殆どのナイジェリア詐欺の被害者支援団体や詐欺情報を掲載して警告するサイトは、被害者の方が詐欺に気が付いた時点で詐欺師との接触を絶つことを進めています。しかしながら、自分で何とか調べようと躍起になる被害者の方も多いようです。実はこれは被害者と詐欺師の間だけの問題ではないのです。
フェースブックなどのソーシャルネットワークで友達になっている相手が詐欺師だと気が付いてもそのまま連絡を取り続けるとどういうことが背後で起きるのかを図にしてみました。
登場人物の名前は登場順にアルファベット順の名前にしています。実在の被害者の方々のモデル等を示す意図は全くございません。実際に目にした事柄をもとに作ったフィクションです。
サンフランシスコ郊外に住むアンはニューヨーク出身だというバートとフェースブックで知り合いました。バートはアフガニスタン駐留の米国陸軍の将校を名乗り、人当たりもよくフレンドリーな相手だったのでアンも何となく彼に惹かれました。しかし、時々チャットで使う意味不明の言葉等から本当にアメリカ人なのかと疑うようになり、リアル生活での友達に相談したりネットで調べたりしました。結果、彼がどうやら詐欺師であるらしいということに気づきます。友人は彼との連絡をすべて絶つように勧めますが、アンは彼のことをもっと調べて尻尾を出させたいという気持ちから、まだ騙されているふりをして接触を続けます。
一方、バートもアンが疑い始めているのではないかと思い、ボスに相談してお決まりのアフガニスタンの箱の話しを持ち込むのをもう少し先に延ばすことにします。そして、チャットで愛のメッセージを送ってアンの機嫌をとるようにしています。バートが詐欺を働こうと言う動きは今のところなく、アンは平穏な毎日をおくっています。さて、この時にどんなことが起きているのでしょうか?
バートはアンの友達のリストを探っています。そして、カーロスという元軍人の友人がいるのに気が付きます。今は一般企業で働いていて、2005年にアフガニスタンでの戦争に参加したときの写真を誇らしげに友達の友達まで公開にしています。バートはカーロスの写真をダウンロードします。そしてアンやカーロスとは直接つながりのない、アンの友達の友達のそのまた友達であるデビーにエドという名前の現在アフガニスタンに派兵されている米国陸軍の少佐としてコンタクトをとります。デビーはエドが休暇をとってデビーのいるオーストラリアまで来てくれるというので、エドに言われた通りに休暇申請の申し込みをして、飛行機代などの諸費用と休暇代として1000ドルを支払いました。そしてそのあと、エドが詐欺師だと気が付き、写真を検索してカーロスを見つけます。写真と電話番号を見つけることができ、カーロスの家に電話をすると、妻のフランシスが電話に出ました。お金を返せと言うデビーに、フランシスは当惑します。また、カーロスが浮気をしているかもしれないと思い、仕事から帰ったカーロスを問い詰めます。カーロスは何とか妻に自分の潔白を説明できたものの、その後何度も女性からの問い合わせが電話やメール、SNSのメッセージで続きます。写真が盗用されていることを知るのはもっと後の話です。そして半年後には、カーロスの写真といえば『ナイジェリア詐欺』と言われるほど有名になり、詐欺師情報を掲載するサイトには『またカーロスの写真!』などとかかれるようになります。
さて、バートはアンの友人のジョージが金回りがよさそうでしかもまじめそうな人柄であることをアンのフェースブックへのコメントで知っています。そこで、ジョージには仲間のヘンリーという男がコンタクトをとります。何でも、ジョージと同じ姓の男性が多額の預金を銀行に残してガーナで熱病にかかって亡くなり、彼の資産をガーナの悪い銀行員から取られてしまう前にその男性の親族としてお金を受け取るのを手伝ってほしいと言ってきます。
バートはアンの友人リストをほかの詐欺師仲間にも提供します。すると、今度はアンの友人の友人の一人、イアンがセクシーな女性、ジェーンから『お友達になりたい』とメッセージを受け取ります。独身のイアンは、迷わず友達申請を受け入れ、メアドを交換すると、SNSにはないもっときれいな写真が送られてきて、自分はスーダンの大金持ちの令嬢で、政情の悪化でセネガルの難民キャンプに入れられていると説明してきます。そして、『私をセネガルの難民キャンプから助け出してください』と頼まれます。
バートは別のアカウントを作り、カイルという名前のフロリダ在住の会社経営者としてアンに友達申請をします。実はカイルは目的はアンではなく、アンの友達のリリーです。カイルはアンとは友達承認された後ほどんと接触もなく、リリーに執心します。リリーはカイルがアンの友達であることから、安心して彼との交流を始めます。
さて、ヘンリーも別のアカウントをとって、今度はマークという名前の英国の大学教授を名乗り、アンの友人であるナタリーに友達申請をします。写真も名前も実在の教授と一致します。ナタリーはマークが本当に教授だと信じて交流を始めます。
アンの友人のオスカーは、プリシラ、クインシー、ロバートという名前の三人から友達申請を受けます。そしてそのあとすぐに、フェースブックがバートの一味に乗っ取られました。一味は今度はオスカーに成りすまして、オスカーの友人や、まったくつながりのない人たちの中からカモを探します。オスカーがアカウントを乗っ取られたという申請をしてフェースブックを取り戻すまでの数日間でプリシラ、クインシー、ロバートの三人を装っていたバートの仲間は相当数の獲物を見つけてメールやYahooメッセンジャーに移行していました。
アンの友人の友人であるスティーブは、ティムと名乗る男から宝くじに当選したという連絡を受けます。スティーブは宝くじを買った覚えが無いので断りますが、友達リストにティムは残っています。ティムはスティーブの友達のなかからさらに気のよさそうな高齢の男女を探してカモにすることを考えます。
フェースブックやLinkedInのような人のつながりがわかるソーシャルネットワークでは、友達になっている人が友達の友達まで見つけることができ、プライバシー設定によっては友達の友達の写真も見ることができ、詐欺師による影響は拡散してゆきます。友人の安全を考えるなら、自分が詐欺師と接触しているということに気づいたら、被害が起きていなくても相手に何も伝えずに接触を断ち、彼らが自分の友達リストを見て新しい被害者を探したりできないようにするべきです。確かにその段階では遅いかもしれませんが、被害の拡散を少しはとどめることができるのです。それをしていなかったばかりに、実際に貴重なお友達のフェースブックが乗っ取られたり、お友達やそのまたお友達が宝くじだの遺産相続だのの詐欺メッセージを受け取ったり、他の詐欺師からの接触を受けたりなどたくさんの二次被害を経験された方もおられるのです。
ですから、本当にお友達のことも考えるなら、詐欺師との接触は絶つべきです。あるアメリカの友人は、『詐欺師であると知っていながらソーシャルネットワークでコンタクトを続けたり友達リストに残しておくのは詐欺に加担しているのと同じだ』と言っていました。まさにその通りだと思います。
