以前メルマガに書いた記事が
みつかったので掲載します。

ひどいアトピーの息子と一緒に泣きっぱなしの母親でした。


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【崖っぷち】

玄関に入り、カギを閉める。靴は歩いてきたままに互い違いのまま脱ぎ、荷物を置く。抱っこ紐で息子とつながったまま、洗濯をとりこむ。隣町の大病院の診察は、朝いちばんに出ても、検査と会計で帰りは夕方だった。夕ご飯をつくらなくっちゃ。コンロが危ないからさすがに降ろそう。起きませんように。抱っこ紐を股につけたまま、そおっと息子を降ろす。片手で頭を支え、枕に置いたとたんに泣きはじめた。

 

「うっう、ぎやーーー」

「たっくん、もうちょっと寝ててよ」

抱きあげて右手で揺らしながら左手で抱っこ紐を外す。

「ぎえーー、ぎえーー」

「そうだ、ミルク作ろうか。ちょっと待ってて」

左手に抱きかかえたまま立ち上がった。哺乳瓶は台所に朝のものが置いたままで洗ったものがなかった。

 

「悪いけどちょっと座っててくれるかな」

テレビをつけ、ふわふわのベビー椅子に座らせる。

「ぎやーーー」余計に大きな声で泣き始めた。

「ちょっと待っててって言ってるじゃない。お母さんだって疲れてるんだから」

「ぎやーーー」

哺乳瓶は綺麗に洗って、熱湯で消毒しなくてはならない。こんな時に限ってお湯も沸かしていなかった。

「タロウ、待っててよ。お願いだから」

外はもう暗くなり始めている。まだご飯を作らなくちゃならないのに。トイレにも行きたいのに。

 

「いい加減にしろ! ちょっとくらい待ってられねえのかよ」

抱っこ紐を掴んでふすまの方に投げた。私ってこんな怒る人だったかしら。頑張っているのに、どうしたらいいのか分からない。こんなに泣いているのは私のせい? ベランダから子どもを投げ捨ててしまう人の気持ちも分かった気がした。自分も投げるか投げないか、ほんの少しのところで留まっているのかもしれない。

私は「もう、やだ!」とタロウに言い捨て、キッチンの床に座り込んだ。もっと怒りたい。しかってなんとかなるとか叩いてなんとかなるならそうしたい。でもこんな赤ちゃんに、そんな想いをするなんて私、おかしいんじゃないか。しかも自分の子なのに。もうお母さんなのに。顔をみたら叩いてしまいそうで叩いたら止まらなくなりそうでタロウに背を向けた。

(早く帰ってきて。私を止めて)

タロウも大声で泣いている。でももう抱き上げたくなかった。触ったらどうかなりそうだった。

カチャっと鍵があく音がして夫が帰ってきた。私は身を固くした。こんなに泣かせてどうしてるんだって怒られると思った。彼は私を通り過ぎ、タロウが泣いている部屋に行った。
「タロウ、お母さんの言うこと、ちゃんと聞かなくちゃダメだよ」
私は吹き出してしまった。

「そんなこと言って、分かるの?」

頬を手で拭いながら立ち上がり、湯沸かしポットに水を入れた。お腹がググ、と鳴った。

 

(了)