な、なんということ
前回、前々回と61話を2度続けてしまっていましたね・・![]()
数も数えられなくなったのかーい![]()
と思わず自分ツッコミが![]()
いいねを押して下さった優しい皆さま![]()
有難うございます![]()
今週は正しく62話です![]()
色々書くとボロが出そうなので今日はすぐ始めちゃいます![]()
***母というひと-062話
「探偵、決めたよ」
着手金と、以降の請求書は母に届くよう手配したので、それを伝えに母のもとを訪れた。
「ああ、助かったわあ。やり取りは全部あんたがしてくれるわね?
私は探偵やらとは話しきらんけん、あんた頼むねえ」
母は「悪いねえ」「頼むねえ」を繰り返す。
「あんたがおってくれて(いてくれて)本当に良かったわ。
お兄ちゃんはこんな事しきらんやろうけんなあ」
褒めているつもりなんだろうか、これは。
ため息が出そうになるのを抑えて、私はノートを出した。
「探偵の人がね、母さんが知ってることを全部知りたいって。
相手の名前とか電話番号とか、分かってるなら話が早いからって」
私の質問に、母の表情がまた険しくなる。
「名前なんか知らん。でもな、住んどる場所はちょっと分かっとると。
商店街の方じゃ」
「なんで知ってるの?」驚いて問うと、
「後をつけたんじゃ」と返ってきた。
唖然とした。私を見てもいない母は、この驚きに気づかない。
「あの朝うちに戻ってきてから、どうしてやりましょうと思うてな。
次の日に向こうに行って、あの人が家を出るのを待っとったんじゃ」
父の住むマンションの入り口前は4車線の広い道路だ。向かい側には学校や料亭など大きな建物が並ぶため見通しが良い。
身を潜めるような場所は無いはずだが、母はしばらくホテルを取って泊まり込み、父が出かける時間に目星を付けて、後をつけるために通っていたのだと言う。
(北海道へ行くまでの時間、そんなことをしていたのか)
それで、1週間のタイムラグに合点がいった。
なんという執念と行動力。
「私は弱い」と泣く人がすることなのか……。
思わず「それじゃ探偵を頼まなくても」良かったんじゃないの、と言おうとしたが、遮られた。
「途中で分からんごとなるんよ」
結局突き止められず、もう死ぬしかないと思い詰めたのだと。
(なんでそこでいきなり死ぬ話になるのよ)と言いたくなる。
昔から母はそうだった。
我慢して我慢して、ある日突然噴火して感情のままに怒鳴り散らす。
母のエネルギーは、常に感情だ。
判断の基準も、感情。
だから、行動に脈絡がない。
好きか嫌いか、腹が立ったか悲しいか、その場その場に噴出する感情に煽られて動くばかり。
どんな問題に対しても、建設的な解決策を見い出すことができないまま生きてきた。
この突発的な「死」の選択は、結局は母自身の生き方の結果なんだろう。
分かった、と言うしかなかった。
「今の話を伝えておくね。
何か分かったら電話するから」
そして探偵とのやり取りが始まった。
『安心してお任せください』
電話口で対応する男性はそう言った。
確か、まずは申込金とある程度まとまった額を払った気がする。
その費用でできるところまで調査し、必要なら追加する、そのような条件だったと思う。
父はもう引退した身で
母の話が確かなら、頻繁に相手の家を訪れているはずだ。
突き止めるには、そう時間はかからないだろうと思っていた。
しかし最初の連絡では
お父様は警戒しておられるのか、なかなか動きが見られません。
外出はされていますが、トレーニングジムと買い物に出ているくらいです。
とあった。
トレーニングジムも、買い物先も、こちらが伝えた情報そのままだった。
イレギュラーな動きは、歯医者へ行ったくらいだった。
母はその報告を受け、
「警戒して動かんのじゃね。いいわ、そのまま(後を)つけてもらって。どうせじきに行くじゃろう。
何としても突き止めちゃる」と息巻いた。
そして追加料金を振り込んだ。
今は多少警戒していても、そのうち我慢できなくなって動くはず。
母も私もそう思っていた。
しかし、そう簡単には進まなかった。
次の報告書でも相手の身元は分からなかった。
お父様は相当に警戒しておられるようです。
おそらく本日は動いたのではないかと思いますが
背後を何度も振り返り、複雑な道に入るなどして
まかれてしまいました。
大体の方角は絞れたと思いますので、
エリアを絞って尾行すれば、そう時間はかからないと思います。
どうしましょう?続けますか?
「続けますか」とは、「追加の振り込みをしますか」という意味でもあった。
「そこまで警戒して、尾行をまいてまで女の家に行きよるんかね」
母は激昂した。
「いや、尾行されてる事は気付いてないはずだから、わざとまいたわけじゃないはずだけど…」
それほどまでに警戒している父が、小物に見えてくる。
もっと堂々と生きてきた人だと思っていたのに。
「いいわ、明日振り込むけん、探偵の人にそう伝えておくれ」
私は言われる通りに伝え、また続報を待った。
母は父のコソコソと隠れ回るような行動に怒りを募らせ
その矛先は私に向いた。
それまで抑えていた感情が溢れて止まらないのだろう。
電話をしても会いに行っても、父から受けた非道な扱いをさめざめと泣きながら繰り返し繰り返し聞かされるようになった。
同じ話を何度も聞かされると、人間は精神が追い詰められるようだ。
次第に息苦しくなりはじめ、
(早く相手を見つけて、お願いだから)
と祈るような思いで次の調査報告書を待った。
けれど、現実はそんなにうまく進まなかった。
***続く
これはnoteから転載している、母の人生の物語です
ここまでの話はnoteで読めます
母というひと-001話(母の誕生から結婚生活まで)
母というひと-048話(私が家を出て、また戻るまで)
母というひと-051話(私が戻った後の母の人生)
けれど、現実はそんなにうまく進まなかった。
