前回のブログからの続きです⇒
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そもそも、どうして本を書くことになったのか。
話は、あるコンテストから始まります。
去年の頭、出版社が主催しているエッセイコンテストの存在を知りました。賞を取れば、本として出版されるというものです。
「自分の文章を認めてもらいたい」
そんな気持ちもあって、応募してみることにしました。
もともとこのブログでは、旅の話を書いてきました。その中からいくつかの出来事を選んで、エッセイとしてまとめたのです。
ありがたいことに、その原稿は一次審査を通過しました。
「あれ、もしかしていけるのでは?」
人間というのは単純なもので、少し可能性が見えると、すぐ夢を見始めます。
もし受賞したら、本になる。
本屋に並ぶ。
帯に誰かのコメントがついたりするのだろうか。
そんなことまで、ぼんやり想像していました。
そして、結果発表の日。
サイトを開いて、受賞者の名前を探しました。
……ありませんでした。
その瞬間、それまで頭の中で響いていた雑音が、すっと静かになりました。
そして、ふっと頭に浮かんだことがありました。
今思うと、わりと雑な発想なのですが、そのときの自分には、妙にしっくりきたのです。
それと同時に、もうひとつ、はっきりしたことがありました。
コンテストに出した原稿を読み返してみて、「ああ、これじゃ届かないな」と思ったのです。
文章は整っている。
それっぽい言葉も並んでいる。
でもそこに、自分の体温がない。
誰かの皮をかぶったような文章でした。
だから決めました。
自分の体温のある文章を書こうと。
そう思って、もう一度原稿を書き始めました。
ところが、書き始めてすぐに気づきました。
これは、今までブログで書いてきたものとは、まったく違う作業でした。
あのとき自分は本当は何を感じていたのか。
何を怖がっていたのか。
何に引っかかっていたのか。
そういうものを、自分の中に潜って探さないといけない。
書いているというより、ほとんど自分との対話でした。
これまでのブログでも自分と向き合って書いているつもりではいました。でも本を書き始めて初めて気づきました。
ああ、私はまだそこまで潜っていなかったんだな、と。
書いているはずなのに、やっていることは、ずっと自分の内側を掘り進める作業でした。
原稿を書きながら、何度も同じところで止まりました。
ここまで書いたら、もう一段深く潜らないといけない。
でも、そこを書いてしまったら、もう後戻りできない。
そんな場所が、原稿の中に何度も出てきました。
あの作業は、執筆というより、巨大な鉱山にツルハシ一本で挑んでいる感じでした。
頭の中には、材料だけは山ほどある。
でも、その中のどこに本当に書くべき言葉が埋まっているのかは、自分でもわからない。
だから、自分の感覚を頼りに「ここかもしれない」と思う場所にツルハシを振り下ろしていく。
たまに「あ、これだ」と思う大きな石が出てくる。
でも、それはまだただの石です。
そこから削って、磨いて、また削る。
やっと少し光り始める。
たった一つの表現を見つけるのに、一週間かかることもありました。

そんなふうに原稿を書き続けていたある日。
ふと、あのコンテストのことを思い出しました。
そういえば。
大賞って、どうなったんだろう。
なんとなく気になって、
AmazonのKindleを開いてみました。
ありました。
コンテスト大賞作品。
表紙があって、
帯があって、
有名人のコメントが載っていて、
当たり前のように一冊の本として売られていました。
そのページを見ながら、しばらく画面をスクロールせずに止まっていました。
そして思いました。
ああ。
これ、自分だった可能性もあったのか。
少しだけ、胸の奥がざわっとしました。
でも、それ以上その画面を見続けることはしませんでした。
ページを閉じて、机の上に置いてあった原稿に戻りました。
自分で本を書くと決めた以上、やることはもう一つしかありませんでした。
この文章を、最後まで書ききること。
そうやって書き続けているうちに、あるときふと気づきました。
あれ。
原稿の文字数が、いつの間にか6万字を超えていました。
6万字を超えたその瞬間、ひとつだけはっきりしたことがあります。
人生は、誰かに選ばれるのを待っていると、
なかなか動きません。
でも、ツルハシ一本でも自分で掘り始めると、
ちゃんと前に進む。
大事なのは、
速く掘ることじゃない。
今この瞬間を、
ていねいに掘り続けること。
そうして掘り続けていると、
ある日ふいに、
ダイヤの原石に当たることがある。
人生の最後が、
誰かに選ばれるのを待つ日で
終わりたくない。
だから私は、
最後の一瞬まで
ツルハシを持っていたい。
そのために、
これからも掘り続けて、
書き続けていきます。
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