっていうルールがあるんだ」みたいな

器用なウソをつけなかったんだろうって思いますよ。


だけど、ぶっちゃけた話、このまま、みんなの質問に

ちゃんと答えていったら、いつかトモコちゃんが僕に

相談してくれるかなって思ったんですよね。


「あの・・・、実は今、恋に悩んでいるんですけど。」


そしたら、そんな質問をしてきたトモコちゃんに、

僕は言うんです。まるで、カズコ大先生のように!


「あんた、今の恋を続けていたら地獄に落ちるわよ。

本当の運命の人には、既に出逢っているんだから!

ほら、目の前をよく見てごらんなさい!」


恋の相談キッカケで、僕と付き合うトモコちゃん。

そんなシナリオが、中2の僕の頭の中には鮮明に

描かれていたのです。


完全にスター気取りで、次々と適当な予言をしていく僕。

しかし、やっぱり霊感もなく、占いが得意なわけでもない僕が、

どんなに一生懸命予想したところで、そう当たるはずもなく・・・。


「うちのお母さんが霊能者に占ってもらったことが

あるらしいんだけど、その時に分かった私の前世って、

本当はヨーロッパで暮らしていた貴族なんだって!」


「このまえ、彼氏と仲直りできるって言われたけど、

結局、別れたし! ってゆーか、本当に霊感あんの?」


霊能者ぶって、いろいろな予言を始めてから

わずか1週間で、早くもボロが出始めました。

すると、ヤンキーと微妙につながるのあるクラスの女子が、

さっそくヤンキーの皆さんにリーク!


「霊感あるって、ウソらしいよ?」


さっきまで、いい気になって幽霊を見ていたのに、

一転して、自分が幽霊になるかもしれない状況に!

だって、ヤンキーの皆さん、ものすごくご立腹なんですもの!


だいたい、この1週間ぐらい、僕はクラスの女子たちの

話題を見事なまでにかっさらっていたんです。この時点で

もう女子独占禁止法違反の罪に問われているのに、

これに追い討ちをかけるように、霊感がウソだったと

来たわけです。


この後、僕がどうなったのか、

皆さん、興味ないですか?


小栗旬が出演し、話題騒然の「クローズ」の世界を

はるかに超える現実が、そこにはありました。

何が起こったのかって・・・。


第29期大日本暴走愚連隊

「柏猫殺し」の皆さんが集結し、

2年5組の前の廊下にいた僕を

次々と轢いていった。


「死ねや、ゴラァァァ!」って言われました。


えぇ、そうなんです。僕が通っていた中学校って、

学校の廊下を普通にバイクが走るんです。


だいたい、普通の学校って、「廊下は走らない」って

張り紙が貼ってあるじゃないですか。

だけど、うちの中学校・・・。


「廊下はバイクで走らない。」


なんなら、廊下を普通に走るのは、許可されておりました。

だいたい、ヤンキーの皆さんが人力で走るっていうのは、

誰かをシメる時か、警察に追われた時だけですからね。

滅多に「走る」なんて行為はしないんです。


ひと通り、いろいろなバイクに轢かれ、軽症を負った後、

金属バッドやら、メイケンサックやらを持ち出し、

襲ってきたヤンキーの皆様。ここらへんまで来ると、

本当に命の危険を感じ、マジで幽霊が見えても

おかしくない状況です。すると、次の瞬間・・・!!


「待てよ、オマエら!」


僕の引き出しには、まったくないパターンでした。

えっ? 何、これ? 救世主? 誰か助けてくれるの?


こんなヤンキーに取り囲まれている状況において、

そんなお言葉が言えるなんて、よっぽど勇気がある

ものすごく高貴なお方に決まっています!

なんて素敵な方なんだ。でも、一体、誰なんだ?


すると、パッて見たら、第29期大日本暴走愚連隊

「柏猫殺し」の総長であり、僕が通うヤンキー学校の

副番長でいらっしゃるH谷君でした。


「た・・・、助けてくるのかな?」。

そう思った次の瞬間でした。彼が幽霊が見えるよりも

ヤバい人だったってことを思い知らされましたのは!


トポトポトポトポ・・・。

僕に謎の液体をかけ始めたH谷君。


ちょいと鈍感な人だったら、きっと今頃、死んでました。

幽霊は見えないけれど、動物的な危機回避能力だけは、

バツグンに優れていたらしい僕。


一瞬にして、「燃やされる」と悟りましたよ。


こんなところで着火されたら、心に残るキズだけでなく、

体にもキズが残ります。いや、死んでしまうかもしれない。

火事場のクソ力っていうのは、こういうことなんでしょうか。


5秒で全裸になりました。


チンポーコを見られて恥ずかしいとか、そんなことをいちいち

考えている余裕はありません。死ぬかチンポーコを出すかの

2択だったら、絶対にチンポーコですもん!


偶然にも、僕の真後ろに消火器を発見!

僕は迷わずに、自分の制服目掛けて発射しました。

が、引火していたわけでもないのに、消火器を発射したあげく、

その粉が全力でヤンキーの皆さんに降りかかる大失態。


僕の人生で、一番ボコボコにされたのは、

この日だったんじゃないかと思います。


全裸でボッコボコにされ、本気でグッタリするまで

終わりませんでした。半殺し寸前のフルボッコで、

ようやく満足したのか、その後、ヤンキーの皆さんは

帰っていかれたわけなんですが、皆さんが去った後、

泣きながら消火器で粉まみれになったブリーフを

穿いていた時、バドミントン部の部活を終えた

トモコちゃんがやってきたんです。


「アッーー!!」


人間って、本当にドン引くと、こんな顔するんだって

その時に思いましたね。粉まみれのブリーフパンツ一丁で

泣きながら廊下に立ってる気持ち悪い男が、目の前で

トモコちゃんを見ながら、フリーズしているんですから!


しかも、トモコちゃんからしてみれば、事情を知らないので、

これから穿こうとしているのか、脱ごうとしているのかも

分からないわけですよ。


トモコちゃん・・・、全力で逃げました。


あたりまえですよ。

いや、この際、僕としても逃げてもらった方が

ありがたかった。こんな姿を大好きなトモコちゃんに

長時間見られたら、僕、逆に何かのプレイだと思って、

ブリーフを脱いでいたかもしれません。


でも、トモコちゃんを守れる強い男になりたいと思って、

密かに「少林寺拳法」の本を買ったり、公園で武術の

練習をしていた僕にとって、最弱の様子をトモコちゃんに

見られてしまった精神的ダメージは、計り知れず・・・。


その日の夜、生まれて初めて

「金縛り」というものに遭いました。


終わり。