私の感受性が彼のそれを拾えたことが幸いだな、と思えてならない、結婚して間もない時期のエピソードです。
旦那さんは私と知り合う1年ほど前に、とある切ない経験を通して『今までは服装に無頓着だったけど、このままじゃいけないな。年相応なオシャレをしよう』との決意をしたそうで、ファッションに詳しかった当時の同僚に師事をして、自分の服装をガラリと変えたそうです。
彼と彼の両親が、私の実家に初めて挨拶へやってくる数日前に、彼から電話で『その同僚がオススメしてくれた、とっておきの服屋さんで選んだ一着があるんだ。店員さんにも相談に乗ってもらいながら決めたんだよね〜それを着て実家へ行くから!』と、声を弾ませながら話していたことを、今もよく覚えています。
詳しいことは尋ねなかったものの『そこまで言うだなんて····よっぽどの高級店か、知る人ぞ知るセレクトショップみたいな所で買ったのか?』と、思っていました。実家へ来た当日の彼の服装は、確かにいつも以上にキマっていたのでした。
そうして新婚生活が始まって、彼を仕事へ送り出した後に、洗濯カゴの中身を取り出していたら、その一張羅の白シャツが入っていました。
『いったい、どこのブランド物のシャツなんだ···?』と思いながらタグを見たら、見覚えのある《JOURNAL STANDARD》という文字が目に飛び込んできました。
ジ····ジャーナル スタンダード····??
オススメされたとっておきの服屋さんって、めちゃくちゃメジャーで、大学生御用達とも言われているブランドのことだったのか!(いや、オシャレには違いないのですよ!)
『有名どころのブランドすら知らないほどに、ファッションに疎かったんだ····』
そんな人が、将来となりを歩く女の人の為にも、新しい自分を迎えようって決意したんだよね、服を買った当時のことも、あんなに嬉しそうに話してさ····。
彼の気持ちの変遷を想像しただけで、愛おしさが込み上げてきて、洗濯機の前でシャツを握りしめて、悶えてしまいました。本人が直接的に手を下さなくたって、愛が一気に育つこともあるんだな····!
彼がもともとファッションセンスのある人だったら、はたまた服装への拘らなさを貫いていたら、この時、私の心を震わすことは無かったわけです。
やり方を変えることって時に勇気がいるし、そこで拗ねて、自分を曲げたりしないという信念の元に、何も動かさない人も居ます。
感性も、どこへ漕ぎ出すかも個人の自由だけど、譲れないばかりだったら、自分も周りもきっとしんどいはずに思う。
彼のかつての切ない経験についてを耳にした時は、私もとても悲しかった。でも彼はそれを超えて、あれよそれよの内に結婚を決め、私というパートナーへ、確かにときめきをもたらしてくれたわけです。
私はそんな彼を選んで、それと同時に彼は私を選んだ。そのことが嬉しくてならなくて『だからやっぱり、あの切なさも辛さも、きっときっと無駄じゃなかったんだよ····!』と、少しダサかった(であろう)時期のかつての彼に、このエールよ届けと願った。
そして『彼の相手が私で良かった。下手をすると見逃しがちな些末なことへ、光が当たったのだから』と、この世界で絶対に掬い上げるべきだったエピソードを拾えた自分に、誇らしささえ、感じたのでした。
Arisa